2015年度 音楽関連団体共同寄附講座

エンタテインメント・ビジネス産業論

  • 第1回  4月10日 三枝 照夫先生     開講オリエンテーション

    三枝 照夫(さえぐさ・てるお)先生

     

      株式会社フリーダム 代表取締役

      立命館大学 客員教授

    プロフィール

     1951年4月 神奈川県横浜市生まれ

     1975年3月 早稲田大学商学部卒業

     1975年4月 日本ビクター株式会社入社 後 ビクター音楽産業株式会社出向

                  (現在は各々、「JVCケンウッド」「ビクターエンタテインメント」に改称)

     1999年6月 取締役に就任 第1制作宣伝本部長

     2002年6月 代表取締役に就任 専務取締役に就任

     2004年1月 代表取締役専務取締役 兼 JVCエンタテインメント・ネットワークス株式会社CEO(代表取締役)

     2007年6月 取締役会長 就任

     2008年4月 取締役会長 担当 邦楽制作統括

     2009年1月 取締役会長 兼 ビクターミュージックパブリッシング株式会社 代表取締役社長

     2010年1月 アドバイザー(相談役)就任

     2010年7月 株式会社フリーダム設立 代表取締役就任~現在に至る

     

    担当したアーチスト

     松本伊代、小泉今日子、荻野目洋子、酒井法子、SMAP、Kiroro、19、広瀬香美、 LOVE PSYCHEDELICO他、現在は石井聖子

    講義概要

     

     開講オリエンテーションは、立命館大学産業社会学部の竹内謙彰副学部長の挨拶から始まった。講座の成り立ちを簡潔に紹介し、今年度も一般社団法人日本音楽出版社協会・一般社団法人コンサートプロモーターズ協会・公益社団法人日本芸能実演家団体協議会・実演家著作隣接権センターからの寄附により成り立つと話した。昨年度より元ビクターエンタテインメント株式会社取締役会長の三枝照夫氏を客員教授とし、著作権やコンテンツ関連産業の未来を探る講義である。社会科学的な知見や文化産業を探る、産業社会学部らしい授業であると述べた。続いて、立命館大学産業社会学部の粟谷佳司准教授より、受講に当たっての注意事項などガイダンスが行われた。

     本講座のコーディネーターである三枝照夫氏より自己紹介の後、第2回から第14回までのゲスト講師について紹介があった。毎回多彩なゲストがいらっしゃる講義でもあるため、授業時間中に加えて、講義後の時間で解らないことを質問し自分を売り込むことで、講師・受講生双方にとって充実した時間にしてほしいと話した。今年度は音楽産業を中心に、それを取り巻くメディア産業の講師が来校する。7月の第14回講義までに登壇を予定されている講師を、一人一人紹介しつつ講義のポイントを挙げた。

     講義終盤では、本日の講義課題としてこれから登壇する各講師に対し期待すること、受講生の関心のある点を記入するよう促した。受講生からは、音楽産業の現状や音楽制作の方法、コンサートなど音楽に関することだけではなく、映画・ラジオ・新聞など多彩な講師陣に期待を寄せる声が多く挙がった。

     

  • 第2回  4月17日 藤本 草先生      伝統音楽の基礎知識

    藤本 草(ふじもと・そう)先生

     

      公益財団法人日本伝統文化振興財団 会長

    プロフィール

     1950年 東京都出身。青山学院大学経営学部卒業。

     1976年 日本ビクター株式会社入社。

           伝統音楽、民族音楽、クラシックを専門分野とする音楽プロデューサー。

     

     現在、公益財団法人日本伝統文化振興財団会長、公益財団法人全国税理士共栄会文化財団理事、一般財団法人合唱音楽振興会理事。

     東京都文化発信プロジェクト委員、歴史的音盤アーカイブ推進協議会副代表幹事、東京・邦楽コンクール審査委員長等を歴任。

     

     【主な作品】

     「アジア伝統芸能の交流」(小泉文夫監修、1979年)

     「阿部桂子全集」(平野健次監修、81年)

     「米川敏子全集」(平野健次監修、83年)

     「JVCワールドサウンズ・シリーズ」(全155タイトル、85年~2000年)

     「聴流-初代越野栄松名演集」(岸辺成雄監修、83年、文化庁芸術祭賞優秀賞受賞)

     「箏曲地歌大系」(平野健次監修、87年)

     「宮城道雄作品全集」(93年)

     「アイヌ神話集成」(萱野茂監修、98年、毎日出版文化賞、文化庁芸術祭賞受賞)

     「キリスト教音楽の歴史」(皆川達夫、金澤正剛監修、2001年、音楽之友社レコード・アカデミー賞受賞)

     「琉球古典音楽集成」(01年、文化庁芸術祭優秀賞受賞)

     「虚無僧尺八の世界/中村明一」(05年、文化庁芸術祭優秀賞受賞)

     「肥後の琵琶弾き 山鹿良之の世界」(06年、文化庁芸術祭優秀賞受賞)

     「信時潔作品集成」(07年、文化庁芸術祭大賞受賞)

     「人間国宝 女流義太夫竹本駒之助の世界」(08年、文化庁芸術祭優秀賞受賞)

     「尺八の神髄 明暗対山派全集」(14年、文化庁芸術祭大賞受賞)ほか。

     著書に、「アーカイブのつくりかた」(共著、勉誠出版、2012年)、「アーカイブ立国宣言(共著、ポット出版、2014)

    講義概要

     伝統音楽の後継者育成やSP版レコードのアーカイブ化に取り組む公益財団法人日本伝統文化振興財団会長の藤本草氏が「日本の伝統音楽の基礎知識」と題して講義を行った。受講生世代になじみの薄い伝統音楽について、種別や問題点、今後の伝統音楽継承について解りやすく話した。

     まず、受講生からの事前質問に「伝統音楽を知らない、触れたことが無い」という声が多くあったことに触れ、現在は伝統音楽に触れる機会が無く、また、何度も聞かないとそのよさが解ってこないこと、上手な演奏家が少なくなってきていることなどが日本人の伝統音楽離れにつながっていると話した。日本の伝統音楽の中で代表的な8ジャンルの演奏をDVD映像で紹介した。伝統音楽の成り立ちについて触れた。動物の骨や声を使った原始の楽器から、江戸時代には長唄・清元などの音楽文化が町人・商家を中心に花開いた。しかし、明治以降、西洋音楽教育の開始により日本の伝統音楽の受容者が減り、若い人が間近に伝統音楽を聞くチャンスが減った。

     後継者についても、家元制度はあるものの演奏者の人数は減少している。そこで今後の日本文化の継承と発展に必要な具体策として、“日本文化”を教育カリキュラムに組み入れ、学ぶ機会の創出を提案した。日本人が海外に行ったときに「日本文化とは」という問いに答えられないのは、明治以降の西洋化教育により自国の文化教育を疎かにしてきたからである。現在のままでは、「お金にならない」伝統音楽文化は若手奏者の育成がままならず、伝統音楽は衰退する。そこで、受講生に「日本文化の教育カリキュラム化の賛否とその理由」を課題として問いかけ、講義を終えた。

     受講生からは、初めて触れた伝統音楽に感嘆する声が多く挙がり、また、藤本氏からの課題に対しても、賛成・反対それぞれの意見が多く出された。

    受講生の事前質問へ講義中に回答いただきました。

    内容はこちら⇒

  • 第3回  4月24日 shungo.先生      作詞にまつわるエトセトラ

    shungo.(しゅんご)先生

     

      作詞家・音楽プロデューサー

    プロフィール

     1995/03 SonyMusicEntertainment SD制作部主催Vocalオーディション“歌いに来ませんか?”合格。以後SDにて育成。

     1995/08 SD主催“SHOWCASE”出場。同年4月にSonyRecordsよりデビューしていた伊秩弘将のユニットHIM(エイチ・アイ・エム/

           Hiromasa Ijichi Melodies)に男性Vo.として3rd シングル「AQUARIUS」から正式加入。

     1996/09 SD Music Networkと専属・マネージメント契約。

     1997/12 HIM解散。(シングル8枚・アルバム2枚を発表。)以後SDにてデモ制作。

     1998/10 avex group主催 男性Vocal オーディション“a-boy”最終選考通過。以後Prime Directionにてデモ制作。

     2000/08 響サウンドファクトリーより、男性R&BユニットSin(シン)のVo.として再デビュー。

          (アナログ1枚を含むシングル3枚、アルバム1枚を発表。)作家活動開始。

     2002/12   w-inds.「Because of you」(作詞)で第44回レコード大賞金賞受賞。

     2003/12   w-inds.「Long Road」(作詞)で第45回レコード大賞金賞受賞。

     2005/05   学研/隔週TV情報誌「TV LIFE」にて、コラム【shungo.のall about HIM】連載開始。('05.05~'06.03)

     2005/12   w-inds.「十六夜の月」(作詞)で第47回レコード大賞金賞受賞。

     2006/12 初ソロ名義(shungo.)で、日本テレビ系列アニメ「Angel Heart」のサントラに参加。(挿入歌として、第42話でオン・エア)

     2007/12 w-inds.「LOVE IS THE GREATEST THING」(作詞)で第49回レコード大賞金賞受賞。

     2008/12 谷村奈南「JUNGLE DANCE」(作詞)で第50回レコード大賞優秀作品賞受賞。

     2009/12 w-inds.×G-DRAGON(BIGBANG)「Rain Is Fallin’」(作詞)で第51回レコード大賞優秀作品賞受賞。

    講義概要

     作詞家として数多くの有名曲を手がけるshungo.氏が作詞にまつわるエトセトラと題して講義を行った。音楽を構成する要素として欠かすことのできない歌詞をどのようにして作っているか、また、そこに込められた思いやテクニックを話した。

    講義ではまず、作詞担当したアーティストの曲が流され、ダンス曲を中心にアニメのテーマソングなど幅広くアーティストへ詞を提供していることが紹介された。歌手としてHIMに加入後、作詞担当した楽曲が後にカバー曲として大ヒットしたことが転機となり、Sinとてデビュー後、歌手活動を続けつつ作詞家としても取り立てられ、以来15年が経過した。音楽制作過程の上で最も苦手だったのが作詞作業であったが、気づいたら作詞家になっていたと話された。

     続いて、shungo.氏なりの作詞の方法について話した。曲は歌・歌詞・曲の三つがそろって一曲となる。特に歌詞は楽器の役割を果たすこともあり、日本語の美しさや様々な言い回しを多用して作りあげられる。具体的な方法として、アップテンポ曲・R&B曲は、作曲家の意図を汲み取りつつ、仮歌の入ったデモ曲でまず「っ」や「―(長音)」の入る部分を決める。そうすることで、日本語特有のベタっとした感じがなくなり、跳ねた印象となる。また、洋楽的な楽曲では、一音に2文字以上の言葉を入れることや、韻を踏むことが重要になってくる。shungo.氏が作詞した楽曲の音声と歌詞を比べながら、曲が跳ねる部分や複数の言葉が一音に乗っている箇所などを実際に確認した。作詞とは、限られた音の中で、どう言葉を生かすかが重要である。歌詞とは言葉を司るものであり、歌手としての自らの経験を礎としてアーティストの新たな魅力を引き出せるよう、歌うように詞を書けたらいいと話した。

     受講生への課題として今まで思っていた作詞と今日のshungo.氏の講義を聴講して変化した点を問いかけ、講義を終えた。受講生からは、今までの経験が作詞に生かされていることや、「っ」「―(長音)」など様々なテクニックによって作詞されていることに、感嘆する声が多く挙げられた。

  • 第4回  5月 1日  原口 あきまさ先生  演者側からのエンタテインメント

    原口 あきまさ(はらぐち あきまさ)先生

     

      ものまね芸人

      北九州市観光大使

    プロフィール

     

    1975年11月3日生まれ

    福岡県北九州市出身(北九州市観光大使)

    明石家さんまさんのものまねで大ブレイク!!

    ものまねレパートリーは100以上。

    ものまねジャンルは声まね、歌まね、動きのまね、雰囲気まね等盛り沢山。

    テレビ番組を中心にラジオ、ネット、雑誌、イベント出演等日本全国を飛び回っている。

     

    私生活では2010年3月14日に福下恵美さん(現:原口めぐみ)と結婚。

    息子達(二人)の優しいパパ。

    2014年には「第33回ベストファーザー イエローリボン賞 芸能部門」受賞。

     

    原口あきまさの情報はブログにて。

    【ブログ】「一日一笑 ゆる~いブログ

     

    講義概要

     ものまね芸人として幅広いレパートリーを持ち、テレビ番組を中心に数多くのメディアに出演する原口あきまさ氏が、演者側からのエンタテインメントと題して登壇した。原口氏のものまねレパートリーも多く披露され、終始笑いに包まれた講義となった。

     講義ではまず、自己紹介を兼ねて昔話に乗せた様々なレパートリーが披露された。原口氏の、本人の特徴を捉えたしゃべり方や立ち姿のものまねは、学生時代からの人間観察が礎となり、成り立っている。しかし、ものまねをするにあたって必要だったのは、本人の特徴を捉えるだけではなく、「勇気」だったと話した。上京、ものまね番組のオーディション参加、明石家さんまさんのものまねなど、勇気を持って一歩踏み出したことが転機となり、大ブレイクにつながった。お笑いコンビ時代の経験を活かし、台本の無いしゃべりものまねの中で「つっこみ」という役割を得、その後の日本テレビ系列「ものまねグランプリ」での優勝により、勇気が「自信」となった。受講生へも夢に向かって勇気を振り絞っていってほしいと励ました。

     「声」のものまねではない「シルエット」をつなげたサイレントものまねなど新しいものまねにも取り組んでおり、観客の反応だけではなく周りのスタッフなど見てくれる人のアドバイスがあり、演者として立つことができている。舞台に立つ時何をするのかは観客の雰囲気を見て決める。一緒にステージを作り上げるためには、状況によって空気を掴む必要があり、それもまた勇気を必要とすると話した。失敗を恐れて立ち止まるのではなく、一歩踏み出す勇気があれば失敗してもいい。何度でも挑戦する勇気が必要であると受講生を激励した。

     受講生からの質問にも気さくに答えていただき、課題として「勇気とは」を問いかけ講義を終えた。受講生からは、原口氏の講義に対する感謝とともに、自身が勇気を出した場面や将来に対して勇気を出したいなど多くの声が上がった。

  • 第5回  5月 8日  谷口 元先生     日本と世界の著作権事情

    谷口 元(たにぐち はじめ)先生

     

      一般社団法人日本音楽出版社協会 専務理事

      株式会社東京谷口総研 代表取締役社長

     

     

    プロフィール

    【最終学歴】   米国 テネシー州 ベルモント大学 コマーシャルミュージック学部卒業

    【主要経歴】

     1986年08月 株式会社エイプリル・ミュージック(現 株式会社ソニー・ミュージックアーティスツ) 入社、出版部所属

     1994年10月 エイベックス・ディー・ディー株式会社(現 エイベックス・エンタテインメント株式会社) 入社、国際業務担当部長

     1995年03月 株式会社プライム・ディレクション 取締役

     1996年07月 エイベックス・ディー・ディー株式会社 取締役国際本部国際部長

     1998年07月 社団法人音楽出版社協会 理事

     2001年10月 社団法人日本音楽著作権協会 理事

     2004年06月 社団法人音楽出版社協会 常務理事

     2005年04月 エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社 取締役 国際戦略室長 兼 知財戦略室長

     2006年05月 Avex Hawaii Inc.(在ハワイ) 取締役

     2006年11月 Avex Asia Holdings Inc.(在香港) 取締役、Avex Taiwan Inc.(在台北) 取締役会長

                        Avex China Co., Ltd(在北京) 取締役会長、 Avex Hong Kong Ltd.(在香港) 取締役会長

     2009年11月 社団法人音楽出版社協会 理事副会長

     2009年12月 内閣府知的財産戦略推進本部コンテンツ強化専門調査会委員

     2010年04月 エイベックス・ミュージック・パブリッシング株式会社代表取締役社長

     2010年06月 社団法人音楽出版社協会(現 一般社団法人日本音楽出版社協会) 会長

     2010年07月 財団法人音楽産業・文化振興財団 理事

     2010年09月 財団法人音楽産業・文化振興財団 (現 一般財団法人音楽産業・文化振興財団) 副理事長

     2012年01月 国際音楽出版社連合(ICMP、在ブリュッセル) 理事(現職)

     2012年03月 内閣府知的財産戦略推進本部 音楽産業海外展開促進タスクフォース委員

     2012年06月 一般財団法人渡辺音楽文化フォーラム 評議員(現職)

     2013年03月 株式会社アトス・インターナショナル 番組審議委員(現職)

     2013年08月 One Asia Music Inc.(在台北) 顧問(現職)

     2014年07月 一般社団法人日本音楽出版社協会 専務理事(現職)、Global Mediators Pte. Ltd.(在シンガポール)顧問(現職)

     2014年10月 株式会社東京谷口総研 代表取締役社長(現職)

     2014年12月 東京スクールオブミュージック 顧問(現職)

     2015年01月 GoDigital Records, LLC(在ロスアンゼルス) プローカー(現職)

     2015年02月 SYN株式会社 顧問(現職)、ユナイテッドフューチャークリエイターズ株式会社 顧問(現職)

     2015年04月 産業能率大学 経営学部教授(現職)、株式会社AKS 顧問(現職)

    講義概要

     本講座の寄附元の一つである一般社団法人日本音楽出版社協会専務理事の谷口元氏が、「日本と世界の著作権事情」と題して講義を行った。音楽著作権について知識の無かった受講生にも解り易く解説され、著作権の役割と世界における日本の音楽産業について理解を深める講義となった。

     講義ではまず、音楽出版社の役割と音楽著作権について話した。音楽出版社とは音楽著作物のマネタイズを行っており、JASRACを始めとする著作権管理団体(会社)から分配された音楽著作物の使用料を権利者に分配している。録音音源売り上げは1998年をピークに右肩下がりだが、放送やビデオグラム使用料の増加、フェスなどの増加によるコンサート市場の急伸によって、JASRACにおける使用料徴収額は過去10年横ばいである。斜陽産業と言われるレコード産業だが、国内のマーケットが安定しているため、アーティストの海外進出が進んでいないのが現状である。

    音楽環境の変化として、見栄えやグループ性など多様な付加価値の添付、TV、CMやインターネットの活用による宣伝へと人々に届ける方法に変化してきた。今後、インターネット上でマネタイズされるコンテンツには、音楽が付随する時代が来る。世界進出を見据えた際、ゲーム・映画などデジタルコンテンツに使用される音楽の果たす役割は大きい。

     海外市場については、2001年の知的財産推進計画の発表以降、クール・ジャパンとして音楽・アニメなどの文化の輸出が行われている。日本の音楽市場は世界第2位の規模を誇る。しかし、音楽のビジネス化を考えた際には、音楽との親和性の高いコンテンツと組み、クール・ジャパンとして海外へ進出することは不可欠であると言及した。

     受講生から挙げられた事前質問についても触れ、日本と世界の違いの一つとして著作権保護期間の違いを挙げた。最後に日本の音楽が海外展開する際の問題点を挙げ、それを打破する方法を受講生に問いかけ講義を終えた。受講生からは、海外進出において言語や海外への宣伝方法などが重要であると意見が上げられた。

  • 第6回  5月15日 小林 和之先生    レーベル・・・。

    小林 和之(こばやし かずゆき)先生

     

     株式会社ワーナーミュージック・ジャパン 代表取締役会長兼CEO

     

    プロフィール

     1956年 兵庫県神戸市生まれ。大阪芸術大学 放送学科中退

     

     ミュージシャンとしての活動を経て、82年3月にEPIC・ソニー(現エピックレコードジャパン)入社

       ディレクター、プロデューサーとして数々のアーティストを担当する。

     

     1992年   EPICソニーレコード本部 A&R2部 プロデューサー

     1996年   EPICソニーレコード本部A&R3部 部長

     2002年 2月 エピックレコードジャパン設立。A&Rグループ本部長 就任(ソニー・ミュージックエンタテインメントの組織改編による)

     2002年10月 エピックレコードジャパン代表取締役 就任

     

    主な担当アーティスト

     鈴木雅之、大沢誉志幸、岡村靖幸、Rats&Star、YUKI、トライセラトップス、T.M.Revolution、アンジェラ・アキ、Aqua Timez、

     いきものがかり、2PM、2AMなど。

     

     2008年 ソニー・ミュージックエンタテインメント コーポレイト・エグゼクティブ 就任(レーベルビジネス第2グループ代表)

           エピックレコードジャパン代表取締役、デフスターレコーズ代表取締役、アリオラジャパン代表取締役 兼任

     2013年 ソニー・ミュージックエンタテインメント コーポレイト・エグゼクティブ(メディアビジネスグループ 代表)

           エムオン・エンタテインメント代表取締役社長、Zeppライブエンタテインメント代表取締役会長、

           レーベルゲート取締役、イープラス代表取締役などを兼任。

     14年4月よりワーナーミュージック・ジャパン代表取締役会長兼CEO

    講義概要

     レーベルとして多くのアーティストを抱える株式会社ワーナーミュージック・ジャパン代表取締役会長兼CEOの小林和之氏が「レーベル・・・。」と題して、講義を行った。レコード産業におけるレーベルの歴史と役割を解りやすく話された。

     講義ではまず、世界における日本の音楽マーケットの現状を簡潔に話した後、レーベルの役割について解説した。レーベルとは、レコード会社内でアーティストの発掘・育成・プロデュースを行う。日米のメジャー・レーベルの成り立ちについても比較し、日本では15社のメジャー・レーベルが存在するのに対し、アメリカでは3社のメジャー・レーベルが多数の音楽性に特化したレーベルを抱えている。ワーナーミュージックはアメリカの3大メジャー・レーベルの一つであり、アメリカ国内のほか、ヨーロッパ、日本や中国を始めとするアジア太平洋地域にも多く分布している。日本での展開の他、近年独自マーケットが成立しつつあるアジア地域でのビジネスに力を入れている。

     日本の音楽は現在、ライブでの「聴かせる音楽」と付加価値やビジュアル面での「見せる音楽」の二極化が進んでいる。タイアップなどの戦略が重視され、レーベルの特色が曖昧となっている傾向に警鐘を鳴らし、今後はA&Rを根幹に据えた新しいレーベル設立の必要性を言及した。音楽に対して様々なメディアが乱立する中、音楽ビジネスは現在がターニング・ポイントであり、優秀なA&Rがレーベル・音楽を変革するパラダイムの時期である。音楽を変えたいという意志があれば、一人の人間がレーベルを変えることができると受講生を激励し、講義を終えた。

     講義課題として提示した「あなたにとって音楽とは」に対して、受講生からは自身と音楽の関わりを含め、音楽が自身に及ぼす影響について多くの意見を挙げた。また、進路選択の一つとして音楽業界を視野に入れたいと述べる受講生も多く、受講生にとって非常に有意義な講義となった。

  • 第7回  5月22日 西山 勝先生     once in a lifetime encounter

                             ~貴方の人生を変えてしまうような出会い~

    西山 勝(にしやま まさる)先生

     

     音楽家

     株式会社エフエム大阪 常務取締役

    プロフィール

     1962年 京都生まれ

     職業:音楽家 兼 Radioman(株式会社エフエム大阪 常務取締役)

     趣味:世界中のワインを飲み干し世界中の旨いものを食べ尽くすこと、温泉で空想すること

     

     小唄家元の孫として生まれ育ち、音楽に触れる。

     

     オーストリアでクラシック音楽の作曲を学び、その後アメリカのポップミュージックの世界に傾倒する。

     

     アメリカ音楽界に於いてはディズニーソング「美女と野獣」「アラジン」のテーマソングシンガーであるPeabo Brysonのアルバム

     「Unconditional Love」にProducer,Arrangerとして参加し、このアルバムが1999年の第42回グラミー賞にノミネートされた。

     

     日本に於いては杏里、大黒摩季、倖田來未、林明日香、中西圭三、ゆず、THE BOOM、宮沢和史、石井竜也、米倉利紀、K、SEAMO、ほか

     多数のArtistのProducer,Orchestra Arrangerとして活動してきた。

     

     また2000年頃よりオーケストラとポップを融合させたSymphonic Orchestra Sessionスタイルのコンサートを実施、自らもエモーショナル

     なコンダクターを勤める。

     Peabo Bryson、Wendy Moten、Christina Aguirelaという世界的Artistに加え、中西圭三、杏里、平井堅、大黒摩季、倖田來未、林明日

     香、小柳ゆき、K、平原綾香、hiro、石井竜也、宮沢和史、伊藤由奈、青山テルマ、Crystal Kayほか多数の日本を代表するArtistが出演。

     さらに2012年には東京ドームと大阪ドームにおいて行われた「ゆず15周年記念ライブ」にオーケストラを率いてマエストロとして出演、10

     万人のファンを涙と感動に包み込む成功を収めた。

     

     ここ数年は活動のフィールドを中国にも広げ、中国のトップスターである解小東、陳琳、楊坤らのRecordingに作曲および、

     Producer,Arrangerとして参加。また、2004年秋に上海で行われた、陳琳、楊坤らのスタジアムコンサートにおいて、さらに2008年春には

     北京の公人体育館での楊坤のコンサートにも音楽監督として参加した。

     

     さらに2008年から音楽を通じた社会貢献活動を提唱し、特に音楽の力で飲酒運転を撲滅するプロジェクトSDD(Stop Drunk Driving

     Project)を立ち上げ、毎年大阪城ホールでライブを行い自らもConductorとして出演。その活動は全国に広がっている。

     

     

     代表作品は、日本TV系「週刊ストーリーランド」の初代テーマソング、 Peabo Bryson&Wendy MotenのDuetによる「My Gift Is You」。

     林明日香に提供した「道草」、呉汝俊(京胡とOrchestraの協奏による)に提供した「HERO」など。

     

     Producer,Orchestra Arrangerとしては、長野オリンピックの公式イメージソング、杏里の「SHARE~瞳の中のヒーロー~」、ゆず「栄光

     の架橋~Symphonic Orchestra Ver.~」、THEBOOM「島唄 ~Symphonic Orchestra Ver.~」など。

     

     師であるDavid Fosterが提唱するSymphonic Orchestra Session(オーケストラとの高度なコラボレーション)による渾身のバラードを最

     も得意とする。

     

    講義概要

     音楽家としてシンフォニック・オーケストラのアレンジを手がける株式会社エフエム大阪常務取締役の西山勝氏が「once in a lifetime encounter~~貴方の人生を変えてしまうような出会い~~」と題して講義を行った。

    講義前半ではまず、西山氏の人生を変えたいくつかの出会いについて話した。特にピーボ・ブライソンとの出会い、世界発売されるアルバムへの制作参加・グラミー賞へのノミネートは、R&Bの世界に日本人として一歩踏み出した瞬間でも有り、その後西山氏の人生における音楽との関わりを決定付けた。

     シンフォニック・オーケストラについても触れ、レコーディングされたCD・DVDの視聴が日常であるならば、ライブにいくことは非日常であり、その中でもオーケストラは特別な時間を提供する。アーティストとオーケストラがコラボレーションしたlife timeコンサートは、忘れることのない瞬間を提供する贅沢な時間であり、非日常体験の提供は今後も継続してゆくと強調した。

     ラジオの将来についても言及し、コマーシャル・メディアとしての役割の終焉が近づいていると持論を述べた。しかしながら、ラジオと音楽のコラボレーションにより聴衆者に語りかけることはでき、その方法の一つとしてSDD(STOP DRUNK DRIVE)プロジェクトを上げた。アーティストのメッセージをのせたスポットCMや1万人のライブイベントなど、車との親和性が高いラジオの役割が、産業としてラジオが生き残る道であると話した。

     変わりゆくメディアとしてのラジオの在り方や、ラジオ局へ就職するにはどうしたらいいのか等、事前に出された受講生からの質問にも丁寧に回答していただいた。

     講義課題として「貴方は人の人生を変えてしまうような瞬間を創造しますか、与えられるのを待ちますか」と問いかけ講義を終えた。受講生は、課題に対して様々な意見を上げ、また、エンタテインメント・ビジネスの根幹を学ぶ授業となった。

  • 第8回  5月29日 元尾 哲也先生    情報伝達の仕組み

    元尾 哲也(もとお てつや)先生

     

     株式会社スポーツニッポン新聞社 執行役員

     東京本社 編集局編集総務 特集プロジェクトチーム担当

    プロフィール

     1959(昭和34)年生まれ。  神奈川県出身。

     早稲田大学 政治経済学部 政治学科卒業

     1983年 スポーツニッポン新聞社入社  編集局文化社会部配属

      以後、主に芸能記者として活動。

     2001年 文化社会部長

     2002年 新潟支局長

     2003年 広告局 開発本部次長

     2005年 編集局次長

     2010年 経営企画室長

     2011年 西部総局長

     2013年 マルチメディア事業本部長

     2014年6月より現職。

    講義概要

     スポーツ紙の芸能記者として第一線を歩んできた、株式会社スポーツニッポン新聞社執行役員の元尾哲也氏が、「情報伝達の仕組み」と題して講義を行った。新聞とは何か、情報はどうやって伝達されるのかについて、詳細に話された。

     講義ではまず、新聞について話した。新聞は大きく一般紙とスポーツ紙に分類され、宅配制度によって支えられている。一般紙はジャーナリズム性が強いのに対し、スポーツ紙は娯楽性が強く、販売地域によって一面記事が変わることもある。新聞社において、日中、記者が集めてきた記事は、夕方のデスク会議でまとめられ、構成される。野球やサッカーなど人々の関心の高い競技の試合結果は、締め切り時間ギリギリまで記事の差し替えが行われ、より一目を引くよう見出しにも工夫がなされる。現在売上の70%を宅配収入が占める。近年台頭するインターネットによる広告収入は全体の4%しかなく、インターネット広告収入に頼るには厳しいのが現状である。

     続いて情報伝達の仕組みについて話した。記者は独自情報の入手に力を入れる。そのため、情報を持っている人と上手くコンタクトを取ることが重要であり、様々な場所に情報源を作っておくことが記者の最大の仕事である。記者は才能に恵まれた人と出会うことが多い。才能に対するリスペクトを記事として文章で伝え、その情熱が派生することで人々に伝わり情報となると強調した。

    新聞の将来については、情報発信源としての位置付けは残るが、紙を持たない通信社のような役割に移行するのではないかと言及した。

     また、受講生より事前に提出された質問にも、丁寧に回答をいただいた。

     最後に「新聞がこれから生き残る道は」を課題としてあげ、講義を終えた。受講生からは、若者世代への普及、紙面構成などの読みやすさ、インターネットとの互換性など、様々な意見が上げられた。

  • 第9回  6月 5日  野辺 優子先生     アジア、ヨーロッパの映画事情

    野辺 優子(のべ ゆうこ)先生

     

     合資会社エスポルト コーディネーター

    プロフィール

      東京外国語大学大学院、フランス国立東洋言語文化学院(INALCO)でベトナムを中心としたアジア映画を研究。在学中はフランス、イタ

     リアのサッカーやラグビー等のスポーツメディアの通訳や翻訳も経験。映画プロデュースの大学院助手を経て、2008年より公益財団法人ユニ

     ジャパンで東京国際映画祭の運営を経て、国際事業部人材育成グループで、経済産業省の若手映像クリエイターの短編映像制作事業を手がけ

     る。そのうちの1本『ふたつのウーテル』(田崎恵美監督)が日本映画短編として46年ぶりに2011年カンヌ国際映画祭のコンペティション

     に出品された。2013年は『隕石とインポテンツ』(佐々木想監督)が再び同プロジェクトからカンヌ国際映画祭に出品、3年間で2度入選の

     成果を上げる。同年、日本初世界志向の短編映画を総合的にプロデュースするプロジェクト『JAPAN SHORTS』を立ち上げ、第一弾として新

     進気鋭の6監督の作品を新宿バルト9を始め全国6都市のシネコンで上映を実施。また、日本、アジアの短編映画の専門家として世界のプログ

     ラマーとネットワークをいかしたコーディネーターとして、海外の映画作品のキュレーションも行っている。本年のカンヌ国際映画祭短編部

     門出品の日本作品『八芳園』のコーディネーションを担当。現在は長編商業作品の海外映画祭コーディネーターの他、複数の短編作品のプロ

     ジェクト・プロデューサーも手がける。

      最近はベトナムの舞台芸術の調査研究も行い、昨年は国際交流基金の派遣で現地調査を担当。現在東京芸術大学大学院で博士論文の執筆中。

    講義概要

     コーディネーターとして、アジア・ヨーロッパの映画に精通する合資会社エスポルトの野辺優子氏が「アジア、ヨーロッパの映画事情」と題して講義を行った。5月に開催されたカンヌ国際映画祭の話題など、アジア・ヨーロッパにおける短編映画マーケットについて話した。

     講義ではまず、2011年カンヌ国際映画祭短編コンペティションで最高賞を受賞した、韓国の『SAFE』を紹介し、ヨーロッパとアジアの映画制作の違いを挙げた。映画制作にあたり、ヨーロッパは政治的影響が強く、アジアは経済的影響を強く受ける。他のアジアの国々同様に日本は経済状況に影響を受け、映画制作における予算の少なさや、年度区切りによる長期のプロジェクト継続のしにくさを問題点として指摘した。また、共通点として短編映画制作を挙げた。日本を除くアジア・ヨーロッパでは短編映画は長編映画への登竜門として捉えられており、カンヌ国際映画祭のショートフィルムコンペティションは、新しい作品や無名監督の発掘の場となっている。

     映像ビジネスにおいてカンヌ国際映画祭で開かれるショートフィルムコーナーを紹介した。一定の条件を満たせば誰でも作品を提出することができ、映画を通じて多数の同じ目的を持つ人々と知り合うことができる。短編映画は限られた時間の中で作品の無駄を無くし、的確な表現方法を学ぶ場である。短編映画マーケットは、クリエイターにとっては自分の作品の評価を受けクオリティを高める場であり、ビジネスにおいてはマーケットへの参加によって海外の流行を知り新しい作品発掘の場となる。

     映画制作はクリエイターのみでは成立せず、観客と同じ目線を持つ信頼できるビジネスパートナーが必要である。ショートフィルムへのチャレンジには、様々な価値観に触れ、コミュニケーション力を高めることが重要であると話し、講義を終えた。

     講義課題として「『SAFE』の感想」を提示し、講義を終えた。受講生からは観客視点で短時間に凝縮された映画の迫力に感嘆する意見や、クリエイター視点での映像制作についての意見が多く上げられた。

  • 第10回  6月12日 中西 健夫先生    エンターテインメントの現在と未来について

    中西 健夫(なかにし たけお)先生

     

     株式会社ディスクガレージ 代表取締役社長

     一般社団法人コンサートプロモーターズ協会 会長

     

     

    プロフィール

    【主要経歴】

     1981年 株式会社ディスクガレージ入社

     1993年 株式会社ディスクガレージ代表取締役副社長就任

     1997年 株式会社ディスクガレージ代表取締役社長就任

     2012年 一般社団法人コンサートプロモーターズ協会会長就任現在に至る

     

    【その他兼任】

     ポイントグリーン推進環境会議 理事

     株式会社DGエージェント 代表取締役CEO

     株式会社横浜フリエスポーツクラブ 取締役

     一般社団法人チームスマイル 副代表理事

     

    講義概要

     本講座寄附元の一つである一般社団法人コンサートプロモーターズ協会会長であり、関東で大規模音楽フェスの開催などコンサート業界を牽引する株式会社ディスクガレージ代表取締役社長の中西健夫氏が「エンターテインメントの現状と未来について」と題して講義を行った。

     講義ではまず、日本における音楽の歴史について簡潔に話した。1960年代から1990年代はレコード・CDが売れた。しかし1990年代をピークにCD売上は下降しており、その反面アーティストのコンサート・ライブが増加し、音楽フェスも台頭してきた。2014年にはライブ産業の売上がCD・DVD売上を上回り、CD売上が低迷する中、音楽業界の新たな活路として音楽フェスが重視されている。

     コンサート業界の動向として、年間公演数・入場者数ともに増加傾向にあるが、公演会場は大都市へ集中しており、海外アーティストの公演も少ない。また、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据えた大規模会場の再建・改修工事が増えており、アーティストの数に対して会場が不足する状況が関東・関西で続いている。この状況を鑑み、室内型フェスや地方創生としての大規模音楽フェス開催など、大規模音楽フェスが成熟した現在、次なる形態を模索している。

     これからの音楽業界の未来に向けて、中西氏は大規模会場を中心とした「街」の形成と、他の文化と協業し、音楽フェスを海外に売り出していく必要性を提案した。世界における“日本ブランド”の評価は高いが、日本は国際競争力に欠ける。他国との差別化において、日本独自の文化やマインドを伝えるビジネスには、まず“自己表現”について考える時期にきている。自分を上手く相手に伝え、コミュニケーションによるビジネスを行うことが重要だと、学生を激励した。最後に「日本のエンターテインメントが世界で通用するためには一番何が必要だと思いますか」と課題を投げかけ、講義を終えた。受講生からは、日本独自の文化・日本らしさの押し出しや現地の言葉でのプロモーションなど様々な意見が挙がった。

  • 第11回  6月19日 加藤 裕一先生    音楽配信市場の現状と今後

    加藤 裕一(かとう ゆういち)先生

     

     株式会社レコチョク 代表執行役社長

     

     

    プロフィール

     【略歴】

      昭和35年 1月6日生

      株式会社レコチョク 代表執行役社長

     

      昭和57年 4月  日本ビクター株式会社 入社

      平成14年 4月  ビクターエンタテインメント株式会社 経営企画室部長兼ネットビジネス推進室長

      平成19年 6月  同社 代表取締役社長

      平成22年 6月  株式会社レコチョク 代表執行役社長

    講義概要

     音楽配信事業の第一線を走る株式会社レコチョク代表執行役社長の加藤裕一氏が「音楽配信市場の現状と今後」と題して講義を行った。スマートフォンの登場によって大きく様変わりした音楽配信市場について詳細な解説が行われた。

     講義ではまず、音楽配信市場の概要について話した。ガラパゴス携帯でデジタル市場を大きく占めていたのは着うたであったが、スマートフォンの登場により、音楽ダウンロード・配信が急伸長した。その反面違法ダウンロードも横行するようになり、音楽配信へ大きな影響を及ぼしている。近年は、ダウンロードからストリーミングが主流となりつつあり、特に定額制ストリーミングが増加している。

     音楽配信は、様々なサービスが展開されており、無料・有料、ラジオ型・聞き放題型など競争が激化している。2015年度に入り定額制ストリーミングサービスが増加し、次世代の主流となりつつある。その背景には、モバイル利用者の増加によりCD購入やレンタルが減少し、無料アプリなどを利用する視聴層の増加を挙げた。

     2013年に違法ダウンロードが刑罰化され、取締りが強化されたが、その全てを網羅できていない状況である。無料の音楽視聴サイトは、無名のアーティストにとって自己をアピールする場であり、視聴者は新しいアーティストとの出会いの場である。しかし無料のみに人々が傾聴してしまうと、アーティストの減少、音楽文化の衰退に繋がる。音楽にお金を払うことは、アーティストに対して対価を支払うことであると強調した。

     新人アーティスト発掘のための「EGGS」プロジェクトなど、配信によるスター作りのプラットフォームは、新しい楽曲との出会いの創出や、SNSとの連携が期待できる。音楽配信は多様化し、個人が自分に合うサービスを選べる時代になったと、講義を締めくくった。

     講義課題として「無料で音楽を聴けることをどう思うか」と受講生に投げかけた。受講生からは、無料で音楽を聴けることに対して歓迎する意見が多く挙がったが、合わせて「無料」であることで音楽文化の衰退に繋がることも本日の講義を通して実感し、SNSや「無料」配信との付き合い方を考える意見が多く挙げられた。

  • 第12回  6月26日 中尾 豊治先生    イベント施設の今後

    中尾 豊治(なかお・とよはる)先生

     

     株式会社さいたまアリーナ 代表取締役社長

     

     

    プロフィール

     1978年03月 慶応義塾大学 法学部 卒業

     1978年04月 サッポロビール株式会社 入社

     1995年10月 サッポロビール株式会社 商品企画部 担当部長

     2000年09月 サッポロビール株式会社 東京中央支店長

     2008年03月 サッポロビール株式会社 ワイン洋酒部長

     2010年03月 サッポロビール株式会社 執行役員 北海道本部長

     2012年09月 株式会社さいたまアリーナ 出向 顧問

     2013年06月 株式会社さいたまアリーナ 代表取締役社長 就任

     

    講義概要

     国内最大級の大規模アリーナを運営する株式会社さいたまアリーナ代表取締役社長の中尾豊治氏が、「イベント施設の今後」と題して講義を行った。貸館業界の現状と今後の業界の有り様について解説された。

     講義ではまず、受講生から「コンサート会場の不足」について多くの事前質問が挙がったことに触れ、さいたまスーパーアリーナの概要が紹介された。さいたまスーパーアリーナは埼玉県が建設し、その運営会社として行政と民間企業の出資で株式会社さいたまアリーナ社が設立され、空間に付加価値を付け「空間×時間」を貸す貸館業が主となる。コンサートやスポーツの試合などは企業・団体が主催となって開催されるため、イベントの設営から撤収まで円滑に進むよう警備や舞台設営などの指定業者の紹介、イベントを演出するためのアドバイスなどを行う。

     施設運営においては、安心で安全であることが重要である。年間80日程度のメンテナンスに加え、安心して施設が使用できるよう警察・消防との連携や行政への各種手続きのアドバイスも行う。

     今後の展望として、さいたまスーパーアリーナのブランド価値の向上に言及した。進化するイベントへの対応や、施設のメンテナンスをきちんと行うことを挙げ、東京オリンピックの開催においては、トイレやサイバーテロの防止など新たな課題もある。また2011年の東日本大震災の際には防災拠点としても活用され、自然災害に対する対応も重要となる。

     施設運営は1社だけでは出来ない。協力企業や、行政・警察・消防を始め地元との連携の基に成り立っている。是非さいたまスーパーアリーナに足を運んでほしいと述べ、講義を終えた。

     冒頭で講義課題「裏方さんたちの喜びややりがいとは」を提示し、受講生は課題を念頭に置きつつ中尾氏の講義を聴講した。講義後、受講生からはイベントが終了したときのお客様の喜ぶ顔や、演者からの感謝など裏方さんたちの喜びややりがいとして様々な意見が挙がった。

  • 第13回  7月 3日  松武 秀樹先生    今、求められている音楽制作とは?

    松武 秀樹(まつたけ・ひでき)先生

     

     株式会社ミュージックエアポート代表取締役社長

     一般社団法人演奏家権利処理合同機構MPN 副理事長

    プロフィール

      1951年生まれ。1970年の大阪万博アメリカ館で、シンセサイザーとコンピュータを組み合わせて演奏されていた「スイッチド・オン・

     バッハ」を聴き、新しいフィールドに大いなる興味と関心を抱く。

      20歳から冨田勲氏のアシスタントとして、当時日本には数台しかなかった“モーグ・シンセサイザー“による音楽制作のスタッフを経験。

     独立後もシンセサイザー・ミュージックの可能性を追求、モーグ・シンセサイザー・プログラマーの第1人者としてロック、ポップス、CM音

     楽のレコーディングに参加する。

      1978年、矢野顕子のアルバム『トキメキ』のニューヨーク・レコーディングにおいてデジタル・シーケンサーを使用。坂本龍一のソロ第1

     作『千のナイフ』 への参加をきっかけに、1978年~1982年にかけて、サウンド・プログラマーとしてYMO作品に参加し、数々の伝説的な

     レコーディングを経験。

      また、ワールド・ツアーを含めたYMOライブにも帯同。

      通称”タンス・シンセ”と呼ばれる巨大シンセを操りながら世界に大きな衝撃を与え、「YMO第4のメンバー」と称される。

      1981年には自身のユニットであるLOGIC SYSTEMを結成し、現在までに15枚のアルバムを発表し、その内の2枚は世界8ヶ国でリリース

     され、各地に熱狂的なファンを生み出した。

      2011年に入り、再びLOGIC SYSTEMの活動が活発化。

      DJ HARVEYを筆頭に豪華リミキサー陣が参加したEPシリーズ第1弾『RMXROGIX』のリリースに合わせて、エレクトロニック・ミュー

     ジックにフォーカスを当てた新レーベル<MOTION±(モーション・プラス/マイナス)>を始動させる。

      5月の“FREAKS MUSIC FESTIVAL”、6月にUNITで行われたライブ・イベント“SPECTACLE”では会場を大いに沸かせ、アナログ・シンセ

     のブッ太いサウンドでオーディエンスの体を見事に揺らし続けた。

    講義概要

     シンセサイザープログラマーとして第一線を走る株式会社ミュージックエアポート代表取締役社長の松武秀樹氏が、「今、求められる音楽制作とは?」と題して講義を行った。実演家の権利を解説した後、シンセサイザーの実演が行われ、受講生にとっては音楽制作の現場を垣間見る機会となった。

     講義ではまず、実演家の権利について説明された。音楽ビジネスにおいては、著作者の権利「著作権」と実演家の権利「著作隣接権」がある。両者は混同しがちであるが、実演家は著作物を独創的に表現する者であり、ミュージシャンを始め役者、放送局などが該当する。実演家には、著作隣接権のほか、氏名表示権・同一性保持権や実演の録音・放送・送信についての権利も有しており、特にインターネットを介した送信可能化権については、今後の進化が重要なポイントとなる。著作権法内には実演家の権利が明記されており、これを理解することで音楽ビジネスが円滑に進む。音楽ビジネスを行う上では権利を守ることが重要ではあるが、契約によってビジネスが進むこともあると強調した。

     講義後半では、現在の音楽制作の現場が再現され、氏家克典氏(シンセサイザー奏者)も登壇の下、シンセサイザーの実演が行われた。松武氏は「楽器は道具であり、使い方次第で個性を表すことが出来る」と話し、シンセサイザーも準備されている音に手を加えることによって個性が表現できると述べた。氏家氏がリズム・音色に手を加えながらシンセサイザーについて解説した後、松武氏と氏家氏の合同演奏が行われ、ボーカロイドを使用した楽曲に即興で演奏が加えられた。

     最後に近未来の音楽ビジネスとして、音楽を聴く環境に合わせたサービスの提供や高品質な音の提供、実演家育成のための新たな法改正の必要性を挙げ、講義を終えた。

     講義課題として「今後の日本における音楽文化発展のために必要なものは」を提示した。受講生からは、海外進出の必要性やアーティストの育成のほか、音楽を聴く側の育成として実演に触れる機会の創出が挙げられた。

  • 第14回  7月10日 椎名 和夫先生    音楽制作の変遷と課題

    椎名 和夫(しいな・かずお)先生

     

     一般社団法人演奏家権利処理合同機構MPN 理事長

    プロフィール

    【活動履歴】

      1952年東京生まれ。ムーン・ライダースの結成に参加。脱退後は、スタジオ・ミュージシャン、編曲、プロデュース等の活動に転じ、井上

     陽水、山下達郎、吉田美奈子、甲斐よしひろ、中森明菜、光GENJI、中島みゆき、他多数のアーティストのレコーディング、ステージでの演

     奏や、編曲、プロデュースを担当。

      1986年駒沢にスタジオ・ペニンシュラを設立。同年12月、中森明菜「Desire」で第28回日本レコード大賞受賞。1995年演奏家団体パブ

     リックインサード会(PIT)設立。1998年演奏家権利処理合同機構 ミュージック ピープルズ ネスト(MPN)設立。

    【現職】

     パブリックインサード会代表幹事、(一社)演奏家権利処理合同機構MPN理事長、(一社)映像コンテンツ権利処理機構理事、(公社)日本芸能

     実演家団体協議会常務理事・同実演家著作隣接権センター運営委員、肖像パブリシティ権擁護監視機構理事、放送コンテンツ権利処理円滑化

     連絡会委員、文化庁文化審議会著作権分科会委員、文化庁「著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会」委員、(一社)放送コンテ

     ンツ海外展開促進機構理事。

     

    講義概要

     ギタリスト、音楽プロデューサーとして第一線で活躍ののち、現在は演奏家の権利処理を行う一般社団法人演奏家権利処理合同機構MPNの理事長を務める椎名和夫氏が、「音楽制作の変遷と課題」と題して講義を行った。時代とともに変化する音楽制作と、音楽産業の課題である私的複製について解説した。

     講義ではまず、音楽制作の変遷が話された。かつては、生演奏によるレコーディングだったため、リズムパート・コーラス・ヴォーカルを音楽スタジオで録音し、トラックダウン、マスタリングが行われていた。しかし、PCで演奏できる音源やDAW(Digital Audio Workstation)などの登場により、スタジオで行っていた音楽制作が、一部PC上で作業可能となった。これにより、音楽制作にかかるコストは削減されたが、演奏者同士のコミュニケーションによって生まれていた調和が、PCでの打ち込み制作では無くなってきていると言及した。

     また、近年音楽産業を脅かす私的なコンテンツの流用についても触れた。PC上での複製が容易になり、SNSやクラウドサービスによる共有など、メディアを介さずに音楽を流用できるようになった。これにより、ユーザーが複製のためのメディアを製造していたメーカーを介して支払っていた私的録音録画補償金の徴収額は減少し、正規品の販売によって権利者が得られるはずであった利益を大きく圧迫している。この状況を鑑み、2013年には新たな補償金制度創設に係る提言がなされ、クリエイターへの適切な対価還元とクラウドサービスなどに係る円滑なライセンシング体制の構築が現在話し合われている。

     ユーザーは自由かつ安価にコンテンツを利用したい。インターネットなどの利便性とクリエイションサイクルの保持、この利害対立をどう解決するかが、今後の課題であると述べた。

     講義課題として、「補償金制度に関する問題解決を含め、ユーザーとクリエイターの間のコンフリクトを今後どのように解決したらいいか」を挙げた。受講生からは、現代に合わせた録音録画補償金制度の範囲拡大やユーザーへの周知の必要性などの意見が挙がった。

  • 第15回  7月17日 三枝 照夫先生    前期総括

    三枝 照夫(さえぐさ・てるお)先生

     

      株式会社フリーダム 代表取締役

      立命館大学 客員教授

    プロフィール

     1951年4月 神奈川県横浜市生まれ

     1975年3月 早稲田大学商学部卒業

     1975年4月 日本ビクター株式会社入社 後 ビクター音楽産業株式会社出向

                  (現在は各々、「JVCケンウッド」「ビクターエンタテインメント」に改称)

     1999年6月 取締役に就任 第1制作宣伝本部長

     2002年6月 代表取締役に就任 専務取締役に就任

     2004年1月 代表取締役専務取締役 兼 JVCエンタテインメント・ネットワークス株式会社CEO(代表取締役)

     2007年6月 取締役会長 就任

     2008年4月 取締役会長 担当 邦楽制作統括

     2009年1月 取締役会長 兼 ビクターミュージックパブリッシング株式会社 代表取締役社長

     2010年1月 アドバイザー(相談役)就任

     2010年7月 株式会社フリーダム設立 代表取締役就任~現在に至る

     

    担当したアーチスト

     松本伊代、小泉今日子、荻野目洋子、酒井法子、SMAP、Kiroro、19、広瀬香美、 LOVE PSYCHEDELICO他、現在は石井聖子

    講義概要

     本学客員教授で株式会社フリーダム代表取締役の三枝照夫氏が前期総括を行った。第1回の講義で話したとおり、前期講義では音楽産業の中核を担う方々と、それを取り巻くメディア産業の方々をゲスト講師として招聘した。各講師について、三枝氏より講義の振り返りと要点が話された。

     第2回講師の藤本氏の日本の伝統音楽に始まり、作詞・演者・レコード会社・音楽配信・プロモーター・貸館・ラジオ・新聞・映画など、音楽を取り巻く様々な講師によって、エンタテインメント産業の現状と展望が話された。音楽産業隆盛の起因として、魅力的な新人アーティストの育成を挙げられたが、音楽の違法配信や無料の音楽ばかり流通してしまうと、レコード会社・プロモーター・プロダクションはアーティスト育成へお金をかけることができず、ますますの衰退を招くことになる。また、著作権・著作隣接権・私的録音録画補償金など、音楽に関する法的側面からも講義がされ、アーティスト・クリエイターへの適切な還元は、今後の音楽産業発展のためには必須であることが理解できた。

     講義課題として、「前期講師の中で、自分との関わりやフィット感のあった講師」を挙げ、講義を終えた。受講生からは、各講師の講義を受講して感じたことや、音楽産業について包括的に知ることができたなど、様々な意見が挙がった。

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