政策分析技法入門 第2講


第2講 四則演算と社会科学への応用

1.講義の目的

 ・インターネットを利用した文献・データ収集の重要性を認識すること。
 ・四則演算の社会科学への応用例(ここでは「政府資料」)を通じて、数学学習の重要性を再認識してもらうこと。政府資料の数学的表現を読む。
 

2. インターネットを利用した情報検索

 ・「官公庁 Web Server」の紹介
  首相官邸 ホームページ http://www.kantei.go.jp/
   官報、閣議案件などが掲載されている。 他の官公庁へのリンクが貼られている。
 
  経済企画庁のホームページの紹介・・・ http://www.epa.go.jp/
   大蔵省ホームページの紹介・・・・・・ http://www.mof.go.jp/

   昔は高額だった各種データが無料でExcelデータとして公開されており、自由にダウンロードして利用することができる。
  
 ・インターネットを利用した情報検索の長所と短所・・・インターネットが全てではない

   長所:膨大な情報量
      瞬時に情報収集が可能
      レポート作成などに有効利用できる

   短所:どの情報が役に立つ情報を検索するのに時間がかかる (膨大な情報量ゆえの短所)
      一覧性に乏しい (本や冊子の報告書のようにざっと目を通す事が難しく、全体像がつかみにくい。)
      論理的思考を弱める可能性 (インターネットは情報の寄せ集めであり、論理性が弱い。本を読んで論理性を身につける必要がある。)

 ・「政府資料」の重要性と問題点
   情報が豊富であり多様な論議のための「共通の素材」を提供している
   内容の「行間」を理解することが難しい
 

3.「平成12年度経済見通しと経済運営の基本的態度(H.12.1.28 閣議決定)」
 (以下、「経済見通し」と略す)の「別添主要経済指標」に利用される四則演算

 ・第147国会(H.12.1.20からH12.6.17=解散予定)は、通常国会であり、「予算審議」が最も重要な審議事項。
  予算審議に当たって、施政方針演説及び関連演説が行われる。

  (今国会では、衆議員定数削減法案可決をめぐり、憲政史上初めて野党欠席のまま施政方針演説が行われた。)

 ・施政方針演説のポイント:
   政治姿勢、経済運営(1%実質経済成長率の見通し、景気回復優先の財政運営)、教育科学技術、社会保障、安全保・外交、自自公連立・国会改革

   *景気回復優先の財政運営=景気回復と財政再建を両立できない・・・景気回復→財政再建の段階論

 ・ 施政方針演説に先立ち、「経済見通し」を閣議決定するのはなぜか。
   「政府は28日午前の閣議で2000年度経済成長率を実質で1.0%、名目で0.8%とした政府経済見通しと・・・・・・を閣議決定した。」
   
  1)財政政策運営の数字的目標を具体的に明らかにする必要がある
    :「民需主導の本格的景気回復」による経済成長率1%が実現できるように財政政策を運営する
  2)予算編成を行う場合、経済成長率の見通しが不可欠である。

  なぜ、経済成長率を確定してから予算編成を行うのか?

   予算編成は、「歳出」と「歳入」によって決まる。
   その「歳入」は「税収」によってほぼ決まる。
   「税収」は「経済成長率」によって左右される。したがって「経済成長率の見通し」が必要になる。

   閣議決定の紹介・・・経済見通しと経済運営の基本的態度(1/28)

 ・経済成長率はどうやって決定されるのか〜「主要経済指標」の見方

  1)国内総生産(GDP)の定義
     国内総生産=民間最終消費支出+民間住宅投資+民間企業設備投資+民間在庫品増加+政府支出+財貨・サービスの輸出−財貨・サービスの輸入

   <参考>
    国内総生産・・・・・・ある国について、その国内にいる人々の一定期間にわたる経済活動で生み出された付加価値の合計額。
    民間最終消費支出・・・家計と対家計民間非営利団体(私立学校等)が一定期間に行う財貨・サービスの取得に対する支出。土地・建物に対する支出を除く。
    民間住宅投資・・・・・家計による住宅建設費等。
    民間企業設備投資・・・機械設備など固定資本ストックの追加となる耐久財の購入。
    民間在庫品増加・・・・企業の有する製品、原材料等の在庫の物量的増減を年間平均価格で評価したもの。
    政府支出・・・・・・・政府最終消費支出+公的固定資本形成(公共投資のこと)
    政府最終消費支出・・・政府サービス生産者(公務、国立学校・病院等)による消費。政府サービスの生産額からサービス販売額(授業料等)を引いたもの。
    公的固定資本形成・・・公共投資のこと。

  2)名目と実質
    「名目値」とは、実際の額面のこと。
    「実質値」は、物価上昇率を考慮する。例えば、同じ金額(30万円)でも物価が2倍になれば、購買力は半分(15万円相当)になる。

    実質値=名目値/物価上昇率
 

  3)対前年度比増減率(経済成長率と同じこと)

    年度と年の違い
     年=暦年、1月から12月   年度=4月から翌年3月

    例;本年度経済成長率(%)(国内総生産ベース)=(本年度名目国内総生産−前年度名目国内総生産)/前年度名目国内総生産×100
                           =       名目国内総生産の増分      /前年度名目国内総生産×100 

  4)寄与度 GDPの増大に内需(国内需要)が寄与(貢献)しているか
    例;内需寄与度(% 名目)=内需の増分/前年度名目国内総生産×100

      各需要項目が前年に比べてどれだけ増えたか
        内需=輸出入を除いた部分
        外需=輸出−輸入の部分      全ての寄与度を合計すると経済成長率に等しくなる

  5)指数;ある基準時点を100とおいて、各時点の値を評価したもの
    例;鉱工業生産指数、国内卸売物価指数
 

4.「財政の中期展望」にみられる弾性値(弾力性)の概念
 ・税収(増加率)=名目成長率×弾性値1.1 の意味について
   1)ここでいう「弾性値」とは、正式には、「税収の所得弾性値」というが、

        税収の所得弾性値=税収増加率/名目GNP増加率(国民所得)

    と定義される。

    例;税収増加率=5%、名目GNP増加率=2.5%ならば、税収の所得弾性値は2になる。
      弾性値は、「増加率」を「増加率」で割ったものである。

    ここで、
        税収増加率=    税収増分     /前年度税収
             =(本年度税収−前年度税収)/前年度税収

    である。名目GNP増加率は名目成長率と同義で使用されている。
 

   2)「税収の所得弾性値」はこれまでのデータに基づいて推計することが可能で、ここでは、1.1とおいている(大蔵省)。
     すなわち、

        1.1=税収増加率/名目成長率

    である。この時、名目成長率が所与であれば、

        税収増加率=名目成長率×弾性値1.1

    を求めることができる。ところで、

        本年度の税収=前年度の税収+税収増加率×前年度税収

    結局、名目の経済成長率の見通しを閣議決定をすれば、税収増加率が決まり、その結果、本年度の税収見込みを求めることができる。
 
 

 ・予算編成の基本的フレームワーク
   1)歳出
    国債費(元金償還分と利払い=借金の元本と利子の返済)は、利子率と公債残高で決まる。
    地方交付税(所得税、一般消費税等を地方に一部還元する)は、基本的に名目成長率×弾性値1.2で決定。

    一般歳出を裁量により決定(予算編成の中心)
   
    13年度以降は、12年度の制度を踏襲して見込みをたてる

   2)歳入(公債金除き) 税収とその他収入で決まる

   3)公債金収入(借金による収入)=歳出−歳入(公債金除き)  歳入不足
     公債残高=前年度の公債残高−元金償還額+公債金収入  中央政府だけで364兆円  毎年30兆円ずつ増えていく
 
 
 

演習問題(第2講)

1.「主要経済指標」をもとに次の問に答えなさい。
(1)平成11年度名目国内総生産(実績見込み)が、495.2兆円になることを確かめなさい。
(2)平成12年度の名目経済成長率(GDPベース)見通しが、0.8%であることを確かめなさい。
(3)平成12年度の民間最終消費支出(名目)及び民間企業設備(名目)の寄与度をそれぞれ求めなさい。
 
2.「財政の中期展望」において、平成13年度の税収見込みを、弾性値のみを考慮して求めなさい。
  ただし、表中の数値「51.1」は税制の変化よる増減分を考慮しているので、必ずしもこの通りにならないことに注意しなさい。
 

 *解答


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