トヨタ自動車株式会社 櫛濱斎廷

Biographi
  • 2003年理工学研究科 情報システム学修了
  • 2003年トヨタ自動車株式会社に入社
  • 趣味 月1 回のペースで高校の友達と草サッカー。大学ではサークルにも入っていた。

クリーンで自動制御…近未来カーを自らの手で。

考える力、考え抜く力。そして、一番は興味を持つこと

 これらが『仕事に取り組む上での大切なスタンスだ』と、櫛濱斎廷は語る。しかし、少年時代の彼にとって、クルマは興味の対象ではなかった…。

 「意外な話かも知れませんが、正直、全然興味がありませんでした(笑)。親が自営業でクルマと言えば、バンだったんです。だから、高級品というよりは仕事道具。子供の頃は世代的にもロボットアニメが好きでしたし、立命館も最初はロボティクス学科を志望していたんです」

 そんな櫛濱がなぜ“世界のトヨタ”へステップアップしたのか…そこは実に興味深い。もちろん、きちんとした理由が彼にはあった。

 「大学のゼミは、田中先生のコンピュータビジョン研究室でお世話になりました。最初は画像処理の研究をやっているところだって聞いていたんですが、実際に入ってみるとロボットがズラリと並んでいる(笑)。カメラやセンサーをロボットアームに取り付けて、バーチャルリアリティな世界をより現実的、もしくは実用化に向けて研究をしていたんです。最後まで明確に理解できない点もあったんですが、ここでの研究生活がトヨタへ進むきっかけになったことは言うまでもありません」

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一体、クルマのエンジンはどうやって動いているのか?

 加えて、大学で知った“自動制御”という技術が重要なキーワードになっている。さらに、トヨタで仕事を始めた頃、櫛濱はある驚きからクルマへの興味がより高まっていく。

 「大学での研究を始めてから、機械の自動制御に興味を持つようになっていました。特に、クルマの自動制御運転なんて、近未来的で興味を持ちやすい。そして、私の地元がトヨタのお膝元だったので、結果的にここへ就職したんです。だから、“クルマを作りたい”というよりも、『最先端の自動制御技術の開発に携わりたい』との気持ちが強かった。しかし、実際に配属されたのは、今も働くエンジン技術部。それがわかった時には、『機械畑の出身じゃないのに…』って多少の不安もありました。けれども、仕事として改めてエンジンルームをのぞいてみると、良い意味での驚きと気づきがあったんです」

 『一体、クルマのエンジンはどうやって動いているのか』。言わば、最先端のエンジン技術を体感して、櫛濱のクルマ観は大きく転換した。

 「今のエンジンは機械のかたまりであり、そして、電子制御のかたまりなんです。エンジンにはいくつもの基盤やセンサーといった電子部品が組み込まれ、そしてコンピュータ制御されています。つまり、IT なしに今のクルマは動かない。さらに私が目指した自動制御運転も成立しない。まさに、大学で培ってきた知識や経験を活かせるフィールドでした」

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オフィスにいるよりも、テストコースが自分の現場

 今、櫛濱はエンジン開発の一翼を担っている。彼が開発するものは、エンジン用のソフトウェア。ただし、朝から晩までパソコンと向き合っているような仕事ではない。

 「私が携わっているのは、エンジンの不具合を検知するソフトウェアの開発です。これは日本に限らず、北米や欧州など世界各国で販売される新車に搭載されるもの。基本的には2年先の発売を見据えて開発は進められ、私の依頼で協力会社が製作したソフトウェアをチェックし、実車テストをくりかえしながら、より理想に近いチューニングを施すのです。そのため、オフィスでパソコンを叩いているよりも、テストコースでクルマを走らせ、工場内でエンジンのベンチテストをする時間が長いと思います。そして、エンジン開発では社内や協力会社との連携が不可欠ですので、予算管理や関係者との調整といったマネージメント的な役割もこなしていますね」

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粘り強く考えた結果で得られる苦労からの開放感

 そう語る櫛濱に、この仕事の醍醐味やこだわりを聞いてみると・・・、冒頭に記した“考える力”“考え抜く力”の意味が明確に理解できた。

 「テストをしていると、収集データだけでは理解できない、または判断できない問題が出ます。それが機械的、もしくは物理的な問題ですと、専門ではないので解決に苦労します。しかし、限られた時間の中で粘り強く考えて、いろいろな推論を出し、さまざまな意見を聞いて、ベストな答えを選択する――それで結果的にすっきりと解決できた時は本当にうれしいんです。確かに何年もかけて開発した新車が発売された時の達成感もありますが、それは私たちエンジニアがこうした苦労の積み重ねて得られた結果なのです。どんなことでも良いから、いつも考える癖をつける。今思えば、学生時代に身につけたスキルなのかも知れません」

 最後に、櫛濱が描くエンジニアとしての将来像を語ってもらった。

 「トヨタの先端性、技術力、さらにはメーカーとしての総合力。すべてで一番でいるとの自覚は持っています。ただし、トヨタ=クルマとの固定されたイメージはなく、チャンスがあるならば、他のセクションで産業用ロボットの開発に携わりたいとの気持ちもあります。それでも、今はクルマですね。自動制御運転はもちろん、ゼロエミッションで完全にクリーンなクルマ。もっと言えば、エンジンに代わる何か新しい技術を創造する…そんな開発に関われたならば、本望だと思います」

自動制御運転

次世代の技術と思われがちだが、すでに一定の速度で走行するクルーズコントロールなどで自動制御化は実現されている。その他、運転者の目の動きで車を制御するなど、さまざまな研究が着々と進められている。

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  • クリーンで自動制御…近未来カーを自らの手で。
  • IT技術を駆使し、社会基盤設備に貢献する。
  • 次世代型の検索サービスを目指して。