学食に「動物性原材料不使用」の“ヴィーガンメニュー”導入を実現した学生団体「LiNK」。
2021年11月からスタートした「VEGE WEEK」は、これまでに3回開催し、延べ約2万8千食を販売。
多くの人の関心を集めた。
「自分の心に素直でありたい」と語る、学生団体「LiNK」共同代表・市村リズムさんに話を聞いた。
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なんで猫や犬は可愛がるのに、他の動物は食べるのだろう

彼がヴィーガンになったのは、大学1回生時。授業で自身や他者の「アイデンティティ」に関する課題に取り組んだことがきっかけだった。父親がベジタリアンで以前から関心があったこと、また所属する国際関係学部には留学生が多く「興味を持ってもらえる内容」だと考え、「ベジタリアン・ヴィーガンについて」を課題テーマとした。
実践する人たちへのインタビューや多くの文献を調べる過程で、これまで知らなかった“工業型畜産”の実態を知り、ある疑問が湧いた。「なんで猫や犬は可愛がるのに、他の動物は食べるのだろう」。
動物を犠牲にして、エネルギーを得ることに初めて疑問を感じた瞬間だった。学び続けるうち、ベジタリアン・ヴィーガンの食生活は、環境や健康へのメリットが大きいことも知って心が動いたが、同時に葛藤も抱えた。「食生活を急に変えることで、友達付き合いで困ることはないか。学食で食べられるものはあるのか。そういったことが最初はネックでした」と振り返る。授業の課題を進めながらも、市村さんの心は揺れ動き続けた。だが、最終的に「動物を食べない方が、気持ちが良い」と、“自分の心に素直”になり、ヴィーガンを実践することを決めた。
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学生団体「LiNK」の立ち上げ

学食にはヴィーガンが食べられるメニューが少なく、それを課題に感じていた市村さん。3回生時、学食にヴィーガンメニューを導入した経験のある起業家の話を聞き、「自分でも挑戦したい」と心が動いたという。ヴィーガンの友人らと3人で、学食へのヴィ―ガンメニュー導入に向けて動き出し、2021年4月に学生団体「LiNK」を立ち上げた。

LiNK設立後、びわこ・くさつキャンパス(BKC)の生協にヴィ―ガンメニューについて相談したところ、「多様な食需要への対応を課題に感じていました。ぜひ一緒にやりましょう」と協力を得られることになった。打ち合わせを重ね、企画開催の日程まで話がスムーズに進んだが、喜びも束の間、新型コロナウイルス感染症拡大防止のために発出された緊急事態宣言の影響で、企画は延期を余儀なくされた。
「メンバー全員が力を尽くして企画を形にし、開催まであと一歩というところまで来ていた矢先の出来事でした。大学への入構が制限され、いつ開催できるのか見通すことができない状況にショックを受けました」と語る市村さん。それでも「悩んでいる暇はない。次の機会に向けて今できることを進めよう」。前を向き直し、仲間たちとメニューのブラッシュアップなど地道な活動を続けた。

そんななか、2021年9月に「衣笠キャンパスでヴィーガンメニューの企画が検討されている」という知らせが届いた。他の学生が進めていた企画だったが、「目指す方向は同じ」とLiNKも合流。試験的にヴィーガンメニュー企画を実施することができた。
衣笠キャンパスでの経験を経て、LiNKが取り組んできた企画が、ついにBKCで開催できることが決まった。当初開催を予定していた時期から、5カ月が経過していた。「諦めずに準備を続けてきて本当に良かったです」と市村さんは笑顔を見せた。

満を持して、2021年11月「第1回VEGE WEEK」を開催。約1カ月の開催期間で約8千食を販売した。
市村さんたちも驚くこの結果を受け、「VEGE WEEK」の年2回開催が決定。「多くの人に“届いた”ことに、すごく驚きました」と市村さん。「食堂で『ヴィーガン』という言葉が自然に聞こえてきたのがすごく嬉しかった。これも、実現に向けて尽力してくださった多くの方々のおかげだと、本当に感謝しています。学生の声が“届く”んだ、と実感しました」。彼はそう噛み締めた。

「VEGE WEEK」後に実施したアンケートの中に、印象的な言葉があった。
「授業では“食糧問題”を学ぶのに、学食ではほとんど選択肢がなく、動物性原材料由来食品が大半。学びを実践できないと思っていたので、今回の『VEGE WEEK』がとても楽しみだった」。市村さんは、身近な学食が学びの実践の場となり、選択の機会を提供できたことに活動の意義を改めて感じたという。
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どういう食の嗜好でも、みんなで同じテーブルを囲み、楽しく会話ができる社会に

「“ライフワーク”として、ベジタリアン・ヴィーガンに関する仕事に携わろうと考えています。自分の経験も踏まえて、ベジタリアン・ヴィーガンは、まだまだ周囲に理解されないことが多いと思います。『少し変わった人なのかな』と受け止められることもある。私はどちらの視点にも立てるので、両者の“隔たり”を埋めていきたい。『どういう食の嗜好でも、みんなで同じテーブルを囲み、楽しく会話ができる社会』を実現したいです」と力を込める。
「第2回目の『VEGE WEEK』から、1品を“TFT”メニューとしました。先進国と開発途上国の間の“隔たり”を埋められる素晴らしいシステムだと考えていますし、『TFTメニューということもあり、選んだ』という話も多く聞き、嬉しく感じています」。
「動物倫理・環境問題・健康面などから、今後はさらにベジタリアン・ヴィーガン食を選択する人が増えていくと思います。日本でも、もっと気軽に実践できる選択肢を提示していきたい。どこの飲食店でもメニューを選ぶことができ、どこのスーパーマーケットでも簡単に商品を入手できる。“特別”なことではなく、『今日はヴィ―ガン食にしよう』と思った人が“普通”に選択できる社会。それが私の目標です。そして、その第一歩として、学食への“ヴィーガンメニュー常設化”を目指しています」。

“LINK=繋ぐ”。人と人を隔たりなく繋ぐ、市村さんの挑戦はこれからも続く。

※TFT: TABLE FOR TWO (TFT)は、先進国で1食とるごとに開発途上国に1食を贈る仕組みのこと。1食あたり20円が寄付となり、アフリカ・アジア(ウガンダ、ルワンダ、タンザニア、ケニア、マラウイ、フィリピン)の飢えに苦しむ子どもに給食1食分が贈られる。
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PROFILE

市村 リズムさん

京都府立福知山高等学校卒業。

ヴィーガンレストラン巡りや美術館巡りが趣味で、コーヒーが好きでカフェにもよく行くという。集まった人が食事やコーヒーを楽しみながら、会話をしたり、本を読んだりと、多くの人を惹きつけつつも、それぞれが思い思いに自分の時を過ごす“空間”に興味がある。

LiNKの歩み:『2022年度校友会未来人財育成奨励金(団体支援)』を取得。
学食内対象メニューに「veganマーク」表示を進めた(衣笠キャンパス、BKC、大阪いばらきキャンパス)。
衣笠キャンパスでは月に1度、「KAMOGAWA BAKERY」と連携し、「動物性原材料不使用」ベーグルを生協購買で限定販売している。その他にも、学内外でベジタリアン・ヴィーガン食への理解を深めるイベント企画・運営を行っている。

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