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2018/07/22

嫁と姑の彼岸論争


 むかーし、ある家(うち)で、彼岸の前(めゃー)ん日に、嫁と姑が石臼(いすす)ぅ出して、向けゃー合って米ん粉(こな)ぁ挽いてたぁってよ。嫁は、右ん手で石臼ん柄(え)ぇ握って臼ぅ廻(まあ)して、左ん手で穴ん中へ米を少ぉしずつ落としていたぁけん、姑は、ただそれぇ手伝ってるだけだったって。 昔、ある家で、彼岸の前日に、嫁と姑が石臼を出して、向かい合って米の粉を挽いていたそうだ。嫁は、右の手で石臼の柄を握って臼を廻し、左の手で穴の中へ米を少しずつ落としていたが、姑は、ただそれを手伝っているだけだった。

「ヒーガンにはお坊さんが来(き)さっしゃいますか。」 「ヒーガンにはお坊さんが来られますか。」

って嫁が聞いたら、姑は、 と嫁が聞いたところ、姑は、

「坊さんは頼まねゃーば来(こ)ねゃーよ。」 「坊さんは頼まなければ来ないよ。」

って答(こて)ゃーてから、 と答えてから、

「お前(めゃー)はヒーガンて言(ゆ)うけん、ヒガンが本当だぁよ。」 「あんたはヒーガンと言うけど、ヒガンが本当だよ。」

って言(ゆ)ったぁって。だーけん、嫁は負けず嫌(ぎれ)ゃーだったかん、 と言ったそうだ。けれど、嫁は負けず嫌いだったから、

「あんが、ヒーガンが本当ですよ。」 「いや、ヒーガンが本当ですよ。」

って言(ゆ)ってきゅあなぁったもんで、二人(ふたーり)は、とうとう喧嘩んなっちゃったぁだって。 と言ってきかなかったので、二人は、とうとう喧嘩になってしまった。

「ヒーガンなんちゅうことはありゃしねゃー。」 「ヒーガンなんていうことはありゃしないよ。」

「ヒガンなんちゅうのは聞いたぁことがねゃーですよ。」 「ヒガンなんていうのは聞いたことがないですよ。」

って言い合って、どっちも譲んなぁったって。仕方がねゃーかん、善通寺んお坊さん所(とうろ)へ聞(きゅ)ぃ行ぐ事んなっただ。 と言い合って、どちらも譲らなかったそうだ。仕方がないので、善通寺のお坊さんの所へ聞きに行く事になった。

 姑が先ぃお寺ん行って、 姑が先にお寺に行って、

「御前(ごぜん)様、彼岸(ひがん)のことでお尋ね申したいと思って伺いました。 「御前様、彼岸のことでお尋ね申したいと思って伺いました。

ヒガンとヒーガンではどっちが正しいですかい。嫁はヒーガンだと言(ゆ)ってきかねゃーですが、私はヒガンの方が正しいと思うですよ。どっちが本当か教(おせ)えてくださいまし。」 ヒガンとヒーガンではどちらが正しいですか。嫁はヒーガンだと言ってきかないのですが、私はヒガンの方が正しいと思うのです。どっちが本当か教えてください。」

って頼んだだって。坊さんは、えらく頭んいい人だったかん、 と頼んだ。坊さんは、非常に賢い人だったので、

「それはヒガンが本当だよ。」 「それはヒガンが本当だよ。」

って言ったぁかん、姑は懐から百文の銭ぃ出して、紙ん包んで坊さんに渡したぁって。 と言ったので、姑は懐から百文の銭を出して、紙に包んで坊さんに渡した。

「有り難うござんした。あとから嫁が来たら、ヒガンの方が正しいって言(ゆ)ってくださいまし。」って頼んで帰(けゃー)って行ったぁって。 「有り難うございました。あとから嫁が来たら、ヒガンの方が正しいと言ってください。」と頼んで帰って行った。

 姑が帰(けゃー)っと、今度(こんど)は嫁が出かけて行って、 姑が帰ると、今度は嫁が出かけて行き、

「御前様、ヒガンとヒーガンではどっちが正しいですか。私はヒーガンの方だと思いますが、どっちが本当か教(おせ)えてくださいまし。」 「御前様、ヒガンとヒーガンとどちらが正しいですか。私はヒーガンの方だと思いますが、どちらが本当か教えてください。」

って聞いたぁって。すると、坊さんは、 と尋ねた。すると坊さんは、

「ヒーガンの方が本当だよ。」 「ヒーガンの方が本当だよ。」

って言(ゆ)ったぁかん、嫁は懐から百文の銭ぃ出して紙ん包んで坊さんの手ん渡したぁって。 と言ったので、嫁は懐から百文の銭を出して、紙に包んで坊さんの手に渡した。

「有り難うございました。母が来ましたら、ヒーガンの方が正しいとおっしゃってくださいまし。」 「有り難うございました。母が来たら、ヒーガンの方が正しいとおっしゃってください。」

って頼んで、帰(けゃー)って行ったぁって。 と頼んで、帰って行った。

 二人が石臼(いすす)ん所(とうろ)で一緒んなっと、姑が先に、 二人が石臼の所で一緒になると、姑が先に、

「坊さんはヒガンの方が本当だぁって言(ゆ)ったぁよ。」 「坊さんはヒガンの方が本当だと言ったよ。」

っちゅうと、 と言うと、

「あぁんが、坊さんはヒーガンの方が正しいって言(ゆ)いましたよ。」 「いや、坊さんはヒーガンの方が正しいと言いましたよ。」

って、嫁も負けてなぁったって。 と、嫁も負けていなかった。

「そんななぁ筈(はず)があるもんで。」 「そんな筈があるものか。」

って姑が言うと、 と姑が言うと、

「そんな訳ねゃーですよ。」 「そんな訳はありません。」

って嫁もきゅあなぁった。でぇ、二人(ふたーん)で一緒ん行って坊さんに聞いて来(く)べえ、っちゅうことんなったって。二人(ふたーり)とも百文出して頼んで来たぁかん、間違(まちげ)ゃーねゃーと思って出かけて行ったぁって。 と嫁もきかなかった。それでは、二人で一緒に行って坊さんに聞いて来よう、ということになった。二人とも百文出して頼んで来たので、まちがいないと思って出かけて行った。

 坊さんは、二人一緒ん来られては困ったことんなったと思ったけん、何(なに)食わねゃー顔ですましていたぁだって。 坊さんは、二人一緒に来られては困ったことになったと思ったが、何食わぬ顔ですましていた。

「御前様、ヒガンとヒーガンとどっちが正しいですかい。」 「御前様、ヒガンとヒーガンとはどっちが正しいのですか。」

って姑が尋ねっと、坊さんは、 と姑が尋ねると、坊さんは、

「ヒガンもヒーガンもどっちも正しい。」 「ヒガンもヒーガンもどっちも正しい。」

って言ったぁって。嫁が、 と言ったそうだ。嫁が、

「どうゆう訳でどっちも正しいんですかい。」 「どういう訳でどっちも正しいのですか。」

って聞(きゅ)ぃ返(けゃー)したら、坊さんは胸ぇ張って答(こて)ゃーただって。 と聞き返すと、坊さんは胸を張って答えた。

「春の方は日が長いからヒーガンで、秋の方は日が短いからヒガンだよ。」 「春の方は日が長いからヒーガンで、秋の方は日が短いからヒガンだよ。」

二人がポカーンとしてっと、坊さんは、 二人がポカンとしていると、坊さんは、

「ヒガン、ヒーガン、二百文チョロリン。」って言(ゆ)って、奥へ引っ込んじゃったぁって。おしまい。 「ヒガン、ヒーガン、二百文チョロリン。」と言って、奥へ引っ込んでしまったということだ。おしまい。


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