<始めに>
今回の実験は、目的に挙げたエデュテイメント性、そしてGPSの必要性を検証するために行われた。
当日のゲーム所要時間は午後1時から午後5時の4時間。埋ったポイント数は22個。1チーム平均4ヵ所のポイントを回ったことになる。たいていの修学旅行における自由時間は朝9時から夕刻の4〜5時で8時間ぐらいが平均。
1チーム6ヵ所ぐらいのポイントを回るのが理想。ゲームの合間に昼食をとる、寄り道をしてお土産を買う、ポイント以外の観光も十分にしてもらいたい。
最後に被験者にはアンケートをとった。
実験から得られた効果と展望
今回の実験において第一目的としていた「楽しく学ばせる」は以下のエデュテイメントに代表される3点で集約される。
1・エデュテイメントが実現
観光にゲームを取り入れることで、当所の予定通り、京都の観光地としての一つ一つの情報の新しい吸収の仕方を被験者に気付かせることができた。一連のストーリーのあるゲームは観光自体にストーリー性を持たせることできた。また、今回のゲームの独特のルールと他チームと争うという競合性は被験者の知的好奇心をくすぐるものであり、被験者は新しい観光のしかたに満足していたように思われる。
2・デジタルとアナログの融合の実現
ハイテク機器を持ちながら、現地に足を運び、目で見て話を聞くというデジタルとアナログの融合した世界を、我々が意図した通りに実現できた。これはもちろん出題されたクイズの性質に大きな要因があったのではあるが、日常ではなかなかできない「知らない人に話し掛ける」という行為も、ゲームという媒体を通すことによって自然にできてしまう、というところも特に大きかった点だと考察できる。
3・地域リソースのデジタルアーカイヴ化実現
京都の文化・歴史をまとめる作業によって、本当の京都らしさを伝えることの可能性を見いだせた。余談ではあるが、この作業を通じ、我々も日頃目にしていながら知らなかったこと、再発見させられたことが数多くあり、非常に有意義な時間を過ごすことができた。今後より深くアーカイヴ化を進めていくことで、訪れる観光客だけでなく、地元住人に対してもリアルな京都を見せていくことに繋がるであろう。
今後の展開としては、『子供と老人』というキーワードを設定する。 地元の小・ 中・高校などの教育機関や、お年寄りのコミュニティーと一緒にアーカイヴ化作業(ならびにゲームのクイズ作成)を進めていきたい。 なぜなら地元の小・ 中・高校などの教育機関を巻き込むことによって、 まず第一に彼等自身が地元の文化・歴史を楽しく学ぶことに繋がり、それを観光客にそのまま提供できるところにある。 またお年寄りのコミュニティーに依託し広がりを持たせることで、若者が知らない京都の伝承に繋がるというところにある。このことにより本当の京都の魅力をしっかりと把握し、より地域と観光客に密接に結びついたエデュテイメントが実現されるからである。
また、今回行った京都のアーカイヴ化作業の主旨からは少々外れるが、スムースな観光を考えるにあたって、 今後交通情報のアーカイヴ化作業も必要になってくるであろう。この点に関しては、現在色々と話題のITSとの関わりが考察でき、楽しみな所である。
<ルール>
ゲームの進め方
1・まず初めに獲得したい陣地にカーソルを移し、選択する。
2・その場所への行き方(拡大地図、交通情報等)が画面に現れるので、それに従い現地に向かう。
3・現地に着いたらARRIVEボタンを押す。
4・本部から送られてくる陣地に関する問題に答え、正解した場合にのみ自陣とすることができる。
※1〜4を繰り返すことによりゲームを進めていく。ただし、原則的に一度行ったポイントについては、同一チームによる次回以降の選択はできないものとする。
こんな時はどうするのか・・・
1 ・自分の陣地が全てとられてしまった場合。
・選択できる陣地がなくなってしまった場合。
→この場合、自分が現在いる場所に接している空白地を選択することができる。
2 ・選択場所が複数チームで重なった場合。
→先に選択したチームが一番目の解答権を得る。そのチームが不正解だった場合にのみ、次ぎに選択したチームが解答権を得る。
特殊イベントについて
1・自爆ポイント:あらかじめ2ブロックに設定してあるポイント。この場所での問題に不正解だった場合、今まで獲得した陣地が全て消滅する。
2・ラッキーポイント:あらかじめ2ブロックに設定してあるポイント。この場所での問題に正解した場合、この陣地以外に好きな空白地を無条件に得ることができる。
3・チャンスタイム:ある一定の時間がきたら、チャンスタイムが始まる。チャンスタイム中は、ルールに関係なくどこの陣地でも(他チームの陣地でも)選択することができる。
<クイズに関しての結果・考察>
今回の実験で陣取りゲームが、ソフトの面で面白いということは十分に検証できた。しかし、実験ということもあり不備な点が多くみられた。その中で、出題されたクイズに関して述べていきたい。
課題と改善策
京都の歴史・文化に関するというクイズ設定であったが、場所や答えが曖昧なものがいくつか含まれていた。 クイズの作成は、文献資料によるものが殆どであったために、実際に現地に赴いて作成しておらず、答えが違うものが含まれていた。反省点として、クイズ作成にもっと時間をかけるべきであった。
今回の実験では、文章問題ばかりであったが、映像、音声などを取り込んだ問題を作成する事により、より変化に富んだクイズが生まれ、エデュテイメント性も高まっていくことが考えられる。
ポイントによってクイズの難易度にばらつきがあり、チームによって正解率が変わっていった。このことは、逆に利用すれば重要となるポイント(角)を意図的に難しくすることでさらにゲーム性が高まっていく。
システムとの関連であるが、クイズが出題されるポイントまでの詳細地図が必要であった。実験時のシステムではGPSを使用しないために詳細地図が出なかったが、GPSを使用すればこの問題は解決される。
以上がクイズに関するまとめである。今後の展開に関しては、社会的な広がりを持たせるための一つの例として、地域の小・中・高校、コミュニティー、またはお年寄りの人々と協力して問題を作っていくことで、より地域に根ざしたものになっていくことを期待する。
<GPSの必要性/便利性の検証>
・カーナビの代わりになるので、地図上での自分の位置を把握しやすくなり、目的地への移動が安易になる。
・他のチームの行動を見ることができるので、作戦をたてやすくなる。
・GPSがあることでシステム上今回設定した本部をなくし、端末だけでゲームを楽しむことが可能になる。
・目的地への説明は十分という結果が出ている。しかし今回の被験者は立命館の3・4回生で、ある程度の土地感があったことを考えると、初めて京都に来た修学旅行生には不十分な点があるという意見がアンケートから得られた。細かい建物や通りの名前や住所の情報が必要と思われる。また、今回はGPSの必要性の検証を実験によって行ったのだが、地図上で自分の位置を確認できるという意味で、GPSの必要性/便利性が高いと思われる。
<アクセス>
アンケートから明確なように、今回の実験においてアクセスにかかる時間はかなり長く、被験者は困惑したようである。原因としてページデザインの重さが指摘されるが、これは容量の大きい機材を用意することで解決できる。しかし、GPSを搭載すれば本部機能自体がなくなるので、このアクセスに関する問題は解決される。
<通話エリア>
清水寺や烏丸六角付近など、ごく一部の地域で電波が入りにくい場所があった。これは我々ではどうすることもできない。このような場所を実際に回るポイントから削除することも一つの方法ではあるが、十分に観光と勉強もできるようなポイントであるのでもったいなく、この方法は難しいと思われる。ただ、この問題はGPSを搭載すれば解決される問題である。
<交通>
今回の実験では市バスと地下鉄の一日乗車券を利用した
アンケート結果によると、移動地域が地下鉄の通っている市の中心地に集中していることがわかる。その理由としては次のことが考えられる。
・交通の便がよく、移動しやすい
通る範囲は限定されているが、渋滞や遅れがない地下鉄の方がバスよりも好まれている。
・陣をとりやすい、とらざるを得ない
初めの各チームの陣地の設定上、中心からの広がりになってしまう。
またバスと地下鉄で移動はおおむね十分という結果だが、上記のようにバスは渋滞やそれに伴う遅れがあるため、それに対応できるよう迂回できるようなバスのルートを伝えるなどの工夫も必要であろう。
この点に関しては現在話題のITSとうまく絡めていけるのではないだろうか。
<全体を通して>
我々のこのプロジェクトとしての狙いは『修学旅行生がゲームをしていると、知らず知らずの間に観光し、勉強もできていた』というものである。アンケートの結果からわかるように、ゲームはとても楽しく勉強にはなったということであるが、観光とゲームを兼ね備えさそうとしたこの『京都陣取ゲーム』は、名前の如くゲーム中心になり、観光はできない、あるいはしないという状況になってしまった。理由としては、「ゲームに気をとられてしまう」「観光する時間がない」というものが挙がっている。ではどうすれば、少しでも観光色をもう少し強めることができるだろうか。対策を考えてみた。
1.ポイントを減らす
今回我々がセッティングしたポイント数は6×6の36個でる
・範囲は変えずに5×5の25個に減らす
これは最も手っ取り早い方法ではあるが、範囲を設定するのための通りと、1ブロックの広さの関係、また、理想とする1チームあたりのポイント数を考えると、少なすぎ難しい。
・ポイントの数はそのままで、ルールの変更によって実際に現地へ行って問題を解くポイントを減らす。
これはどこか他のポイントを獲得するとボーナスで特定のポイントをもらえるというものにルールを変更することである。このことによって、一部観光に適さない場所や問題になってしまうポイントに実際に行かなくてよくなり。同時に少しでもゲームに割く時間を減らすことが可能になるのではないだろうか。
2.休憩時間のセッティング
今回のゲームのペースから考えると、6ヵ所を回るには8時間だと十分すぎるぐらいの時間があるので、あえてルールによって休憩時間をセッティングし、ゲームを中断させることも可能ではないだろうか。あるいは半ば半強制的ではあるが、特定の時間帯は問題を解いて次に進めないようなシステムを組んでしまうことも、一つの方法ではある。ただどの場合でもやはりゲームにどうしても気がとられてしまうことが予想されるので、例えば「しばらく回りのチームがある程度ポイントを埋めてからまとめて大きくポイントをゲットするのも手だ」などという、戦略方法を教えるなどという工夫が必要になるであろう。
<ある被験者からの感想>
先日11月14日に実験に実際に参加して、確かにこれは面白いと思いました。ゲーム自体は大変おもしろかったのですが、サーバへのアクセスが非常に不安定でその点ゲームの面白さが損なわれていくのは否めないところでしょう。あとやはりMacを持ち歩くのは非常に辛く、京都市内中を移動するのには不向きかと思われます。そして京都に始めてきた人には、いくら案内図で見てもどちらを向いているのか、いっぱいあるバス停のどの地点から降りたのか分からない場合があるかもしれません。
不満な点はそれくらいにして、良かった点を述べていきます。やはりオセロを実体験版みたいなものでやるというのは面白い発想だとおもいました。問題自体もその場所に行かないと分からなかったり、人に聞いてみたりと人とのコミニュケーションも十分にとれて良かったです。ゲームで僕らは最下位でしたが、楽しい一日を送れて満足でした。