共生・循環型社会基盤に立脚した環境・食料生産システム | 農地環境を精密に評価し食の安全・安心に科学で迫る。

微生物量に基づく農地診断技術を開発

「食の安全・安心とは何か」。それを科学的に明らかにし、真の意味で安全で安心な食の提供に貢献することが私たちの研究の目的です。化学肥料の登場によって、この50年の間に農地環境は大きく変わりました。自然の循環では、微生物が有機物を分解することで土壌を豊かにします。無機物である化学肥料を直接投入することで微生物の死滅した農地では、たとえ有機農法を行っても、十分な効果を上げることはできません。

これまでの研究で、私たちは環境遺伝子(eDNA)を抽出して解析することで、バクテリアを定量的に測定する技術を独自に開発し、地中の微生物を指標として農地環境を評価する技術を確立しました。実証調査で、農地1gあたりの微生物平均値を約35億個と測定し、微生物が2億個以下で不活性状態に陥り、農地が循環しないことを突きとめました。

また私たちは、農地環境中の窒素、リン酸の循環系において、各段階の律速物質を推定する技術も独自に確立しました。この技術を活用すれば、有機物から無機物への循環系が十分に機能していない土壌環境に、各分解段階の律速物質に替わる有効な微生物や酵素を投与することで、農地環境を改善することが可能になります。

一方で、私たちは廃棄されているバイオマスを資源として活用する研究にも力を注いでいます。これまでに、大豆かすを48時間でペプチドに分解する微生物を発見しました。これを植物生長活性化剤として農地に投与すると、投与しない農地よりも植物の大幅な生長増加と根毛増殖が認められ、ペプチドでも植物生長の活性化が可能なことを実証しました。

農地、農作物の評価から改善提案まで

プロジェクトでは、私たちが保有する科学定量技術に基づいて農地環境を評価する基準を策定し、環境評価システム(バイオモニタリングシステム)の構築と、診断手法の確立に取り組んでいます。

また窒素、リン、カリウムの循環活性を明らかにし、それぞれの活性化微生物量を解析する新規な手法を開発します。加えて評価後農地改善に資する微生物、およびバイオマス資材を投与する技術を確かなものにすることも目指しています。

さらには農地環境と植物生長に関するデータベースを構築し、農地を評価し、収穫量を予測する技術を完成させるつもりです。農地の精密診断手法、農産物の評価手法、農地改善資材が明らかになれば、滋賀県、山形県、北海道を対象にフィールドで実証実験を行います。その結果をもとに、高品質・高収量を実現する安全・安心な食料生産システムの構築、提案をしたいと考えています。

流通までを視野に入れたシステム作り

私たちの研究は、食料生産に関わる領域に留まりません。食料生産をビジネスとして魅力あるものにすることも、食料生産率を向上させる上では不可欠だと考えているからです。最終的には、IT技術も導入し、農地改善から農作物の生産、流通までを網羅した総合的な高効率システムの構築を目指していくつもりです。

私たちの提案するシステムを一般の人々が容易に利用でき、それによって大幅に収入を増やせる有意な食料生産技術にまで高めていくことができればと、将来を見据えて研究を進めています。

共生・循環型社会、環境評価システム、バイオモニタリング、安全・安心、食料生産、食料生産システム、バクテリア、バイオマス

久保 幹教授

久保 幹教授

1983年 広島大学工学部卒業、'85年 同大学大学院工学研究科博士課程前期課程修了、'92年 博士(工学、大阪大学)。'94年 イリノイ州立大学医学部文部省在外研究員。'97年 立命館大学理工学部助教授、'02年 同教授、'08年 同生命科学部教授、現在に至る。環境バイオテクノロジー学会、日本農芸化学会、日本生物工学会、アメリカ微生物学会、日本生化学会、日本土壌肥料学会に所属。'05年 安藤百福賞「第10回記念奨励部門特別奨励賞」を受賞。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:久保 幹
立命館大学 生命科学部 生物工学科 生物機能工学研究室(久保研究室)

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