1982 年、滋賀県多賀町の霊仙山で立命館大学探検部が発見したが、その後所在が不明となり地元でも知られていなかった幻の洞窟「一風洞」。その洞窟を30 年の時を超え、同じ探検部の学生6 名が発見し、全貌を解き明かした。調査チームのリーダーを務めたのが岡坂遼さんだ。

中学生の頃には廃坑探検を体験し、立命館守山高等学校在学時には、すでに洞窟探検を始めていたという岡坂さん。当時から誰も見たことのないものを発見、解明することに魅力を感じていた。大学では学術的に探検を学びたいと探検部に入部し、ある時、知り合いの多賀町役場の方から「一風洞」の話を聞いた。「30 年間見つかっていない洞窟。探検部の先輩からの宿題を自分たちが解明したい」と、部からメンバーを募って2010 年6月に調査を開始した。

　　　
              30年前に探検部の学生が記した「一風洞」の報告書と地図

調査では、30 年前に先輩が残した報告書と地図を参考に洞窟を探した。コンパスを見て、山の地形と地図を照らし合わせる中で、洞窟の位置が違っていたことに気付く。地図を見直して、正しい位置を特定し、報告書の特徴と一致する竪穴洞窟を発見した。
しかし、発見してからが真の挑戦だった。洞窟の探検は危険と隣り合わせ。安易に中に入る訳にはいかない。岡坂さんは、メンバーの安全を保障するために、ロープの技術を1 年間勉強し、正しい技術を身に付けた。他のメンバーもそれぞれ、生物調査のための採集訓練、測量調査のために別の洞窟で測量訓練を行なうなど、知識と技能の習得に努めた。「一人で全部できる必要はありません。個々のレベルアップがチームの安全や新しい発見につながります」と岡坂さんは話す。
2011 年10月に満を持して、洞窟の内部や周辺の調査に挑んだ。準備はしていても、実際に生物や化石を見つけた時、すぐに種類を特定できるわけではない。分からない生物や化石は写真を撮り、持ち帰るなどして、インターネットや文献での調査を行なった。また、授業を受けていた骨考古学の教員、学芸員の方へ相談し、分析を進めた。そうした調査・分析の結果、希少種のハコネサンショウウオ、ニホンジカの全身骨格、そして洞内生物の生物相を見事に解明した。

　　　　　
                              発見したハコネサンショウウオ

「“探検” には探して検査するという意味があります。現地での探索だけではなく、発見したものを机上で調査・分析し、成果を報告しないと意味がありません」と岡坂さん。映像学部での勉強の中で、自分の発見や考えを分かりやすく人に伝えることの大切さを学んだと言う。新聞各社への成果の発信、多賀町立博物館での調査成果の展示、展示会での発表などを通じて、広い人脈や自分たちだけでは気付かなかった新たな視点を得ることができた。

　　　
                       ロープを付けて「一風洞」に入る岡坂さん

立命館大学探検部の強みを、「常に新しいことに挑戦していく“開拓心”です。実際にやってみると、予想外のことも起こります。そこで無知な自分に気付き、仲間と一緒に課題を解決していく魅力があります」と話す。将来の夢は、子どもたちの自然教育や山村留学に携わり、未知のものに触れ、解明する楽しさを後輩たちに伝えていくこと。
岡坂さんの未来への探検はまだ始まったばかりだ。