2013年2月4日更新

罪を憎んで人を憎まず。社会支援で犯罪を抑止する「修復的司法」を提案

森久 智江
立命館大学法学部准教授
森久 智江(立命館大学法学部准教授)

松本記念ホール陪審法廷にて撮影

法学修士。1977年福岡県生まれ。2000年九州大学法学部卒業。同大学大学院法学府民刑事法学修士課程修了。2008年同大学大学院法学府民刑事法学博士課程後期課程単位取得満期退学。同大学大学院法学研究員助教を経て、2009年から立命館大学で現職。主な研究分野は、刑事訴訟法、少年法、刑事政策、犯罪学など。高校・大学を通じて演劇部に所属。そのキャリアが評価されて、龍谷大学法情報研究会主催によるミュージカル『ゆかいなどろぼうたち』のキャストに起用された(アバンティ響都ホールで2013年2月17日に公演)。「カルデモンメという村で捕まった3人の泥棒をめぐる面白いお話です。演劇経験者はほとんどいませんが、現役のソーシャルワーカーや元受刑者の方が出演していい味を出しているので、週末は練習に明け暮れています」
社会

悪いことをすれば罰せられる。刑務所に放り込まれても仕方がないと教えられてきた。しかし、現実はそれほど単純ではない。「近年は高齢の万引き常習者が目立つようですが、きちんと暮らせる場所と収入があれば、そんな犯罪に手を染める必要がないのです」と、森久智江は語る。

近年ではそのせいか、刑務所の服役者の約14%が60歳以上と高齢化が進み、認知症患者も少なくない。中にはあえて微罪の無銭飲食を犯して刑務所に戻ることを望む高齢者もいるという。こうなると、もはや矯正施設とはいえなくなってしまう。

「少年犯罪にしても、少年院在院者の7割以上が虐待された経験を持っているそうです。虐待、貧困、障がいなどボタンの掛け違いがいくつも連鎖した結果として事件につながる。その全てを個人の責任にできるのでしょうか。犯罪被害者と加害者という対立図式ではなく、社会全体が潜在的な被害者であり加害者でもあるとして、これまでの刑事司法や訴訟手続きなどを根本的に見直していくことが『修復的司法』という考え方なのです」

たとえば、オーストラリアでは、障がいのある犯罪者について裁判の段階で犯罪者にどんな問題があり、どのような社会的困難を経験したかを専門のソーシャルワーカーが報告する義務があるという。もちろん判決もそれが考慮される。応報的な罰を与える裁判ではなく、同じような背景や理由に基づいた犯罪を抑止するための、まさに「修復的」措置といっていいだろう。
「1970年~80年代に『脱・施設化』として障がいのある者などを社会に適応させる方針をとりました。しかし何のサポートもないことから犯罪につながるケースもあって、結局は施設から刑務所へと居場所が変わっただけではないかという反省から、こうした考え方が生まれてきたわけです」

日本では十分に浸透していない「修復的司法」だが、犯罪をした人が責任を負えるようになる前提として、社会との修復や生き直しが重要だと言う。「島根あさひ社会復帰促進センター(矯正施設)では、犯罪に至るまでの経緯を話し合うことで『生き直す』ことを模索しています。その過程を支援するために、司法と福祉との関わりにおいても積極的な制度提案をしていきたいですね」

AERA 2013年2月4日発売号掲載 (朝日新聞出版)

このページに関するご意見・お問い合わせは 立命館大学広報課 Tel (075)813-8146 Fax (075) 813-8147 Mail koho-a@st.ritsumei.ac.jp

ページの先頭へ