スピーディーな試合展開と激しい競り合い、巧みなスティックワークが見所のフィールドホッケー。ホッケーの強豪である立命館大学体育会ホッケー部では、在学生・卒業生ともに多くの選手を日本代表に輩出している。そのうちの一人が男子主将を務める川村裕亮さんだ。中学生の頃から全国大会での優勝、ジュニアユース選抜といった経験を重ね、大学3回生で日本代表「サムライジャパン」の一員に選ばれ国際大会に出場。大学では主将として春季・秋季リーグ、インカレの3冠達成へとチームを導き、インカレ最優秀選手に輝いた。「日本一」の命題を掲げる伝統のホッケー部を率いた彼の競技人生に迫った。

憧れの先輩の背中を追いかけて

6つ上の兄の影響で幼稚園からアイスホッケーを始め、小学生からは並行してフィールドホッケーチームに入団した川村さん。中学校からはフィールドホッケーに専念し、全国屈指の競技水準の環境に身を置いた。3年生になると守備陣の中心的役割を担い、全国大会で最優秀選手賞を受賞、全国制覇に大きく貢献した。さらにその活躍が認められジュニアユースに選ばれると、国際大会の舞台でも力を発揮。「Hockey WA F-H-Eカップ」3位入賞の結果を残した。

高校入学後は半月板を損傷する怪我に見舞われたが、1年生から出場機会を勝ち取り、2年生のときにインターハイ優勝を経験。日々の練習で1体1でのディフェンスやインターセプトの技術を磨き上げユース代表に選出されると、主将としてチームを牽引。インターハイ、国体、全国選抜大会の3大会で表彰台に登るなど、輝かしい成績を残した。

進学先を立命館大学に決めたのは、背中を追い続けた先輩の存在が決め手だった。「小さい頃にホッケーで遊んでくれた大橋雅貴さん(’16法学部卒)や、2つ上の代で主将を務めていた藤島来葵さん(’20経営卒)といった憧れの選手が在籍されていたことが大きかったです。特に藤島さんには進学を直接誘っていただき、『自分も立命館でプレーして日本一を目指したい』と強く思いました」と振り返る。

入学後はトップクラスの競技環境に圧倒されながらも、献身的なディフェンスを持ち味に頭角を現し、シーズンの後半にはレギュラーを奪取。「堅守速攻」が代名詞の立命館のディフェンスラインを支えてインカレ優勝を果たし、U21日本代表選手にも選出。華々しい大学競技生活のスタートを切った。

サムライジャパンで学んだ「勝つためのディフェンス」

だが一転して2年目のシーズンは苦しむことになる。夏の大学王座戦では、準決勝の天理大学戦で失点に絡むミスを犯し、チームは敗退。「大事な試合でチームに迷惑をかけてしまったことでどこか自信をなくしてしまい、その後の試合にも影響が残るようになってしまいました」と厳しい表情で振り返る川村さん。秋のインカレ決勝では再び天理大学と相見えたが、思うようなプレーはできず二度目の敗北。シーズンを通して、チームの勝利に貢献できていないという自責の念に苛まれた。

出口の見えないトンネルを脱したきっかけは、背中を追い続けたプレイヤーとの交流のなかで見出した。「男子日本代表の候補選手として代表合宿に帯同したとき、大橋さんや藤島さんとコミュニケーションを取りながらプレーしていくうちに、ホッケーに対するマインドの面で自分に足りないものがあることに気がつきました。相手のどこを見てプレーしていて、狙いを先読みするにはどのような工夫や想定が必要なのか。一緒にプレーをするなかで、勝つためのディフェンスを学ばせてもらうことができました。あくまで候補選手という立場でしたが、トップクラスの選手と練習させてもらったことで、これまで以上に熱い思いを持ってホッケーに向き合うことができるようになりました」と大きな転換点を振り返る。

その後川村さんは、「FIH男子ワールドカップ」の予選で代表デビューを果たすと、本戦で世界ランク1位のベルギー、東京五輪優勝国のドイツと対戦。世界の強豪としのぎを削り、サムライジャパンの一員として過ごした濃密な時間は、次のステージに向かううえで必要な高い視座と自覚を芽生えさせるものとなった。

再び立ちはだかる宿敵の壁

ラストシーズンを迎え、川村さんは主将に就任。インカレ、大学王座戦をはじめとする主要大会六冠達成という高い目標を掲げると、初陣となる春季リーグを制し、偉業達成へ向けてチームは順調な滑り出しを切った。

ところが、見えない重圧や焦りがチーム全体にあったのだろう。日本リーグでファイナルステージ進出を逃すと、1カ月後の大学王座戦では決勝で天理大学にタイトルを許す。試合開始から主導権を握っていたにもかかわらず、終盤で少ないチャンスを相手にものにされて勝ちを逃すという、最も悔しい展開でシーズン前半を終えることとなった。

しかしこの敗北は、後半戦に挑むチームの推進力を高めるものとなった。「前半戦を振り返り、日々の練習からコミュニケーションの密度を高めることをチーム内で徹底しました。加えて4回生の選手やサムライジャパンの高出大輝選手(総合心理学部4回生)、川原大和選手(政策科学部2回生)が中心となってチームを引っ張ってくれたおかげで、チームの総合力が高まっていきました」。

敗戦を糧にし、迎えたインカレ決勝の相手は宿敵・天理大学。試合は序盤から膠着状態が続いたが、第2Qに先制を許し終始攻めあぐねる展開に。だがシーズン前半とは異なるチームの姿がフィールドにあったと川村さんは語る。「『自分たちのホッケーができれば必ず逆転できる』。そういった高い士気がチーム全体にあったので、必ず後半で追いつけると確信しました」。その読み通り、残り2分半で同点に追いつくと、シュートアウト戦で逆転勝利。見事に学生日本一に輝き、川村さんは最優秀選手賞に選出された。「同点に追いついた後もさらに一点を取りに行くアグレッシブな姿勢がチームにあり、前半戦には発揮しきれなかった立命館の底力を出し切ることができました」と笑顔で語った。チームはその後秋季リーグを制し、シーズン3冠を達成。6冠にこそ届かなかったが、常勝・立命館の底力を見せつけてシーズンの幕を下ろした。

立命館の選手としてホッケー界を盛り上げたい

卒業後は社会人の強豪・LIEBE栃木に進み、ホッケー選手として新たなスタートを切る川村さん。そんな彼はホッケー界をさらに盛り立てる未来を描き、後輩たちにエールを送る。「新チームでは力のある新入生が入ってくれて、今年も6冠達成を目標に掲げたと聞いています。でも日本リーグでは自分が相手になるので、しっかりと後輩たちに勝ちたいと思います。お互いに立命館の選手としてこれからもホッケーを楽しんで、一緒にホッケー界を盛り上げていけたら嬉しいです」。常勝・立命館の伝統を受け継ぎ、献身的なプレーで結果を残してきた川村さん。ホッケー界を牽引する存在として、後進に目標とされる日はそう遠くはないだろう。

PROFILE

川村裕亮さん

栃木県立今市高等学校卒業。ホッケーのまちとして知られる栃木県日光市で育ち、兄がホッケー選手だった影響を受け、幼少期から競技に親しんだ。趣味はスポーツ観戦で、特にサッカーとアイスホッケーの試合をよく観ている。

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