政策分析技法入門 第4講 (2000年4月27日)


第4講 指数的関数の社会科学への応用

講義の目的
 1)指数関数及び等比数列の基礎概念を理解する。
 2)指数関数は社会現象の長期的側面を分析するのに有用であることを理解する。
 3)住宅ローンの計算方法及び費用便益法に使用される「現在価値割引率」を理解する。

1.指数関数の定義
 1)次のような関数を指数関数という。

   a > 0、a ≠ 1 としたときの a
   a > 1 のとき、xの変化とともに急速にその値が大きくなる特徴がある。

   ここでは主に、a > 1 のときを用いる。 x = 0 のときかならず、y = 1 となる。
   携帯電話の普及率・・・94年ごろから急速に普及=指数関数的増大 (図1)            

 2)指数関数のグラフ

   (図2)
 

2. 等比数列
 1)数列の初項に、次々に一定の数をかけてつくられる数列を等比数列といい、その一定の値を公比という。
  例: 1, 2, 4, 8,・・・・    初項 1、公比  2
     5,−5, 5,−5,・・・・    初項 5、公比 −1
     9, 3, 1,1/3,・・・    初項 9、公比 1/3

    一般的に 初項がa、公比rの等比数列 (,a,a・・・,
          arar,・・・,arn−1
 

 2)等比数列の和の公式とその証明
  
      S=a+ar+ar+・・・・+arn−1
     rS=  ar+ar+・・・・+arn−1+ar  (両辺をr倍し、差を取る)
 

   r<1のとき
    (1−r)S=a−ar
           =a(1−r
         S=a(1−r)/(1−r)

   r>1のとき
    (r−1)S=ar−a
           =a(r−1)
         S=a(r−1)/(r−1)
 

   r=1のとき、Sn=na

3. 指数関数の応用1(複利計算)
 1)複利計算の方法  元金a円、年利率r%
   1年後の元利合計  a(1+r/100)
   2年後の元利合計  a(1+r/100)
   n年後の元利合計  a(1+r/100)
 

 2)事例;10万円の借金、利子率40%の場合
     1年後:10   ×(1+0.4)=14
     2年後:14   ×(1+0.4)=10×(1+0.4)=19.6
     3年後:19.6 ×(1+0.4)=10×(1+0.4)=27.44
     4年後:27.44×(1+0.4)=10×(1+0.4)=38.416
 
 
 

4.指数関数の応用2(住宅ローンの償還)
 1)住宅金融公庫のホームページ  http://www.jyukou.go.jp

 2) 例;「A円の住宅ローンをくみ、1年毎の末にx円ずつ返済して,n年で完済する(均等返還)計画をたてている。
     いま、年利率をr(少数表示)とすると、毎年の返済額はいくらになるか求めよ。」

   1年目の返済が済んだときのローン残額;A(1+r)−x

   2年目の返済が済んだときのローン残額;A(1+r)−x(1+r)−x           ←{A(1+r)−x}(1+r)−x

   3年目の返済が済んだときのローン残額;A(1+r)−x(1+r)−x(1+r)−x   ←{A(1+r)−x(1+r)−x}(1+r)−x

   n年目の返済が済んだときのローン残額;A(1+r)− x(1+r)n−1−x(1+r)n−2−・・・−x(1+r)−x

                     =A(1+r)−{x+x(1+r)+・・・+x(1+r)n−2+x(1+r)n−1

                                 (1+r)−1
                     =A(1+r)− x ━━━━━━━━
                                 (1+r)−1   ・・・初項=x、公比=1+r、項数=nで等比数列の和を求める

                                 (1+r)−1
                     =A(1+r)− x ━━━━━━━━  ・・・n年後の返済額残高
                                    r

   n年後の残高(式)が=0ということだから、
                           r
                    x = ━━━━━━━━ × A(1+r) ・・・n年後の返済額残高
                        (1+r)−1
 

5. 指数関数の応用例(現在価値割引率)
 1)事業評価の事例;道路整備の費用便益分析
    便益・・・人々の満足度や経済的利益を貨幣価値に換算して効用を表す。相対的なものを貨幣価値に換算して計算できる。
    便益が費用を上回れば、その公共投資は行われる。

 2)現在価値割引率
    現在の1000万円と30、40年後の1000万円は違う。
    40年後の1000万円を現在価値になおす。

  1000万円(現在価値)を保有する地方政府がこれを1%で銀行に預金する。
   1年後の将来価値(1年後の元利合計);1000万円×(1+0.01) =1010  万円
   2年後の将来価値(2年後の元利合計);1000万円×(1+0.01)=1020.1万円

  現在価値1000万円は、1年後の将来価値1010  万円に等しい。
  現在価値1000万円は、2年後の将来価値1020.1万円に等しい。

  現在価値=1年後の将来価値/(1+0.01)
  現在価値=2年後の将来価値/(1+0.01)

  将来価値を現在価値に変換するときの利子率を「現在価値割引率」という。

  政策評価を現在するための根本になる。
 
 

演習問題
(1)A円の住宅ローンを、1年毎の末にx円ずつ返済して、n年で完済する(均等返還)年利率をr(少数表示)とすると、毎年の返済額はいくらか。

(2)年利率が8%(r=0.08)のとき、100万円を借りて10年で返済するとき、毎年の返済額はいくらか。

(3)今ある地方政府が,ごみ処理機械の購入を検討している。このごみ処理機械は、価格が1000万円、耐用年数が2年であり、1年後及び2年後に
  それぞれ500万円、600万円の便益をもたらすと予想されている。この時、地方政府が、費用便益法のみにもとづいて購入を検討するとすれば,
  果たしてごみ処理機を購入するかどうか答えなさい。ただし、利子率は1%ととする。
 
 

 *解答


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