月に水はある?ない?

2023.12.26

なぜこの研究をしているの? どんなところが面白いの? 研究の源である「探究心」について先生に聞きました。

  • 佐伯 和人 教授
    立命館大学 宇宙地球探査研究センター
先生が宇宙に興味を持ったきっかけは何だったのですか?
小中学生の頃、NASAの惑星探査機パイオニアやボイジャーが木星や土星の観測に成功したというニュースを見ました。遠く離れた星まで実際に行って観測できるなんて、すごいじゃないですか。そんな宇宙探査ができるなら、ぜひ自分もやってみたいと思ったのです。
先生の専門は地質や鉱物を研究ですよね。宇宙とはどんなつながりがあるんですか?
私もはじめは、宇宙研究は天文学者しかできないんだろうなと思っていました(笑)ところが隕石研究は地質学者・鉱物学者の仕事だし、日本は世界で最も多く隕石のある国だということを知ったんです。それで隕石の研究をコツコツ続けていたら、隕石が飛んでくる小惑星を調べに行く「はやぶさ計画」が立ち上がって、隕石研究者として宇宙探査にかかわることができたんです。
そこから月につながっていくんですね。
そうですね。火山の噴火や地球内部でのマグマの流れなど、ダイナミックな現象にも興味があって研究をしていました。月も10億年ぐらい前までは表面で火山活動があったのですが、早い段階で冷え固まってしまい、今のような姿になったんですよね。だから地球を大人だとしたら、月は子どものままで成長が止まっているようなもの。月を調べれば成長のプロセスがわかります。しかも月は人が実際に行って探査できる。ワクワクしますよね。
研究が進んだら、月で人が暮らせるかどうかもわかるのかなあ。
でも月で暮らすって、そんな簡単な話じゃないよね。まず空気がないし……、あっ!でも水はあるんですよね。
観測データによれば、月の中でも「永久影」と呼ばれる太陽の光の届かないところには、水のある可能性が高いと考えられています。だから実際に月に行って穴を掘り、どれくらいの深さに水があるのかを確かめる計画が進んでいるんですよ。
月に行って穴を掘るって、とんでもなく難しそう。
もちろん簡単な話ではないです。月の岩石を採取して地球に持ち帰ることができればいいけれど、今のところそれは計画することさえ難しいです。だから月面探査機で正確に調査できるように、赤外線を使って観測する分光カメラを開発しています。本来は隕石などを電子顕微鏡で観測するのが私の専門だったのですが、月を対象に研究を進めるには、まず観測機器の開発から自分たちでやる必要があるんです。
月面探査機での調査の計画はあるんですか?
すでに2023年9月7日に小型月着陸実証機「SLIM」が、月に向けて打ち上げられ、3~4か月かけて月面着陸をめざしています。「SLIM」で着陸技術が実証されれば、次は月極域探査機「LUPEX」を使って、いよいよ月の水資源探査が始まります。この両方で分光カメラを活用したデータ取得を行う予定です。
月の水が確かめられる、そんな大発見がもうすぐ実現するんだ!
人が月で暮らすための条件が一つ、クリアされる。そうなると先生の研究も、どんどん進んでいきそうですね。
宇宙探査の世界は、これからとっても面白い時代になると思っています。そんな時代の新しい学問として提案しているのが「宇宙資源学」です。
宇宙の資源?
まずは月の水資源から始めて、月にあるはずの他のいろいろな資源も使えることがわかれば、月への移住が夢ではなくなります。月で人が普通に暮らせるようになれば、次は火星が目的地となるでしょうし、さらには太陽系のほかの惑星へと人間の活躍できる世界が広がっていきます。
うわ〜、映画の世界みたい!
はい、私もワクワクしています。「SLIM」が成功すれば、旧ソ連、アメリカ、中国、インドについで、日本は世界で5番目の月面着陸国となります。宇宙資源についての学問を進めていくと、世界をリードできる可能性は十分にある。地球での日本は小さな面積の国ですが、宇宙での研究の広がりは無限ともいえるでしょう。これから先、宇宙で一体何が見つかるのか、そう考えるだけうれしくなりますね。

関連リンク

トップページへ戻る