登丸 あすか

「市民とメディアをつなぐ人として - 教育・研究と市民活動の両立を軸に」

登丸 あすか

登丸 あすか

登丸あすかさんの研究テーマは、テレビなどの映像メディアを中心としたメディアコミュニケーションであり、とりわけメディア・リテラシーを専門としている。2010年4月より着任した文京学院大学人間学部コミュニケーション社会学科のゼミでは、テレビのドラマやニュースを題材に学生とのディスカッションを通して分析を進める。学生の主体性を育てるためにも対話を通した学びを重要視しているそうである。

登丸さんがメディア・リテラシーと出会ったのは、本学産業社会学部生の時に受講したメディア・リテラシー論の授業であり、後に大学院での指導教員となる故鈴木みどり先生によるものであった。当時、大教室での講義形式による授業が多い中で、テレビ番組を視聴した後、グループディスカッションを通して分析を深め、思考力を鍛えていくという作業は新鮮であり、自ら学ぶ姿勢をもつ契機になったという。

またちょうど同じころ、大学コンソーシアム京都が開講したインターンシップ・プログラムにも参加。受講生はインターンシップ先としてNPO、企業、行政の3コースを選ぶことができたが、登丸さんはNPOを希望し、ジェンダーについて学ぶため財団法人 大阪府男女共同推進財団が管轄するドーンセンターに9ヶ月間、週1日通った。ドーンセンターでの活動を通じて、メディアとジェンダーとの接点、市民とは何かという疑問をもつようになり、「メディア、ジェンダー、メディア・リテラシー」を基軸に研究を進めたいと考え始めたという。

学部卒業時の1990年代後半は就職氷河期。友人たちの厳しい就職活動を横目に「自分はもう少し勉強を」という気持ちで大学院へ。しかし大学院で求められることは予想より厳しく、海外で行った現地調査も思うようにデータが集まらなかった。それでも、「私の研究は相手あってのものだからうまくいかないときもある」となるべく前向きに考えてきたという。登丸さんは、メディア問題に関心をもつ市民たちによるメディア分析活動に参加しながら調査を行い、理論と実践の両面における研究を試みてきた。「メディア・リテラシーの研究は理論と実践の統合」という恩師の言葉が今でも彼女のフットワークを支えている。

また彼女は院生時代から指導教員が立ち上げたNPO法人FCTメディア・リテラシー研究所のメンバーとなり、市民向けのメディア・リテラシー講座の講師を務めることもある。「一般の人からは素朴な疑問が投げかけられる。例えば、メディア・リテラシーは何の役に立つのか?と。こうした質問は、自分の研究の位置づけを明確にする重要な機会であった」と振り返る。研究者同士だけで通じるメディア・リテラシーではなく、市民にも理解してもらえるような説明の仕方は大学教員応募時の面接にも役立ったそうだ。面接担当は必ずしも自分と同じ研究分野ではない。他分野の人にもわかりやすく自分の研究の重要性を伝えることが求められたという。

大学教員として文京学院大学に勤務して2年目になる。本学大学院修了後、3年間は非常勤講師として関西圏の大学で教鞭をとっていた。登丸さんは「非常勤も3年まで。それまでに専任ポストが決まらなければ、NPOでの専従や留学などキャリアチェンジも考えていた」という。JREC―INでは、「メディア」とキーワードを入れて検索をしていたが、なかなか求人情報にはめぐり合えず気持ちもどんどん滅入っていった。「自分の専門領域の狭さが反省点。教員になると自分の研究を基盤として多様な分野に対応できる教育力が求められるので、アピールの仕方が重要」という。

文京学院大学への応募時は、締め切り間際に友人に背中を押されて申請。応募書類には自分が関わってきた市民活動なども記入するよう工夫をし、小論文の準備や面接の練習にも友人が付き合ってくれた。「本題に入るまでの前置きが長い」と指摘され、研究成果のアピール方法を改善した。また、応募大学の教員の構成(年齢、男女比など)や専門分野、学生の特徴などを調べて面接前日には大学の下見もしたという。面接での質問事項は、博士論文のテーマやその後の研究の展開、学生にどんな教育をしたいかなど。「私より優れた研究業績をもつ人は他にもいたと思いますが、『自分が今までやってきたことを素直に話そう』とあまり緊張せずに臨めたように思います」。今なぜ自分が採用されたのかを振り返ると、「面接する側は同僚になる人を探しているので、『この人と働きたい』と思わせるような人間的な魅力と熱意をアピールすることが必要なのでは。学部生の就職活動と同じように大学教員にもコミュニケーション力が求められているので、所属研究室や同じ分野の研究者だけではなく、幅広い領域の人と積極的にコミュニケーションを取ってほしい」と言う。

大学教員の仕事は「研究と教育」だが、そこには学生の実習や留学、学生生活の支援なども含まれ、実に幅広い。若手の研究者は任期付のポストに就くことも多いので、就任した直後の数年間で一定の研究業績を積まなければならない。研究と教育の両立は本当に大変で、「6月の睡眠時間は、毎日3、4時間程度だった」という。それでも「学生との研究活動は楽しく、今後の目標はゼミ生と一緒にメディア作品を作ること」だそうである。

文京学院大学の大学院案内は、教員と学生がみんなジャンプをしている。いきいきとした躍動感は、紙面だけではなく登丸さんの言葉や雰囲気からも感じとることができた。
  • 2011年7月15日(金) 17:00~18:00 文京学院大学
  • 聞き手・文:櫻井浩子

プロフィール

2007年3月 本学大学院社会学研究科応用社会学専攻博士課程後期課程修了、博士(社会学)
2006年4月 ~ 現在 NPO法人FCTメディア・リテラシー研究所理事(2000年4月より研究員)
2004年4月 ~ 2009年9月 京都学園大学(2006年9月まで)、2004年4月帝塚山学院大学(2009年9月まで)、2007年4月京都女子大学(2009年9月まで)、2008年10月神戸学院大学(2009年9月まで)、非常勤講師
2008年10月 ~ 2010年3月 立命館大学非常勤講師
2010年4月 ~ 現在 文京学院大学人間学部コミュニケーション社会学科助教

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