角度分解光電子分光

○ 概要

特定のエネルギーをもつ光を物質に当てて出てきた電子を観測することで物質中の電子のエネルギー分布がわかるのが光電子分光ですが、 角度分解光電子分光ではさらに電子の出てきた角度も測定することにより運動量もわかります。つまり物性の鍵とも言える、 「 バンド分散」を直接観測できるのが「角度分解光電子分光」です。

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○測定原理

右図のように、結晶表面の鉛直方向からθの角度で励起された電子が真空中に放出されたとします。角度分解光電子分光では、電子の放出角度θと運動エネルギーEを同時に測定します。 真空中の電子の分散関係

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を用いると、

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が求まります。

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また、結晶表面に対して平行な運動量成分は、結晶から真空に電子が飛び出す過程では保存するため,

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が成り立ちます。 これより角度分解光電子分光で放出角度θ、運動エネルギーが求まれば、物質内の電子の運動量が測定できることになるので、 バンド分散のグラフを描くことができるのです。

○バンド分散

 バンド分散とは電子の運動量とエネルギーの関係を表したものです。 例えば真空中の電子の場合は自由電子として振舞うため、電子のエネルギーは

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で与えられます。そのため、電子は任意のエネルギーを取ることができます。 しかし、結晶中の電子は、周期的にならんでいる原子核のポテンシャルの影響から、運動量とエネルギーの関係は真空中のものとは大きく違った ものになります。例えば、禁制帯と呼ばれる電子の占有が禁止されたエネルギー領域が存在します。 バンド分散の形が、例えば金属であったり、絶縁体であったりなど、物質の性質を決める大きな要因となっているのです。