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2007年度研究会報告

第26回(2007.1.26)

テーマ 暴力と和解の星座 Konstellation
-Th・W・アドルノの〈非同一的なもの〉の思想、意味論を手がかりに-
報告者 青柳 雅文(文学部非常勤講師)
テーマ 超越論的暴力とは何か -デリダの思想形成の観点から--
報告者 亀井 大輔(文学部非常勤講師)
テーマ ギリシア哲学と暴力-ピュタゴラス学派をめぐって-
報告者 日下部 吉信(文学部教授)
報告の要旨

今回の研究会では、最初に青柳雅文氏が「暴力と和解の星座 Konstellation――Th・W・アドルノの〈非同一的なもの〉の思想、意味論を手がかりに――」と題する報告を行なった。 冒頭では、アドルノがホルクハイマーとともに亡命中に『啓蒙の弁証法』を書き、そこで啓蒙的な理性が(自然)支配の暴力に転化したことが説明され、さらに、そもそも何かを「同定する=同一化する」われわれの理性そのものにすでに暴力性が含まれていることが論じられた。対象を意味づけて同定する思考は、それに抵抗し、すり抜けるものにいつも出会う。 アドルノは、それを、アレゴリーを手がかりにして示す。それ自身でなく、別のことを言うアレゴリーは、いつも新たな意味に開かれた運動であって、このことが歴史を形作る。このなかで、「意味Sinn」ではなく、「意味Bedeutung」が問われる。 これはたえず新たな「解釈Deutung」に開かれている。しかし、アドルノはまた(意味づける)意識と(すり抜ける)対象との「和解」も考えていた。

次に亀井大輔氏が「超越論的暴力とは何か――デリダの思想形成の観点から――」と題する報告を行なった。まず「超越論的暴力」が論じられたレヴィナス論が示され、それがデリダの(現前の形而上学の批判として知られる)思想形成の過程のなかに位置づけられた。 そこから歴史の捉え方に展開して、レヴィナスの「終末論的」思考へのデリダの批判が論じられた。 これらをつうじて、デリダにとって、思考がいつも起源より遅れてしまうこと、しかし、そのようにしかわれわれは思考できないことが示された。他方、レヴィナスにとって、存在(同・全体性)の外部としての他者が問題になることが示され、しかし、デリダにとっては、そうした外部に――哲学の言語に対立する――「無言」を帰属させることによって「最悪の暴力」が登場してしまい、それゆえ「最小限の暴力」を選ばねばならないことが示された。

最後に日下部吉信氏が「ギリシア哲学と暴力――ピュタゴラス学派をめぐって――」と題する報告を行なった。まず古代においてピュタゴラス主義が迫害されたことから話が始まり、ピュタゴラスが外部思想をギリシアに持ち込んだことが示された。それは主観性原理であり、それに反感をいだくギリシアの土着思想(自然・存在の思想)との抗争が生じた。 しかしまた、ピュタゴラス主義の主観性原理そのものに暴力性が含まれることが示された。さらに、一神教が主観主義であること、主観性原理が暴力を発生させることが示された。

いずれも、哲学的な議論であったが、暴力に対して、20世紀のドイツとフランス、そして古代ギリシアにおける対応が示され、啓発されるところの多い研究会であった。

谷 徹

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