私が研究をしている「半導体」は、身の回りのもの電化製品ほぼ全てに使われており，運転免許証やパスポート、電車に乗るときに使用するICOCAなど身分証明や電子マネーといったセキュリティを必要とするものにも搭載されています。

現在の半導体市場は、とても大きいものになっていますが、反対に模造品も多く出回り、大きな問題となっています。市場に出回るうちの5％は模造品で埋められているといっても過言ではありません。その模造品の対策のひとつとして考えられているのが、「PUF」という技術です。例えるなら、半導体に１つずつ指紋のような生まれつき持っている情報を与えていくというもの。半導体というものは、1つの設計図から100個の半導体チップを作っても、全て同じではなく、少しずつ製造のばらつきがでてしまいます。

一般的には製造ばらつきはよくないものとされ、それを抑えようとするのですが、それを逆手にとり、ばらつきによる情報の違いをそれぞれの半導体の個性に活かしてしまおうという技術です。人が指紋認証によって本人か認証できるように半導体もPUF技術によって本物か偽物かを認証できるのです。従来、提案されていた「アービターPUF」と呼ばれる方式は、違うもの同士のチップを同じものだと認識してしまう確率が高いのですが、私が提案したのは、それを大幅に改善した「RG-DTM-PUF」という新方式です。

　今回行われた「IEEE SSCS Japan Chapter VDEC Design Award」は、日本全国の大学がVDEC（※1）を通して試作した半導体チップの中からその年のNO.1を決めるという趣旨で、初めて開催されました。私は指導していただいていた理工学部の藤野毅先生から、試作したPUFのチップをVDECに推薦していただきました。

VDECでは年間200を超えるチップが試作されており、全国の大学から同じように推薦された試作チップの中の1つとして一次審査を受けました。一次審査で残った5名の内の1人に選ばれ、5月28日（土）に東京でプレゼンを行いました。自分では、他の発表者の方が選ばれると思っていたので、最優秀賞を受賞することができて驚きましたね。

受賞後、藤野先生からは、聴講者に理解してもらいやすい研究内容だったこと、また本来なら使えない製造ばらつきの特性を効率よく利用し、研究テーマ自体も面白かった点が評価されたのだと教えていただきました。日々、研究を進めていくのは大変なことでもありますが、周りの人のおかげで、私は研究を続けている事ができていると思っています。

今後は、模造品に対抗できるような半導体チップの製品化を目指していきたいと思います。また人々に喜んでもらえるようなものを作れる技術者になっていきたいですね。

大学は、自分のやりたい事を自由にさせてくれる場所だと私は思います。「自分はこういうことがしたい」と積極的に伝えるようにして、みなさんにも楽しい学生生活を送っていってほしいと思います。

※(参考1) 「VDEC（ブイデック）」・・日本の大学、高専のための全国共同利用施設として設置された東京大学大規模集積システム設計教育研究センターの略称。集積回路（VLSI）のチップ試作の窓口でもあり、集積回路の研究をするにはなくてはならない施設。

　　　　　　～VDECセンター長の東京大学　浅田邦博教授と撮影～