統合型スポーツ健康イノベーション研究 | 「スポーツ健康科学」という新たな学問の地平を拓く。

スポーツ健康科学に関する国際的な研究拠点の確立を目指して

2000年、文部科学省が「スポーツ振興基本計画」、厚生労働省が「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」をまとめ、2008年にはメタボリックシンドロームの予防・改善を目的として「特定健康診査・特定保健指導」を義務化したことからもわかるように、スポーツ振興や健康増進は、現代において国を挙げて取り組むべき課題の一つとなっています。行政レベルで枠組みがつくられる一方、学術分野でも生活習慣病の予防・改善やスポーツ競技力の向上などについてエビデンスに基づいた研究が活発に行われ、成果が蓄積されてきています。

こうした社会状況に対応し、2010年4月、立命館大学は「スポーツ健康科学部」、ならびに「スポーツ健康科学研究科」を開設しました。スポーツ健康科学分野において国際的に活躍する研究者が集結し、国際的な研究拠点を確立し得る環境が整った今、私たちは、ここから「スポーツ健康科学」という新しい学問の地平を切り開いていこうとしています。

遺伝子から個体・集団まで統合的にアプローチ

このプロジェクトでは、こどもから高齢者、また健康づくりからトップアスリートの育成までをトータルに研究する拠点をつくることを構想しています。私たちのプロジェクトを特長づける最大の強みは、マイクロレベルから個体、集団まで、各解析レベルに留まらない統合的なアプローチを可能にしたことです。人のパフォーマンスや健康に関しては解析レベルごとにアプローチするのが一般的で、遺伝子から細胞、個体、集団まで、さらにはトップアスリートのパフォーマンスや健康にまで及んだ研究は、これまでに例を見ません。

具体的には「トップアスリートならびにトップパフォーマンス向上のための研究」「こどもの体力向上のための研究」「生活習慣病の予防/改善を実証する研究」「心身の機能と認知、行動、心理の関係を解明する研究」の4つのテーマを設定し、学術横断的に研究を進めていきます。学内外の連携、さらには国際的な学会や海外での研究活動に従事する研究者とのネットワークを活用し、国際的に研究成果を発信していくつもりです。

新しい視点での基礎研究のみならず、私たちは人や実社会への応用も視野に入れています。すでに遺伝子解析や分子・生化学解析から運動・栄養処方や運動方法といった応用につなげられる研究も進行しています。

総合型スポーツ健康イノベーション研究

スポーツバイオメカニクスから実践への応用を展望

私は、スポーツバイオメカニクスの領域からこのプロジェクトにかかわっています。これまでの研究で、ERクラッチを用いて機械的インピーダンスの可変と負荷提示を実現する筋力トレーニング装置を開発しました。

従来のトレーニングマシンの多くは、慣性のみ、粘性のみ、弾性のみ、というように機械的インピーダンスの3要素のうち一つのみを利用する仕組みで、運動中に負荷をコントロールすることもできません。私たちの開発したマシンは、駆動モータとERクラッチを活用して電流を制御することで出力トルクを調整し、機械的インピーダンスの3要素を自在に組み合わせられるだけでなく、運動途中で瞬間的に負荷を加減することも可能にしました。加えて、人間の筋力を構成する力、速度、角度の3要素を3次元で可視化することにも成功しました。これによってピンポイントで筋力向上効果を高めることも可能になるはずと考え、現在効果の実証に取り組んでいます。プロジェクトの各研究領域と連携することで、今後は新しいトレーニングや最適なパフォーマンス、脳の運動制御の提案といった実践につなげていけると期待しています。

遺伝子、筋代謝、トップアスリート、加齢、メタボ改善/予防

伊坂忠夫 教授

伊坂忠夫 教授

1985年 立命館大学産業社会学部卒業、'87年 日本体育大学大学院体育学研究科修士課程修了。博士(工学)。'87年 日本体育大学体育研究科助手等を経て、'92年 立命館大学理工学部助教授、'03年 同理工学部教授、'10年 同スポーツ健康科学部教授、現在に至る。その間、'95年 ジョージア工科大学客員研究員、'04年 テキサス大学客員研究員。日本体育学会、日本体力医学会、日本バイオメカニクス学会、日本機械学会、日本ロボット学会、トレーニング科学研究会、国際バイオメカニクス学会(ISB)、アメリカスポーツ医学会(ACSM)に所属。'94年 第6回トレーニング科学研究会賞。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:伊坂忠夫
伊坂忠夫研究室
立命館大学 理工学部 ロボティクス学科 運動知能研究室 川村・伊坂研究室

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