政策分析技法入門 第3講 (2000年4月20日)


第3講 関数とその社会科学への応用

1. 講義の目的
 ・関数は社会現象を説明するのに有用な分析概念であることを理解する。
 ・関数の基礎的概念を理解する
 ・関数の応用例として、「損益計算書」を取り上げ、関数の定式化について演習を行う。
 

2. 関数の意義と基礎的概念
 ・関数の意義
  複雑な社会現象の相互関係を関数を用いることによって数量的に明らかにすることができ、
  かつ、数量的に把握することができる

    例:C = 25 + 0.75Y(消費関数)(ここで、C:消費 Y:国民所得)

      C:消費は、Y:国民所得(GNP)に依存する  Yが決まればCが決まるという相互依存関係

      国民所得が100兆円であれば、そのうち75兆円が消費される。

    <参考>
     ここでの25(定数項)は、「基礎的消費」と呼ばれ、所得がなくても消費される、生活に最低必要な消費をさす。

 ・関数の諸定義について
    例:C = 25 + 0.75Y   C = a + bY

     定数:ある与えられた問題の中では、変化しない値(所与である)
      数字定数(例:25,0.75)と記号定数(パラメータと呼ぶ場合もある 例:a,b)

     変数:ある与えらた問題の中で変化する値
       説明変数(独立変数)(例:Y)=説明する変数、因果関係の『因』の部分
       被説明変数(従属変数)(例:C)=説明され変数、『果』

     係数:(変数の前に乗数として置かれる定数 例:0.75,b)

  ・関数の一般形と特定形
   一般形;独立変数が従属変数にどのような影響を示すか何も示していない。
   特定形;独立変数が従属変数にどのような影響を及ぼすか具体的に示している。

    例;Y = F(X) ・・・一般形、YがXの関数であることを示す。

         Y = a + b X         1次関数
         Y = a + b X cX2      2次関数
         Y = a + b X cX2 + dX3  3次関数

    社会科学では特定化の作業が難しい。
    *微分によって、関数の情報を得る場合もあるが、ここでは扱わない。
 
 

3.関数の応用例
 ・「決算書」の意義
  経営は、以下のプロセスの繰り返しである。

   PLAN(計画)→DO(実行)→SEE(反省・検討)  (生産、販売、人事、投資の計画→実行→反省)

  決算書は、SEEのプロセスで有用な情報を提供する。
  決算書は経営の総合的評価表であり、今後の経営の羅針盤となる。

 ・「決算書」の二つの種類
   『損益計算書(P/L)』  Profit and Loss
       儲けの状況を示す−その会社が1年間にいくら儲かったか(フローの概念)
   『貸借対照表(B/S)』  Balance Sheet
       財産の状況を示す−1年間の儲けの結果、財産はいくらになったか(ストックの概念)

  損益計算書が示すもの   収益 − 費用 = 利益(ここで収益は売上高を示す)
  貸借対照表が示すもの   資産 = 負債 + 資本
               資産:会社の財産
               負債:借金(返済義務がある)
               資本:株主が企業に投資をした金額(借金であるが返済義務はない)

        流動資産・・・1年以内に換金される予定の資産。現金預金、有価証券、棚卸資産など。
        固定資産・・・企業が1年を超えて使用するために保有している資産。建物、土地、備品、設備など。
        流動負債・・・1年以内に返済期限の到来する負債。支払手形、短期借入金など。
        固定負債・・・返済期限が1年以上先に訪れる負債。社債、長期借入金など。

    例:ダイエーとイトーヨーカ堂の貸借対照表比較  
     「決算公告」の事例
          イトーヨーカ堂・・・負債が少ない
          ダイエー・・・・・・負債が多い。資産の売却によって負債を減らす、自己資本率を高める。

               参考文献 「決算書がおもしろいほどわかる本」(石島洋一 PHP文庫)
 

 ・損益分岐点を探す

    <例題> 販売価格1台10万円のパソコン、固定費は450万円、1台あたりの変動費は5万円であったとすれば、損益分岐点を
      満たす販売台数を求めよ。ここで、損益分岐点とは損益がゼロとなる分岐上の売上高を示す。

   固定費・・・製造に必要な機械の費用、(短期的には)人件費などをさす。製造台数が変化しても費用が変わらないもの。
   変動費・・・部品代、原材料費をさす。製造台数に応じて必要になるもの。

  <解答> 総費用(TC) 販売台数(X)とすると
        TC = 450 + 5X (費用関数)
        450 + 5X = 10X(損益がゼロとなる条件式)
        X = 90 (損益分岐点をみたす販売台数)
 

演習問題(第3講)

 ある企業の固定費用(FC)は、生産量に関係なく600ドルで、可変費用(VC)は、生産量(Q)1単位あたり5ドルである。
(よって、総費用はTC=FC+VC と定義される)   (注:FC・・・Fixed Cost VC・・・Variable Cost)
 ここで、財の販売価格は、1単位あたり10ドルである。次の問いに答えよ。

  1)固定費用関数を求めよ。
  2)変動費用関数を求めよ。
  3)総費用関数を求めよ。
  4)総収入関数(TR)を求めよ。
  5)損益分岐点を満たす生産量を求めよ。
       (「入門経済数学 上」(E.ドウリング著 シーエービー出版 P.12 より)
 

 *解答


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