生体機能シミュレータと解析ツールの研究開発 | 生体機能のシミュレーションが診断・治療に新風を吹き込む。

生体機能を数理時空間上に再現する

医学はこれまで、もっぱら文章による概念記述によって知識や技術を体系化、継承してきました。こうした方法は、理解や獲得技術に個人差を生みます。それに対し、生体機能を定量的、包括的に解析するという画期的な試みに挑むのが、このプロジェクトです。目指すのは、人体機能を数理時空間に表現することです。実現すれば、技術の底上げはもちろん、医学医療領域以外からの人材の参入をも可能にし、医療を飛躍的に発展させることができるに違いありません。

私たちは、科学的実験成果に基づいて、生体機能をコンピュータの数理時空間上に実現し、病態や治療、薬物応答といった生体反応をシミュレーションすることを目的に研究を進めています。

拍動するモルモットの心臓

私たちはすでに心筋の包括的モデルを実現し、心臓のポンプ機能低下、すなわち心不全における病態と心臓薬物応答のシミュレーションを実現しています。モルモット心臓から単離した心室筋細胞に電極を装着して電気的刺激を与え、カルシウム(Ca)濃度の変化と筋細胞の収縮のデータを収集し、それをコンピュータ上に再現しました。このシミュレーションに刺激などの実験条件を入力すれば、Ca濃度や収縮の働きを再現することができます。次いでシミュレーションで再現した細胞5000要素を、MRIで撮影したヒトの左心室モデルに当てはめ、ヒトの心臓全体の働きを3次元モデルで再現することにも成功しました。

とはいえシミュレーションの完成度は、現在の最先端レベルと比べるとまだ10~20%程度にすぎません。今後、この心筋細胞モデルをさらに精緻化することが、このプロジェクトの課題です。加えて私たちは、心筋細胞モデルをもとに、すい臓インシュリン分泌細胞など他の細胞モデルも開発しようと試みています。

システムバイオシミュレータの開発へ

私たちにとってさらなる成果は、筋収縮に関わる多様なシステムバイオロジーのすべてをまとめて解析することを可能にした点です。心筋収縮には、細胞膜興奮や興奮収縮関連の他、ミトコンドリア内のATP産生といったエネルギー代謝、神経性調整などが密接に関わっています。それらをすべて解析し得るプラットフォームを実現しました。今後はプラットフォームを改良し、より効率的な細胞モデルの開発に生かしていきます。

最終的には、実用化に直結するユーザーインタフェースを備えたバイオシミュレータを開発したい、また医学生理学向けの教材も提案したいと考えています。

またコンピュータ上で再現できるということは、結果をもたらした原因を解析するアルゴリズムを作ることも理論的には可能なはずです。いずれはシミュレーションから、病気の原因を明らかにすることもできるようになるかもしれません。

異分野領域を融合した研究拠点を構想

私たちの取り組みの特色は、工学、数学、コンピュータ、医学、薬学など多様な人材が関わる、異分野領域を融合したプロジェクトである点です。

医学システムバイオロジー分野は、次世代の医学・医療の基盤技術を確立するものとして、今、大きな注目を集めています。このプロジェクトでの経験をもとに、異分野が融合する新たな研究拠点を形成し、次世代を担う若手研究者の育成にも活用したいというのが私たちの願い。2009年春には、立命館大学総合理工学研究機構 バイオシミュレーション研究センターが設立されました。本学を中心とした医学システムバイオロジーの拠点の形成は、この新しい学術領域の発展にとって大きな意義をもたらすことでしょう。

生体機能、バイオシミュレーション、ユーザーインタフェース、病態シミュレーション、薬物作用シミュレーション、医学システムバイオロジー

野間昭典 教授

野間昭典 教授

1969年 広島大学医学部卒業。'77年 広島大学医学研究科博士課程修了。医学博士。'77年 ドイツ、ザール大学医学部訪問研究員。'79年 岡崎国立共同研究機構生理学研究所助教授。'85年 九州大学医学部教授。'93年 京都大学医学部教授。'08年 立命館大学生命科学部教授、現在に至る。日本生理学会、日本循環器学会に所属。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:野間昭典

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