佐藤満HomePage] [「政策科学と政治過程論」目次

「政治過程」から「政策過程」へ


 旧来の行動主義的な政治過程論が政策内容に論及することが少なかったことの理由としては、一つには、価値中立性というものが重視されたということもあるが、政策が過程の従属変数である、と考えられたことも大きい。政治学的にみて意味のある政策上の違いは、すべてその政策を作り出した政治過程を調べさえすれば説明できるということなら、価値中立の問題や関心の拡散の問題をもつと考えられる政策の内容に踏み込むことは避けた方が賢明だからである。この点に関してラニーは、政策内容への言及を多くの政治学者が避けて来た理由を二点に整理して、以下のように語っている。
 「第一に、内容に注目することは明らかに、現在の政策に対する評価を与えることや将来の政策について推奨したりすることに繋がりやすいと、多くの行動主義的政治学者には考えられた。評価や推奨は科学的な事業にはなじまないばかりか、真の学問から研究者の関心とエネルギーを奪い、拡散させてしまう、と考えられたのである。第二に、あまりに多くをやろうとしすぎて、研究自体が薄く広がりすぎることを警戒したのである。つまり、政策内容に取り組むことはあまりに多くを求めすぎる、それをきちんとやろうとすると政治学者は対象にしている領域の政策内容の専門家になることを求められるであろう、というわけである(Ranney, p.12)。」
 行動論的政治過程論の主たる学問的関心が政治過程の記述と説明にあり、政策内容それ自体を分析の対象にしても、問題ばかり多くて政治過程の理解には寄与しないし、従属変数としての政策は独立変数たる政治過程を研究することにより理解できると考えられていた。ゆえに、長らく政策内容は政治過程論の研究者の研究対象とはなって来なかったのである。
 しかし、こうした前提が崩れて来ると、政治過程の研究は政策を正面に取り上げるようになって来る。政策内容自体を理解するために、というのではなくて、政治過程の理解を深化させるために政策内容についての検討が必要である、という認識がうまれてきたのである。サバティールの整理によれば、政策に注目した研究者達が政治過程の理解をより進めるために付加した新たな視点は以下の5点である(Sabatier, pp.33-8.)。
 第一に、政府機関をまたがって存在する政策コミュニティ、もしくはサブシステムの重要性、第二に、実質的な政策内容にかかわる情報の重要性、第三に、政策エリートが果たす決定的な役割、第四に、10年以上にわたる長い視野を持った特定の政策にかかわる事例研究の重要性、そして第五に、政策類型によって異なる政治行動の多様性、である。以下では節を改めて、これら5点について簡単にまとめてみよう。

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