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2007年度研究会報告

第24回(2007.10.11)【第14回講演会】

テーマ 『Violence in the Family』
報告者 Associate Professor Ann McCulloch(Deakin University, Australia)
報告の要旨

2007年10月11日、暴力論研究会と新歴史主義研究会の共催で「家族における暴力」をテーマに講演会を開催した。講師として、オーストラリアのディーキン大学からアン・マカロック先生をお招きした。マカロック先生は文学や表象芸術を哲学的文脈から考察されている気鋭の研究者である。とりわけニーチェに造詣が深く、今回の講演でも「永劫回帰」がキーワードとなった。

講演の題は“Eternal Recurrence: The Spacial Relations between Art and Consciousness, between Forgetting and Enlightenment”。 カナダ映画Silver Skinを題材に、ニーチェの永劫回帰を援用しながら、抑圧された記憶の回復によるトラウマ超克の可能性と、芸術におけるそのプロセスの表象が論じられた。幼少時代に家族による性的虐待を経験した人は、その記憶を抑圧し、他者にたいして無意識に同じ暴力を繰り返す傾向があるという。マカロック氏は、こうした無意識の行為の連鎖において、まさに永劫回帰の思想――人生は永遠に反復し、真に自由な精神は幸福のみならず、苦しみの反復のひとつひとつを祝福する――が試されると主張する。

先に述べた暴力の「反復」は、記憶に伴うものではなく、むしろ記憶からの疎外の帰結である。過去の経験からの疎外は、自己疎外と言い換えてもよいだろう。永劫回帰が私たちを魅了するのは、過去、そして忘却された過去が引き起こす衝動的反復の痛みから私たちを救済してくれるからだとマカロック氏は言う。映画では、少年時代に性的虐待を経験し、自分は無価値だと感じながら生きる青年が、最後に虐待の記憶に向き合う。抑圧は取り除かれ、主人公はフロイト的な反復衝動から解放される。マカロック氏の講演は、記憶とトラウマ、そして暴力の反復の相関関係について有益な示唆を与えてくれた。

佐藤 渉

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