2013年2月9日更新
こちらを向いてほほ笑む望月茂徳の奥に、赤い郵便箱がある(写真)。その投入口にセンサーがあり、手紙を入れると『やぎさん郵便』など郵便に関係した懐メロがランダムに流れてくる。
「これを高齢者介護施設に置けば、手紙を入れるたびに懐かしい歌が聞こえるわけです。何の役にも立たないと思われるでしょうが、お年寄りの気分を変える遊び道具であり、その歌をきっかけに家族や施設のスタッフと会話が生まれ、新しい交流を育むことにもなるのではないでしょうか」
その手前で望月が指をかけているノートパソコンの画面に映し出されているのは、彼の子供がハイハイを始めた生後10カ月頃の動線という。
「息子の背中に小さなセンサーを取り付け、部屋で遊ばせたのですが、あちこちを行ったり来たり実によく動く。その移動の軌跡を線で表現し、動きに連動して色を変えてみました。これがすごく芸術的なんですね。赤ん坊の無作為な行動の面白さですが、それを客観的に見られることから、特に母親に新しい視点を提供できるかもしれません」
他にも望月は、体育館のような広い場所に大きなスクリーンを設置。乳幼児と保護者にセンサーを付け、たとえば「台風になろう!」と呼びかけると子供は体をくるくる回し、スクリーンの映像がそれに連動。さらに大型扇風機も動き出すといった楽しそうな仕組みも実現している。
これらは作品のほんの一部であり、車椅子の車輪をレコードに見立てて、DJマシンにしたこともあるというから斬新だ。「健常者にはできなくて車椅子だからできることがある。それこそがカッコいいことじゃないですか」と望月は語る。
さらりと紹介したが、これらの作品にはプログラミング言語による画像処理やインターフェースなどの高度な技術開発が隠されている。それによって「何かを触ると、何かが起きる」インタラクティブ・アートになっているのだ。
「高齢者介護や子育て、障がい者のケアには苦労が伴います。それをインタラクティブ・アートで解決できるとは思いませんが、気分を変えて、違う視点で現実を見直すことも大切。そのためには何よりも面白くなきゃいけない。それが問題解決につながるきっかけになると思うのです」
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