立命館大学 生命科学部 応用化学科無機触媒化学研究室

研究内容

(1) 担持金属触媒についての研究

概要

 金属を活性中心とする触媒系は、現代社会を支える様々な材料の効率的な生成や工場や自動車などからの排ガス浄化など、多くの場面で重要な役割を果たしています。しかし、より高性能な触媒を開発することが、これからの持続可能な社会の確立に向けて不可欠です。私たちは、試行錯誤的に触媒を開発するのではなく、現在の触媒系が機能を発現するメカニズムを原子レベルで解明し、性能を制限する因子の理解を通して、より効率的な機能の発現や副作用の低減、省コスト化や長寿命化などのための指導原理を提示します。

 この研究においては、触媒が実際に反応する環境(高温や反応ガス雰囲気)下での活性金属化学種の状態を知ることが重要です。例えば、金属粒子が結合を開裂することで反応が進行する場合、その金属の表面が酸化物になってしまうと活性が出ません。金属ナノ粒子の化学状態を反応条件下で解析することで、性能が劣化する要因がわかり、それを防ぐことが触媒活性の維持・向上につながります。このような研究目的に対しては、SRセンターなどの放射光施設を用いたXAFS解析が非常に有効です。これまでに培ってきたXAFS解析の技術を駆使し、未来の触媒材料の創製を目指しています。

具体例

NOXとCOの同時無害化触媒

S. Yamashita, Y. Yamamoto, H. Kawabata, Y. Niwa, M. Katayama, and Y. Inada, Catal. Today, 303(1), 33-39 (2018).

 化石燃料から生じる排気ガスに含まれる有害成分にはNOxやCOが含まれます。例えば、自動車の排気ガスを無害化する触媒として貴金属を用いる触媒が使われていますが、それを低コスト化するための研究の一例です。

 下の図は、シリカに担持したNi触媒に反応環境下で測定するXAFS法を適用した結果です。左図では、金属NiをNO雰囲気下に置いて室温から昇温すると、300 ℃から600 ℃にかけてNiOへ酸化される(このときNOはN2へ還元される)ことを示します。一方、右図では、NiOをCO雰囲気下に置いて昇温した結果で、約550 ℃で金属Niへ還元される(このときCOはCO2に酸化される)ことを意味しています。

 この結果から、600 ℃以上でNOとCOが共存すれば、担持Ni化学種のNOによる酸化およびCOによる還元が同時に進行し、結果的にNOのN2への還元とCOのCO2への酸化が達成されることが分かります。600 ℃以上の条件に課題がありますが、貴金属フリーの新しい排ガス浄化触媒として期待されます。

(2) 二次電池についての研究

概要

 現代社会が直面するエネルギー問題を解決するために、二次電池の高性能化の研究が広く行われています。高容量で長寿命、高安定性な電極材料の開発が盛んに行われています。私たちは、試行錯誤的に電極材料を開発するのではなく、現在の二次電池系が機能を発現するメカニズムを特に空間スケールの観点から解明し、性能を制限する因子を明らかにすることで、より高性能な二次電池材料の創製を目指します。

 この研究においても、二次電池が充放電されているその場での電極活物質の状態を知ることが重要です。例えば二次電池の正極では、充電によって電子を放出し(活物質が酸化され)、逆に充電によって電子を吸収します(活物質が還元されます)。また、二次電池の電極はシート状になっているため、二次元のシート内の至る所でその酸化還元反応が進行しています。私たちは、二次元シートの場所ごとに活物質の酸化状態を解析するXAFS法を開発し、二次電池の充放電反応がどのように進行しているかを可視化し、そこに潜む課題の明確化と解決のための指針の提示を目指しています。

具体例

リン酸鉄リチウム正極の空間分布解析

M. Katayama, K. Sumiwaka, R. Miyahara, H. Yamashige, H. Arai, Y. Uchimoto, T. Ohta, Y. Inada, and Z. Ogumi, J. Power Sources, 269, 994-999 (2014).

 リン酸鉄リチウム(LiFePO4、LFP)はリチウムイオン二次電池の正極活物質の一つで、充電でLiイオンを完全に引き抜いても(全てのFeを酸化しても)安定ですし、放電で可逆的にLiイオンが挿入する(全てのFeを還元できる)物質です。しかし、低い電気伝導性が課題で、下の図に示すように、シート状の正極面内で充放電が進みやすい/進みにくい場所が明確に現れます。

 二次元のシートを空間分解してXAFS解析する技術を独自に開発し、不均一に進行する充放電反応を可視化しました。その結果、集電箔に塗布している正極合剤(LFPと炭素と結着剤の混合物)の電気伝導性の空間的不均一性が原因であることを突き止めました。その結果を踏まえ、集電箔表面の導電性コーティングによる不均一性の改善や、LFP粒子へのカーボンナノチューブ修飾による大電流放電特性の大幅改善に成功しました。

(3) XAFS測定法についての研究

概要

 XAFS法は、元素を選択し、試料の状態(固体・液体・気体、高温・低温、ガス雰囲気)を問わず、目的元素の電子状態と局所構造を解析できる研究手法です。金属触媒や二次電池材料など、金属元素が固体状態で機能を発現している材料について、その場での状態解析では極めて有用な情報を与えます。私たちは、約30年間に渡ってXAFS技術の研究を続けており、これまでに多種多様な新規XAFS測定法を発案・実証しています。例えば、ストップトフロー時間分解DXAFS法、二結晶DXAFS法、ポンプ&プローブDXAFS法、二次元イメージングXAFS法、鉛直分散一次元DXAFS法、二元素DXAFS法などがあります(研究業績参照)。

 このような実験手法の新規開発には、専門的な知識と技術が必要ですが、これまでにない世界初の実験装置ができれば、これまでにない世界初の実験データを得ることができるようになります。それは、これまで未知だった反応メカニズムの解明などを可能にし、新規な機能性材料の創製に重要な情報を与えます。

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