バレエは私の選ぶ道 ~迷いながらも自分を信じて~
木田真理子さん(2007年産業社会学部卒)
バレエ界のアカデミー賞「ブノワ賞」を受賞
「自分の受賞が信じられず、実感がないまま受け取ったトロフィーの“ずっしり”した感触を覚えています」と受賞式を振り返る。今年5月、モスクワで開催された授賞式ではロシア語が使われたため、司会者に呼ばれるまで、発表されたのが自分の名前だと気付かなかった。木田さんの快挙に喜ぶバレエ関係者や友人の反応をうけて、ようやく実感が湧いてきたという。
受賞に至るまでの木田さんの道のりは、まさにバレエ一筋だったと言える。4歳からバレエを始め、中学時代から全国コンクールに出場するようになり2度優勝。高校1年のときにはローザンヌ国際バレエコンクールでローザンヌ賞を受賞し、同賞の奨学金により高校2年夏からサンフランシスコ・バレエスクールに留学した。立命館大学に入学を決めたのも「社会のことを広く学び、今後の人生、踊りに活かしたい」という想いからだった。大学在学中からカナダのバレエ団で活躍し、この頃スウェーデンの振付家であるマッツ・エック氏の作品に出会った。「世界一流の振付家と作品づくりをしたい」と思い立ち、大学卒業後の2009年にスウェーデンのヨーテボリ・バレエ団に移籍し、現在はスウェーデン王立バレエに所属。
学生時代、小澤亘ゼミ(産業社会学部)のメンバーと。2列目一番左が木田さん
今回の受賞作品となったのも、マッツ・エック氏の17年ぶりの新作「ジュリエットとロミオ」だった。憧れだったマッツ氏の期待作、その主役を自分が演じるということは、光栄でもあり、恐ろしい程のプレッシャーでもあった。創作期間は8ヶ月。「マッツさんの解釈する“ジュリエット像”を演じきれるか・・、自分に理解できるのか・・・」。不安と焦りから過度の練習を重ね、稽古のたびに身も心もガタガタになっていった。ついには限界が近づき、初演を5ヶ月後に迫った2012年12月に、大怪我をしてしまう。直後の1週間は寝たきりに近い状態だった。
「もちろん落ち込みました。復帰しても、どれだけ良い踊りができるか分かりません。周りにも負担を掛けてしまいました」、と当時を振り返る。「けれど…あの怪我がなければ、今の自分はなかったと思います」と木田さん。「何かをずっと続けていると、その環境が当たり前になって、何のために続けているのかを忘れてしまいます。怪我をして踊れなくなったからこそ、改めて『私はこれだけダンスが好きだったんだ』という熱い気持ちを思い出しました」。マッツ氏の「戻って来て欲しい。ジュリエットはあなたじゃないとできない」という言葉が何よりの支えになった。何がなんでも復帰してやろう、そう心に決めた。
Fotograf Gert Weigelt Motiv Mariko Kida - Julia, Anthony Lomuljo - Romeo
“ジュリエットとロミオ”でジュリエット役の木田真理子さん(写真左)
その後、懸命なリハビリにより怪我を乗り越え、気持ちを新たに舞台に復帰した木田さん。迎えた2013年5月の初演では“真っ白な状態になって楽しむこと”だけを意識したという。「準備さえすれば体は覚えているので、後はメンタルです。演技が伝わらない時は、あれこれ考えすぎている。ここまで来たら、邪魔な考えを削ぎ落として自然体で舞台に上がるしかありません」。ゼロの状態で挑むために「どれだけ捨てられるか」どうかで違いが生まれると、木田さんは力強く話した。後は自分を信じるだけ、と。
木田さんのバレエにかける想い、鬼気迫る復帰談に、すっかり引き込まれた取材班。「バレエ以外の人生を考えたことは?」と聞いてみた。「ありますよ。今でもよく迷います。迷いっぱなし。けれど、いつも“ここまで続けてきたんだから”と思ったところで、迷いが晴れます。嫌なことを含めても、これだけ情熱を持てることなんて、他には無かった。自分の選ぶ道だったんだと思います」。迷い、立ち止まり、それでも覚悟を決めて、自分の道を突き進んできた木田さんの眼は、力強く優しかった。<記者コメント>
正しく伝えることは難しい。会話の流れに飲まれたり、良く思われようとしたりして、心にもないことを言ってしまう…自分には良くあることだが、木田さんは違った。じっくりと言葉を選び、噛みしめるようにして、ポツリ、ポツリと話す。「本当のことを言っている」そう確信できるだけの“言葉のパワー”のようなものを感じた。受賞後も変わらない謙虚な姿勢を見て、言葉を聞いて、木田さんが周りから信頼される理由が分かった気がする。
※木田真理子さんは、ブノワ賞以外にも、批評家たちによって選ばれるイタリアの「レオニード・マシーン賞」と、その年のブノワ賞受賞者から選ばれる新設の「ブノワ・マシーン モスクワ・ポジターノ賞」に選ばれました。
- 取材・文
- 山内 快(経営学部4回生)