光電子分光

○ 概要

光を試料に当てることにより、試料から電子が放出される現象を光電効果と言います。 この現象を用いて、飛び出した電子(光電子)の運動エネルギーを検出することにより、試料の電子状態を直接観測できます。 光電子分光で観測した「電子状態」と他の様々な実験手法で明らかになった「物性」を比較することによって、 物性が生じる仕組みを見つけ出すことを目指しています。

物質に光を当てると、光を当てた物質から電子が飛び出します。 この現象を光電効果といいます。この時光は、どのような光でもいいというわけではなく、 原子核が電子を束縛しているエネルギー以上の光エネルギー(ある程度振動数が大きい・波長が短い)を電子に与える必要があります。 光電効果では、エネルギー保存則より

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という関係が成り立ちます。このEk<0の時、原子核の束縛エネルギーが勝ってしまい、 電子は束縛されたままとなります。Ek>0の時に電子は原子核の束縛から解放され、検出器により観測されます。 右図のように、光エネルギーを一定にして光電子強度のEk依存性を測定すれば、電子が詰まっている部分の状態密度が分かります。

○光電効果とは

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○電子の状態密度の測り方

振動数νの光のエネルギーはhνです。 光のエネルギーを固定すると、光のエネルギーhνと検出される電子の運動エネルギーEkより、 物質中での電子が持っていたエネルギーEが分かります。光電効果により、物質中から飛び出した電子は、 図のように中心部を高電位、球殻部を低電位にした半球の中を通過します。 この時、電場によるクーロン力(向心力)によって電子の軌道は曲げられ、 ある運動エネルギーEkを持った電子のみが検出されます。Ekより小さい運動エネルギーを持った電子は内側に、 Ekより大きい運動エネルギーを持った電子は外側に曲げられて、検出器には到達しません。検出器に電子がぶつかると電流が流れ、 その電流の値より電子の強度(電子の個数)を求めることができます。これが電子の状態密度Dをあらわしています。

○バルクと表面

どんなに清浄化された物質の表面でも、バルク(固体内部)と異なった性質を示すことが少なくありません。 結晶の周期性が表面で保たれなくなることや、バルクと異なるポテンシャルのため、表面固有の電子状態が出現することがあります。 そのため試料の表面を観測しているのか、バルクを観測しているのかが重要になります。 光電子の運動エネルギーと、観測できる試料の深さとの関係は以下の図より 20~100eVの付近で最も表面を見ていて、それより小さくしても、大きくしてもバルク部分を観測することになります。 表面を調べたいときは光電子が20~100eVになるように試料にあてる光のエネルギーを 調整すればいいのです。スピン物性分光研究室では、Heランプ(21eV)やXeランプ(8.4eV)、SRセンターBL-1(6-40eV)、UVSOR(6-40eV)、 SPring-8(100-8000eV)など必要に応じて様々な光源を用いた実験をしています。

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