■ 金子さんはこの研究拠点でどのような研究をされているのですか?
日本文化デジタル・ヒューマニティーズ拠点において、私は静止画によるデジタル・アーカイブの研究を行っています。「デジタル・アーカイブ」とは、文化財などのオリジナル・コンテンツをデジタルデータの形で恒久的に保存し、活用していく活動です。私は実際に日本文化関連のデジタル・アーカイブを構築する実務と、どのように構築していくべきかという方法論や体制の整備を追及する研究の両方を行っています。21世紀COEプログラムの中でも、デジタル・アーカイブは研究活動の核となっていましたが、今回の「日本文化デジタル・ヒューマニティーズ拠点」では、21世紀COEプログラムの成果をさらに発展させ、より高度で専門的なデジタル・アーカイブ活動が展開されるのではないかと思います。
では、実際にデジタル・アーカイブがどのように役立つのかというと、例えば日本の研究者が、海外に所蔵される浮世絵を実際に見たいと思ったとします。しかし、実際に実物を見たくても様々な制約があり、難しいのが現実です。もし見たい作品がデジタル化されていて、インターネット上で公開されていれば、その作品を世界中どこからでも閲覧することが可能になるのです。ネットワーク上での閲覧が可能になれば、研究資源の充実に直結するのはもちろん、世界中の人々に日本文化を知ってもらい、興味を持ってもらう足がかりにもなるのではないかと期待しています。現在、当拠点では実際に浮世絵や古典籍のデジタル・アーカイブを公開していますが、アクセス解析により、海外からのアクセスが非常に多いことが判明しています。また研究者や学生が閲覧する以外にも「CGの作成に使いたい」とか「テレビのCMに使いたい」といった反響が寄せられる場合もあります。このように、デジタル・アーカイブを構築すれば、研究資源だけではなく、コンテンツとしても活用できますから、研究活動の成果を社会に還元していくことができますね。
一般にあまり知られていませんが、浮世絵をはじめ、日本の古典籍資料は、日本だけでなく海外にも多く現存しています。在外資料も研究資源として整備するために、2007年8月からイギリスの大英博物館に所蔵されている絵画資料のデジタル・アーカイブにも取り組み始めました。
■ デジタル・アーカイブの対象は国内の資料だけではないのですね。ではイギリスの大英博物館では具体的にどのようなことをされているのですか?
大英博物館のアジア部日本セクションで、浮世絵のデジタル・アーカイブ構築を行っています。必要な機材はほぼ全て日本から持ち込みました。以前にも海外でデジタル・アーカイブ活動に関わったことはあります。しかし海外で私が現場の中心となってデジタル・アーカイブ構築を行うのは今回が初めてです。
浮世絵は図録(絵画など図を多く載せた記録や書物)などでは平面的に見えますが、実物には様々な工夫が凝らされていて、見る者の目を楽しませてくれます。例えば凹凸をつけて立体的に表現されていたり、光沢や艶を出してあったりします。それらも忠実に記録しますので、1点の作品につき、最大3カットは撮影を行っています。
今回はロンドンに約3週間滞在して、4500〜5000カット程度のデジタル撮影を行う見込みです。最終的には、出来上がったデジタル画像を大英博物館に納めて、それらはweb公開されることになっています。近い将来、大英博物館所蔵の浮世絵が世界中から閲覧できるようになるのです。
我々にとっては、簡単に見ることができない貴重資料を閲覧する絶好の機会ですし、プロジェクトの研究資源を増やすこともできます。立命館大学と大英博物館の双方にメリットのある研究活動といえると思います。
■ これからの目標を教えてください。
現在、古典籍資料を所蔵している機関では、デジタル・アーカイブ構築を自ら行っているところは多くありません。研究活動に有効に作用するデジタル・アーカイブを構築するためにも、今後は日本文化研究分野の専門知識をもちつつ、デジタル・アーカイブを専門的に行うスタッフが必要とされることでしょう。
私自身としては、できるだけ多くの事例に関わって、どのような資料を任されても仕事を完遂できるよう、経験値をあげていきたいと思いますね。浮世絵をはじめとして、日本文化を象徴する文化財資料は世界中に散在しています。これまでも、多くのデジタル・アーカイブ活動に関わってきましたが、これからも世界を相手にデジタル・アーカイブ活動を展開し、研究成果を社会に還元していきたいと思います。特に浮世絵については、私も参加しているプロジェクトが、世界中に広がる浮世絵コレクションのデジタル・アーカイブ構築をハイペースで進めています。あと何年かかるか分かりませんが、世界中の浮世絵をデジタル・アーカイブ化することも夢ではなくなってきているのです。
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