「法と心理学」研究拠点の創成 | 法と心理学の融合の先に見えてくる、人間理解に基づく司法。

法と心理学の学融への要望に応える研究体制を整備

法と心理学が交差する領域については、その重要性は認識されているものの、両者の教育・研究スタイルがあまりに異なるため、日本ではこれまで十分発達してきたとはいえません。しかし現場は動いています。裁判員制度の開始に伴って市民が司法に参加する今、公判前報道が裁判員に与える影響が懸念される一方で、報道の自由との相克が起こるなど、法と心理学の出番が待たれる問題は少なくありません。こうした課題に応えるべく、本プロジェクトでは、法と心理の交錯する社会的重要問題に関して学融合的研究を行うとともに、将来を担う若手研究者を育成していきます。

私たちの強みは、問題意識を共有するだけのいわゆる学際研究ではなく、「答え」を共有し得る学融合的な共働体制を整えているところです。実際、法学と心理学を含めた複数の学範(ディシプリン)から成るグループを形成して共同研究を行い、定期的に研究会を開催するなどさまざまな共働が実現しています。加えて京都弁護士会などとの連携を深め、研究者と実践者の間の学融的成果も見込まれます。さらには韓国、カナダ、オーストラリアといった海外の法曹関係者や法と心理研究者とも緊密なネットワークを構築しています。海外での現地調査や比較研究などを活用することで、より社会実装可能な議論に結びつけていきたいと考えています。

裁判員裁判、司法臨床現代的な課題に挑む

豊富な人材を背景に、いくつものテーマで並行的に研究を行っています。その一つとして公判前報道が裁判員候補者たる市民に与える影響について検討しています。複数の新聞記事を用意してどのような影響が出るかを調べたり、その結果をガイドラインのような形で社会に提案するにはどうすべきか、心理実験と刑事訴訟法の議論によって明らかにしていきます。

次に司法臨床についても研究を進めています。現行の少年司法システムは、半世紀以上を経て現在の非行少年の質的変化に対応していないという声が高まっています。厳罰化を求める風潮、被害者支援の声、再犯防止の観点からの司法臨床や加害者臨床、これらをどうやって統合していくのか。その枠組みをつくることが求められています。日本の現状を明確にするだけでなく、問題解決型裁判などが行われているカナダやオーストラリアなど諸外国における実態も調査して新しい提案を試みます。

「わかりやすさ」の功罪を明らかにする

さらに三つ目として、裁判員制度におけるわかりやすい裁判の功罪を検討しています。「わかりやすさ」の例の一つに、録音・録画による取り調べ過程の可視化が挙げられます。しかしアメリカのラシターがカメラのアングルによって自白の信ぴょう性評価が異なるという“カメラアングル効果”を提唱しているように、録音・録画をすれば良いというものではありません。私たちもこの問題について実験を行い、カメラアングル効果が存在することを確かめました。

取り調べにおける自白についても、その信ぴょう性を判断するには、自白が一度きり聴取されたのか、一貫して繰り返し聴取されたものかといった時間軸の検討が必要とされます。そこで私たちは、地層モデリング技術を用いた3-D表示システム「KTHキューブ」を開発し、自白の争点や変遷を3次元上に視覚的に提示することを可能にしました。

ナンバーワンも、オンリーワンも!

PTSDと時効、精神鑑定と裁判員の判断、など紹介できなかった研究はたくさんあります。本プロジェクトのような研究体制そのものが世界的にも珍しいことを知ってください。将来的には、さらに幅広い問題において「法と心理」の専門家が問題解決をもとめて学融研究を行い、その成果を学生・院生に伝え、学生・院生が社会に巣立っていく。そんな研究・教育拠点を創成することが目標です。世界でも類例のない研究拠点が、今、ここに、生まれつつあるのです。

法と心理学、リーガル・クリニック、司法臨床、裁判員制度、学融合の方法論

佐藤達哉 教授

佐藤達哉 教授

1989年 東京都立大学人文科学研究科博士課程中退。博士(文学 東北大学)。'89年 東京都立大学人文学部助手。'94年 福島大学行政社会学部助教授。'01年 立命館大学文学部助教授、'06年 同教授。日本心理学会(評議員)、日本質的心理学会(理事)、法と心理学会(理事)などに所属。'00年日本発達心理学会論文賞、'09年 日本質的心理学会優秀理論論文賞を受賞。日本学術振興会「研究成果の社会還元・普及事業推進委員会」委員。「サトウ タツヤ」名でも研究・執筆活動を展開している。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:佐藤達哉
立命館大学 文学部 人文学科 心理学専攻 応用社会心理学研究室
「法と心理学」研究拠点の創成

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プロジェクト活動報告

法心理・司法臨床センター

法心理・司法臨床センター
(サトウタツヤ 教授)

2013.04.01