生命現象を担っている主役分子は蛋白質です。生命現象の原理を明らかにするには関係する蛋白質の解析が必須です。最近の医学・薬学研究においても蛋白質の分子レベルでの解析が不可欠となっています。
本研究室では、その蛋白質の基本的な性質(構造・物性)を物理化学的に明らかにすることを目的としています。特に、各蛋白質が固有な立体構造を形成する原理「フォールディング問題や間違った折れたたみ(ミスフォールディング)の原因解明を大きなテーマの一つとしています。「フォールディング問題」は半世紀にわたる科学の一大テーマで、多くの研究者が取り組んでいます。ミスフォールディングは、プリオン病、アルツハイマー病など様々な難病の原因となり、基礎科学から医学にまたがる緊急性の高いテーマです。これに加え、関連する基礎研究(水と生体分子の分子科学)も進めています。
対象とする分子は、市販のものから、有機合成や大腸菌による発現も利用します。解析には、様々な装置(UV分光、蛍光分光、FTIR、円偏光二色性(CD)、ラマン分光、精密熱測定、NMR)を用います。さらに、理論的方法(分子軌道法、分子動力学計算)も活用します。また、本研究室の強力な武器は、上記の多くの装置で1万気圧を超える圧力下での測定が可能なことです。このような多種多様な高圧装置を有する研究室は世界でも類がありません。
原子および原子団の伸縮や偏角振動の赤外吸収を測定することにより、αへリックスやβシートなどの蛋白質の二次構造を明らかにする。高圧による測定が可能。
赤外分光法と同様に分子振動の情報が得られる。赤外分光法と比較して、アミノ酸側鎖やS-S結合に関する情報を得ることができる。また、水のラマン散乱が弱いため、水溶液中のスペクトルの測定に適している。高圧による測定が可能。
円偏光を利用し、蛋白質の二次構造をみることができる。感度が高く低濃度でも測定できる。FTIR、ラマンとともに使用することにより、構造の帰属が可能となる。
蛋白質に含まれるトリプトファン、フェニルアラニンおよび補酵素の紫外・可視吸収波長から蛋白質の水溶液濃度を決定するために用います。また、これらの吸収波長の温度、圧力、変性剤などによる変化を追跡することで、立体構造の変化生物活性などの変化を追跡するときに用います。
ニュートンの運動方程式を全ての原子について、数値的にコンピュータに解かせることにより、水溶液中での分子の挙動を見ることができる。
自由エネルギーをはじめとした、熱力学量も算出することができる。
古典的範囲ではあるがIRやラマンも算出できる。
X線結晶解析とことなり、蛋白質、ペプチドの水中における立体構造を得ることがでる。
物理化学における変数は温度と圧力です。日常生活で行っている通り、温度を制御することはたやすいですが、一方で、圧力を制御することは大変困難です。当研究室では、通常では考えられないほどの高圧を用いて研究を行っています。高圧の世界において物質は、1気圧下での我々の世界とは異なった性質を示します。下の写真は約1万気圧の圧力をかけることによって作られた「水に沈む氷」です。(マウスを写真に重ねてください。)1気圧下での氷は水に浮きますが、この氷は水に沈みます。このように、物質の性質を真に理解するためには圧力による研究が必要不可欠です。
左の図は圧力発生装置です。ダイアモンドを使用し、最大20万気圧まで加圧できます。
・人口設計ミニ蛋白質の合成と構造安定性に関する研究
・α型およびβ型設計ペプチドを用いた高圧力下における二次構造解析
・圧力ジャンプ法を応用した蛋白質のフォールディング反応
・αシヌクレイン(パーキンソン病原因蛋白質)のアミロイド線維形成に関する研究
・Aβ蛋白質(アルツハイマー病原因蛋白質)の断片ペプチドを用いた凝集機構の解明
・麻酔の分子機構:イオンチャンネルの活性に及ぼす麻酔剤の効果
・細胞膜中の蛋白質の顕微ラマン分光測定
・糖などエーテル単純分子のコンフォメーションに及ぼす溶媒効果
・分子動力学計算を用いたβヘアビンペプチドの水和構造
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