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2017年度卒業研究の「学会賞」と「特別賞」が映像学会より発表されました!

2018.03.27

立命館大学映像学会をご存知でしょうか?
映像学部生の皆さんも、実は全員所属しています。

映像学会は、映像学部・研究科に属する教員、映像学部生・研究科院生、卒業生・修了生などから構成され、映像学に関する学術の研究と普及を目的とした学会です。機関誌「立命館映像学」の発行・講演会の開催・学生補助・その他様々な企画を立案し、運営しています。学会の下部組織となる映像学会学生委員は在学生にも身近な存在で、毎年秋に開催されている映像学部ビッグイベント「ジャンキャリ」の学生発信企画などはこの学会学生委員が主体となって運営しています。

その映像学会では、映像学部開設(=映像学会開設)10周年を記念し、今年度より「立命館大学映像学会『優秀研究(制作・論文)の顕彰』」を創設し、映像学部学びの集大成でもある「卒業研究」成果物の「制作+解説論文」および「論文」の中でそれぞれに、最も成績が優秀と認められたものに「学会賞」、成績に関わらず特筆すべき意義をもったものと認められたものに「特別賞」を与えることとなりました。なお、各賞には顕彰金が授与されます。

そしてこの記念すべき第1回(2017年度)の顕彰授与について、去る3月20日(火)の卒業式後におこなわれた映像学会主催の卒業パーティで発表がありました!


早速、このEIZO VOICEで顕彰結果をご報告いたします!

2017年度立命館大学映像学会「優秀研究(制作・論文)の顕彰」受賞結果 ※以下敬称略
●卒業研究「論文」学会賞
氏名:五十嵐 季旺(北野ゼミ)
論文題目:「『風立ちぬ』における夢の表象について」
受賞理由:本研究は、宮崎駿監督の『風立ちぬ』について考察した、非常に優れた論文である。零戦の設計者である堀越二郎を主人公に据えた宮崎の姿勢を直線的に疑問視する公開時の批評に抗って、なぜ宮崎が主人公堀越二郎の「夢」を作品の中心的なモチーフにしたのか、またそれによって、二郎の戦時の生き方をいかに繊細に描き出しているのかが説得的に論じられている。設計士としての進路を決定づけた少年時代の「夢」が、飛行機を自ら操縦し、その乗客たちを笑顔にするという二郎の抑圧された願望の顕れとする前半の考察は特に興味深く、ここには作品の細部に分け入って、丁寧な分析を重ねてきた成果が認められる。論理展開をスリリングなものにしている筆力も評価に値する。


五十嵐 季旺さん(左)と北野学部長

●卒業研究「論文」特別賞
氏名:三重野 瞳(細井ゼミ)
論文題目:「テレビ番組のテロップにおける要約手法とアクセシビリティ~NHKニュース番組を題材として~」
受賞理由:我々が日常的に映像と接する時、自分と同じようには視聴きしない(視聴きできない)人たちがいることに思いを馳せることは難しい。本研究が対象とするテレビのテロップとは、まさにそのような誰もが視たことはあるが、そこで立ち止まって深く考えることの少ない事象である。本研究が何よりも優れているのは、マジョリティの中では無視され等閑視されがちなテーマに対して、真正面から取り組んでいる点だ。このような視点は、聴覚障碍者の立場にたってこそ気が付く問題意識であると言える。
また、とはいえ数少ない先行研究について丁寧に読み解き、その内容を自らの研究にうまく取り入れつつ展開していることも、本研究の位置付けを明確にするという点で優れた点といえる。
さらに、研究手法についても、自ら実験映像を制作し、予備実験から本実験、実験結果に対する評価の分析へと段階的に実験を進めるなど、実証的に問題解決を図ろうとする姿勢にも好感がもてる。
 本人も自ら指摘しているように、研究方法や実験対象者などについて課題は残るものの、以上の点から本研究は特別賞に値するものと判断した。


三重野 瞳さん

●卒業研究「制作+解説論文」学会賞(最も成績が優秀と認められたもの)
氏名:稲田 優太(ライオンズゼミ)
論文題目:「映像を奏でるパフォーマンスの研究」(『ピアノと映像による二重奏』)
受賞理由:「映像を奏でる」をテーマとした本研究における映像作品および解説論文は、リアルタイムグラフィックスや音楽のビジュアライゼーション、またそれらを映像パフォーマンスとして発展させるためのインターフェイス技術を軸として、1回生から多くの作品制作に取り組みながら積み上げてきた学修成果の到達点を高く示している。音楽や身体運動に新たな側面を見出し、美しく演出する表現となるための映像は、センサや深度カメラを活用しプログラミングによって生成されており、数々の作品制作で培った経験や知識、技術を十分に発揮したものである。その集大成のひとつとなる
『ピアノと映像による二重奏』については、卒業制作展においても多くの鑑賞者の関心を集めていた。今後においても、音楽やセンサデータのさらなる独創的な映像表現や映像技術開発へと発展していくことを期待しつつ、学会賞に値すると判断する。


稲田 優太さん

●卒業研究「制作+解説論文」特別賞(成績に関わらず特筆すべき意義をもったと認められたもの)
 ※この賞はいずれも受賞に値するとの理由で、3名の受賞が発表されました。
氏名:中島 悠作(実写ゼミ)
論文題目:映画『極東ゲバゲバ風雲録』に於ける企画、脚本、演出について(『極東ゲバゲバ風雲録』)
受賞理由:イメージが運動を生み出すこと、それこそが、映画というものが携えている造形上の豊かな特質のひとつである。それは、欧米でそのデバイスが誕生したときに与えられた名称にも、日本語に訳されたときに「活動写真」という語にも、示されているものだ。本作『極東ゲバゲバ風雲録』に一貫して看てとることができるのは、そうした特質、イメージが成す運動という特質をダイナミックに実現しようという強靭な意志である。畢竟、その実現に向けて少なからず自らの実存を賭けた制作者は、作家といっていい風貌さえたたえている。実際、本作が放つ運動性は、今回の映像展で上映や展示された作品群のなかで、他を凌駕し異彩を放ってさえいただろう。観る者の身体そして情動を巻き込むその運動性は、生半可なインタラクションなど吹き飛ばすものでもあったろう。
 冒頭、奇妙な人形の、一件地味な、けれどもねじれた振動に、本作の運動ははじまる。唐突につづく次のシークエンスでは、監督自らの身体が、交差点を横切って対面に据え付けられたカメラと向かう。たどり着くやいなや、すぐさま、その口、頭、から観客を煽る言葉が発せられるのだが、そのときはやくも本作の運動はひとつの頂点に達するだろう。そして、それは、エンディングにおいて、何かに憑かれたように歩道を滑走する、同じく監督の身体を追うイメージまで一直線につながっていくのである。
 たしかに、随所に挟まれたいくつかの寸劇———山中における放射能の擬人化された交歓、ぬるくこじれていくデモの歩行、ボランティア活動をめぐりとり交わされる列車内での言葉の迷走———は、演劇的な装いをもってもいよう。けれども、スクリーンを回路として観客を襲ってくるのは、放射能の浸透、歩行の軋み、電車のなかの身体といった、歪み彷徨っていく運動にほかならない。それは、撮る者が置かれた状況も、観る者が置かれた世界も、巻き込んでいくものなのだ。
 イメージが動くこと、それを画面へとみごとに物質化することのできた本作は、学部開設以来の卓越した作品とさえいえるだろう。頑としてでも擁護せねばならないものである。


中島 悠作さん


氏名:壷内 里奈(鈴木ゼミ)
論文題目:「棺に関わる人々からみる現代日本人の死生観」(『がらんどう』)
受賞理由:本研究において制作された『がらんどう』は、遺体を納める棺をテーマにしたドキュメンタリーである。この作品は、葬儀屋、住職、棺職人、棺デザイナー、湯灌師など、「死」をめぐる産業(エンディング産業)に携わる人々へのインタビューを積み重ねることで、社会が(個的な)死をどのように共有するのかという根源的な問いを、静かに立ち上げることに成功している。棺を、社会的に共有可能な「死の形」として捉えたことがこの作品の強みであろう。全体の構成も巧みで、極力観察者に徹しようとしている作り手の姿勢がすばらしい。葬儀場など撮影が憚られるような場でも粘り強い取材力・交渉力を発揮しており、その点も評価に値する。ドキュメンタリー作家としての将来を嘱望する。


壷内 里奈さん



氏名:片山 怜(ゲームゼミ)
論文題目:「展示空間を活用したゲームデザインと演出」(『デジタル影遊び』)
受賞理由:映像が光を伴って起きる現象に依っているとすれば、影はその根源的なもののひとつである。また、影は、それに起因する存在のもうひとつの姿に気づかせるものでもある。本研究は、そのような影に着目しつつ、デジタル映像技術を用いたゲーム体験の中に「新しい影」を創造している。幅4m高さ2m奥行き3m程のエリアに、2台のプロジェクターと深度カメラを組み合わせた展示型デジタルゲーム作品では、体験者の影を2台のプロジェクターから映像として生成しており、この映像による影はあたかも自分は魔法使いではなかったかと体験者に錯覚させ、楽しませるものである。展示・設営方法も自らの創意工夫を発揮して実施されており、体験者の関心を多く集めていた。ゲームとしても多くの体験者が楽しんでおり、リピーターも多く見られた。ゲームデザインやプログラミング、空間構築について、自らが学びとして修得した技術を十分に発揮して作品を完成させた点も評価できる。以上の理由により、特別賞に値すると判断する。


片山 怜さん

●修士研究学会賞
氏名:中島 理紗
論文題目:「ソーシャル・コミュニケーションと視覚デザイン~「トイレ型UI」の開発を通じて~」(『Webシステム「TOTOL」』)
受賞理由:本研究で開発された「TOTOL」は、人々が心に抱える“もやもや”とした感情を共愉的なコミュニケーションの場に引き出し、これを他者と共有し合うことで、その“もやもや”を緩和あるいは解消することを狙ったWebシステムである。トイレをモチーフとしたUI設計のユニークさもさることながら、吐き出された愚痴(ユーザの言葉)がキャラクター化され、これが他のユーザに触れられると次第に浄化されていくという物語性、さらにその物語を視覚的に支える豊富なキャラクターの造形性がすばらしく、こうした細部の作り込みがこのトイレ型UIの完成度を高めている。卒業研究から、「ジャンキャリ」での発表を経て、修士研究に至るまで、着実にその内容を充実・発展させてきたことも評価したい。


中島 理紗さん

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受賞者の一人である片山怜さんが、受賞挨拶の中で語った言葉をここで紹介したいと思います。

「自分には野望があります。映像学部のここにいる卒業生が社会に出て、どんどんいい仕事をするようになり、それが横につながっていき、自分が業界でやりたいことがみんなの力ですごくやりやすくなる未来が来ることです」

この言葉には、映像学部教学のすべてがつまっているように思いました。
自分の専門を磨いた卒業生たちが、社会に出て更に知識・経験・技術・人脈などを身に付け、いつか異なる分野で活躍する同期や先輩・後輩たちとつながり、融合し、新しいイノベーションを生み出す。

先生方も自分たちが大切に大切に育ててきた学生から、このように力強い未来図が語られたことで、また新たな気持ちで新入生を迎えることができるのではないでしょうか。

本当に温かく、素敵な授賞式になりました。