結晶セレン薄膜を用いた光電変換の研究

光導電効果は1873年にW. Smith がセレンを用いて発見しました[1]。その後、1883年にアメリカの発明家のCharles Frittsがセレンを半透明な薄い金箔でサンドイッチした構造を用いて世界初の固体光電池を開発しています。結晶セレンは可視光での光吸収係数が従来Siの約100倍と極めて高いことが特徴です。室内照明環境下での光電変換効率の理論限界は単接合の素子では最大(約60%)になると期待されています。ポリマーフィルムの上にでも製作が可能であり、照明を利用した軽く柔らかい発電素子への応用が期待されます。(立命館大学研究シーズ集リンク)また、比較的低い外部電圧(約3V)の印加時に電子なだれ増倍現象(アバランシェ効果)が起こり高い光信号電流が得られることからイメージセンサ用高感度フォトダイオード(以降PD)の有望な材料と考えられており、次世代ハイビジョン用イメージセンサ材料としても期待されています[2, 3]。

本研究室では結晶セレン薄膜を用いた小型で高効率な光電変換素子を実現するための微細加工および薄膜物性の研究に取り組んでいます。本研究室では光強度や波長分布のセンシング応用のために有用となる光センサの小型化およびアレイ化に取り組んでいます[4, 5]。比較的低温 (約200 ℃) で蒸着成膜できることから、異種基板や信号処理チップ上への集積化への応用も期待されます。本研究は文部科学省 科学研究費 基盤研究(C) 18K04914による助成を受けております。ここに謝意を表します。

参考文献

[1] W. Smith, “Effect of Light on Selenium during the passage of an Electric Current”  Nature(1873)

[2]   T. Nakada et al.,: “Integrated selenium color sensor and its application to a color recognition system”, Sens. and Act. A, Vol. 40, pp. 117-119 (1994)

[3]   S. Imura et al., : “High-sensitivity image sensors overlaid with thin-film gallium oxide/crystalline selenium heterojunction photodiodes”, IEEE Trans. Electron Devices., Vol.63, No.1, pp.86-91 (2016)

[4] 足立悠輔,小林大造,” 結晶Se薄膜マイクロフォトダイオードを用いたフィルム型フレキシブル光センサの作製とその応用”, 電気学会論文誌E 140 (12) , pp.363-368, (2020)

[5] 足立悠輔,小林大造,”結晶セレン薄膜を用いたマイクロ可視光センサのためのパターニング技術の開発”,電気学会論文誌E, Vol. 139, Issue 4, pp. 75-80, (2019)

 

酸化チタン光触媒薄膜の研究

光触媒は水素エネルギーのゼロエミッション生成やバイオメディカル応用に有望な機能材料です。光触媒材料である酸化チタン薄膜は、紫外線照射により発生した光生成キャリア(正孔、電子)とラジカルが表面で各種反応を起こし、例えば、水の吸着サイトとなる酸素空孔が増加して超親水性を示します。他にも光照射による酸化還元反応を利用した水分解反応(水から水素、酸素を生成)や抗菌反応(菌、ウイルスの有機膜を破壊し、不活性化)も有用なアプリケーションです。本研究では、光生成キャリアの表面の局在化を促進して光触媒反応を制御する試みや、これらの光触媒反応の活性化のための膜構造制御(例えば表面積を増やす)、組成比の制御、結晶構造の制御に取り組み、新規で高性能な光触媒の研究に取り組んでいます。光触媒による濡れ性制御の研究については文部科学省 科学研究費 若手研究(B) 16K17505による助成を受けております。光触媒を用いた水素生成の研究については第37回マツダ研究助成(公益財団法人マツダ財団)の助成を受けております。ここに謝意を表します。

 

参考文献

[1] 瀬川悠太,小林大造,”分極制御によるTiO2薄膜の光応答型濡れ性変化の促進 ”, 電気学会論文誌E 141 (7) , 141巻 7号、 pp.222-227, (2021)

[2]  瀬川悠太,小林大造,”TiO2 薄膜の分極制御による光応答型濡れ性変化の促進” , 第37回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム ,2020年10月27日 (速報特別賞)

[3] 佐伯翔, 山本健輔, 小林大造, "多孔質TiO2光電極を用いた水分解リアクターの高効率化",  電気学会全国大会  2020年3月13日

[4] 瀬川悠太,小林大造,”Se/TiO₂光電池を用いた電圧印加による光触媒表面の光誘起親水化反応の促進”,第36回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム,2019年11月19日

 

ピエゾフォトトロニクスの研究 -曲げると光起電力が変化- 

本研究室ではピエゾフォトトロニクス効果(圧電-半導体-光励起の相乗効果)を用いて “曲げると起電力が変化する薄く柔らかい光発電デバイス”の研究に取り組んでいます。太陽電池やフォトダイオードではPN接合を用います。片側に圧電性半導体(ひずみを加えると分極が生じる材料)を用いることで、ひずみ印加時には光電流の取り出しに関わる障壁の大きさが変化し、光起電力が変化します。従来はエネルギーバンド制御の手法として不純物の添加や混晶化が用いられていますが、組成比や結晶構造の変化により材料の電子物性が変化し性能低下する場合があります。本研究では酸化亜鉛系圧電半導体にひずみを印加して圧電分極電荷を接合界面に発生させて、P型結晶セレンに対するバンドオフセットを変化させる手法をはじめとした各種の研究に取り組んでいます。これまでにPETフィルム上に酸化亜鉛系窓層/結晶セレン光吸収層による薄膜光発電デバイスを形成し、基板を曲げることで光起電力を顕著に変化させることに成功しています[1]。 2023年度 研究助成A(公益財団法人 立石科学技術振興財団)の助成を受けております。ここに謝意を表します。

参考文献

[1] J. Fujimura, Y. Adachi, T. Takahashi and T. Kobayashi, "Impact of piezo-phototronic effect on ZnMgO/Se heterojunction photovoltaic devices" Nano Energy, Vol. 99, 107385 (2022)

 

フレキシブル透明導電膜の研究

鉛筆の芯で馴染みのある炭素原子“を六角形格子状に原子1層でシート状に形成したものをグラフェンといいます。これは地球上に存在する最も薄い物質で、高い強度、伸縮性を持ち、電子の移動度が極めて高く、光も通す興味深い物質です。ガラスをイメージすればわかるように、従来の透明な無機材料は一般に脆い性質を示しますが、グラフェン系材料は柔らかく曲げられる上、導電性を持ちます。太陽電池やLEDのようなオプトエレクトロニクス素子を曲げられるフィルム型にすると様々なメリットがありますが、無機系の半導体や透明導電材料は脆いことが課題となります。自由自在に曲げられる透明導電膜は様々なフレキシブルデバイスへの応用が期待できる機能材料です。以下は銀ナノワイヤとグラフェンをハイブリッドしたフレキシブル透明導電膜の一例です。

 

参考文献

[1]  赤阪美保、野口雅彦、小林大造、 "銀ナノワイヤ/グラフェンを積層した透明電極の作製とフレキシブル光発電デバイスへの応用"、 第40回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム、2023年11月6日 (奨励賞を受賞)