研究最前線

Vol.1
環境への負荷や環境と社会・経済の関わりを総合的に評価する

環境システム研究室天野 耕二 教授

[2013/10/01]

人間が生きているかぎり、資源・エネルギーが消費され、水や大気は汚染され、ごみも排出されます。大切なのは、どうやってバランスを取っていくのかを考えることです。環境問題は複雑で、「あちらを立てればこちらが立たず」ということがよくあります。化石燃料消費抑制による地球温暖化問題の緩和と脱原発の両立や環境保全と経済成長の折り合いをどのようにつけていくかなど、途方もなく悩ましい大問題を前にして、世の中全体を総合的に俯瞰することが求められています。

ライフサイクルアセスメントの考え方

ライフサイクルの流れ

ライフサイクルアセスメントに基づいた
環境マネジメント

いろいろな問題について、ライフサイクル(いわば、ゆりかごから墓場まで)全体を考えて総合的に評価するライフサイクルアセスメント(LCA)という重要な考え方があります。人間がいる限り、環境問題はなくなりません。現在のように社会・経済がどんどん複雑化していく時代に求められているのは、現実的な環境マネジメントです。たとえば、「地球温暖化の緩和を優先するとしたら、近くの水や空気が多少汚くてもいいのではないか?」、「環境保全と共存する社会経済を維持するために必要なコストは誰がどの程度負担すべきか?」というような議論ができるセンスが必要です。

太陽光発電の普及と電力取引の自由化は環境保全と経済成長を両立させることができるのか?

卸電力取引市場における家庭などの需要家・(分散型)電力供給者の行動予測のための基礎データの構築を進めています。近畿地方を対象として、GIS(地理情報システム)データおよび人口・世帯・住宅関連統計を用いて、100mメッシュ単位という非常に詳細かつ広域の、家庭の太陽光発電設置可能面積を推計するとともに、小地域レベルでの気象条件の推定を行い、小地域レベルの時刻別・月別発電量と、気候の差を考慮した時刻別・月別電力需要カーブを推計します。これらの結果により、小地域レベルの家庭用電力需給バランスの把握が可能となり、太陽光発電普及時の、小地域ごとの電力余剰・不足状況という、太陽光発電設置者にとって電力売買行動の指針となるデータを定量化することができるようになります。

季節別の電力自給率

季節別の電力自給率

キャッチフレーズは「環境問題のコンビニ」

専門性にとらわれず、研究に必要な専門分野は全て取り込んで、社会や経済の現実をとらえながら文理融合型の研究を試みているのが特徴です。浅くてもいいから、広い分野で積極的に議論することをとおして、解決するべき環境問題の優先順位がわかってきます。

パソコンを使った仮想電力取引市場の実験

パソコンを使った仮想電力取引市場の実験

教授プロフィール

環境システム研究室 教授

天野 耕二あまの こうじ

1982年東京大学工学部都市工学科を卒業して同大学院修士課程へ進み、数値モデルによる河川水質の予測手法に取り組みました。大学院修了後1984年からちょうど10年間、環境庁国立環境研究所において、河川や湖沼の水質データ解析に関する研究に従事しました。1992年9月より1年間は、フルブライトプログラムにより米国コロラド大学環境工学科客員研究員として水環境政策支援システムに関する研究を行っています。
1994年、環境システム工学科設立時に立命館大学着任の後、水質汚濁や廃棄物などに関わる大量の環境データの解析と評価、環境への負荷を総合的に評価するライフサイクルアセスメントやマテリアルフロー分析など幅広い分野での環境システム分析に関する研究を進めてきました。
研究成果の対社会的貢献に関しては、学会等を通したいわゆる「学術ルート」だけではなく、大学での講義や演習を通して、最新の環境研究知見を理解した多くの卒業生が社会で活躍することによる社会的な効果が大きいと考えています。特に、環境関連の仕事に従事することになる学生だけではなく、直接には環境問題に関わらない一般ビジネス分野に進む学生への環境リテラシー教育が重要です。国立の研究機関から立命館大学へ移籍した際にも、研究成果の教育による社会へのフィードバックが大学の重要な役割の一つであると強く意識してきました。
個別の汚染・汚濁防止技術だけでなく、現場の環境動態をシステムとして理解した上で的確な施策立案を支援し得るだけの能力を持った人材の養成が最優先目標です。

教員プロフィール
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天野 耕二 教授

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