壁みたいに急な坂!本当にこんな坂あるの!?
2023.10.16
なぜこの研究をしているの? どんなところが面白いの? 研究の源である「探究心」について先生に聞きました。
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北岡 明佳 教授
立命館大学 総合心理学部
- 急な坂道の錯視、ほんとに驚きました!不思議な錯視の研究に取り組んだきっかけは、何だったんですか?
- 最初は動物の知覚実験をしていて、サルの視覚にいろいろ刺激を与えてどのような反応が起きるかを調べていました。たとえば錯視を見せたときの、脳内でのニューロンの反応を調べたりしていたのです。その後、サルから人の錯視の研究へと移りました。人が相手ならサルに見せるのより、もっと面白い錯視を考えられます。しかも錯視とは視覚に起こる現象ですから、人間の視覚を深く知るためにも錯視の研究は有効だと思ったのです。
- 確かに錯視はとても不思議です。いろいろな錯視があってどれも興味深いのですが、先生はどんなときに「面白い!」と思うのでしょう?
- そもそも、なぜ錯視を起こすのか。そのメカニズムがわかると、人の視覚について深く理解できるのがなにより面白いですね。たとえば赤と青の輪っかの錯視を紹介しましたが、同じ錯視なのに、人によって立体的に見える色が違うなんておかしいですよね。その原因はおそらく、瞳孔の中心位置の個人差だと思うんです。
- そうか、個人差かあ。ひと言で「眼」といっても、その構造は人によって微妙に違いますよね。
- とはいえ個人差も含めて考えるとなると、錯視の研究ってとても「難しい」ものになりませんか?
- そのとおりですよ、だから面白いのです。私は錯視を思いつくたびに、自分でつくっています。だから新しい錯視がどんどんできる。もちろん、それぞれの錯視について、自分なりの仮説は立てています。ただ次から次へと思いつくから、一つひとつを論文にまとめている時間がない。難しいといえば、論文を書くのがなにより難しいかもしれません。その代わり、新しい錯視を思いついたら、とにかくホームページで公開するように心がけています。
- 先生のホームページには、すごくたくさんの錯視があります。
- テレビで見たことがあるものもありました!
- ふふふっ。錯視について検索すると、私のホームページが上位でヒットするようです。意外といえば歌手のレディー・ガガさんが、CDジャケットに私の錯視を使ってくれました。「使わせてほしい」と依頼を受けたときはびっくりしましたし、とてもうれしかったですね。
- 錯視はアートにもなるのかあ。いろいろ役に立ちそうですね。
- そうですね。錯視の研究が視覚の解明につながるのは間違いないと思います。まあ正直に言っちゃうと、個人的には何かの役に立てようとはあまり考えていなくて、とにかく「面白い」から研究を続けているのです。こんなこというと怒られそうだけれど(笑)
- つまり先生にとっては、面白いことが“探究”を続ける理由なんだ。
- 目に見えるものはすべて、錯視の対象になるかもしれないのです。「これって錯視じゃないか、一体どうなってるんだ」という気づきを出発点として、「もしかしてこうなってるんじゃないか」と仮説を思いついて確かめていく。これは面白いですよね。ミライさんもハテナさんも、「ひょっとして錯視じゃないか」と少し注意して見る習慣を身につければ、新しい世界が見えてきますよ。たとえば腕の血管は青く見えるじゃないですか。流れている血は赤いはずなのに……。どうしてでしょうね? ふふふっ。
