MIND

09.17

2019



大学院での研究、その先に待つもの。

野口 拓 教授
教員
野口 拓 教授
(Taku Noguchi)
研究室
ネットワークシステム研究室
専門
情報通信ネットワーク、情報通信理論、通信・ネットワーク工学
研究分野・テーマ
アドホックネットワーク、IoT、センサネットワーク、ネットワーク制御、 通信プロトコル

情報化社会を進化させる、次世代ネットワーク研究

私たちネットワークシステム研究室では、次世代情報通信ネットワーク技術について研究しています。そのうちの1つが、 携帯電話基地局やWi-Fiアクセスポイントなどを使用せずに、スマートフォンやタブレット、カーナビなどのモバイル端末を数珠つなぎに無線接続してネットワークを構成する「アドホックネットワーク」という通信技術です。既存のインフラが使えない災害時でも利用可能なネットワークとして期待されていますが、世の中に普及させるためには技術的にも社会的にもまだいくつも課題を抱えています。このアドホックネットワークを実用化してスマート社会の実現に寄与することが最終的な研究目標ですが、まずは5Gに代表される既存の通信技術と連携しながら現実的なアプローチを行っています。
他にも、さまざまな事象を観測するセンサをつないだセンサネットワーク、既存のネットワーク理論の概念を覆すネットワークコーディング理論など、情報通信ネットワークに関する幅広い研究を行っています。

野口拓教授

「縁の下の力持ち」としての面白さ

情報通信ネットワークの分野は、自分の研究成果をアプリケーション・サービスとしてリリースしやすいという強みがあります。というのも、アドホックネットワークの場合、ネットワークを構成するために必要な処理を行うアプリケーションを開発すれば、そのアプリケーションをインストールしたデバイスはすぐにネットワークの中継機となることができます。実際に私の研究室でも、自分の研究内容を活かした独自アプリを開発し、実際にスマートフォンアプリとしてリリースした院生もいました。 これまでになかったアプリケーションやIoTシステムの登場は世の中に大きなインパクトを与えます。その根幹を支えているのが情報通信ネットワークの進歩です。新しいアプリケーションやサービスを生み出すばかりでなく、私たちが普段利用している仕組みをさらに使いやすく高度化させることも可能です。自分の研究内容が、世の中の進化に直結していると想像しながら研究するのはとても楽しいものです。

本当の進路を見誤らないために

立命館大学情報理工学部では、3回生の後期に全員がどこかの研究室に配属され、研究室の研究テーマに沿ったグループワークなどを行います。そして4回生の春から本格的に研究に入るのですが、まさにこのタイミングで、卒業後の進路も決めなければなりません。しかしこの段階では、学生はまだ研究の本当の面白さや楽しさには気づけていないため、研究の素晴らしさを知る前に大学院進学と就職を選択しなければならないという、構造的な問題があります。卒業研究を終えて卒業する時になって、「もっと早く研究の面白さに気づいていたら進学してたのに」と悔しがる学生がとても多いです。だから私は、少しでも研究に興味を持っている3回生に対しては大学院進学を強く勧めています。「あと2年も?!(※)」と言わず、本当の研究を知る前に進路を判断しようとしていることを自覚し、慎重に大学院進学か就職かを考えてほしいですね。

※最短2年、最長5年の学修期間(博士課程前期課程 2年、博士課程後期課程 3年)

野口拓教授

大学院に進むべき人とは

大学院は研究が好きな人が行くところというイメージが強いかもしれませんが、それだけではありません。情報技術者としての自分の価値を高めるために大学院に進学するという考え方もあります。今後のトレンドとして情報技術者のニーズはさらに高まっており、企業の研究開発職、いわば花形の部署・分野では、大学院で専門性を深めた人材が求められています。正直なところ学部卒の知識では不十分ですし、高いレベルが求められる研究開発職で活躍するのは難しいと思います。
私自身も学生時代には、研究をさらに深めたいという気持ちはもちろん強かったのですが、就活の学内推薦が院生優先だったために進学したところもありました。さらにその後、志望していた民間の研究所で主力として働くためには博士卒が必要であると知り、博士前期課程から博士後期課程への進学を決めたという経緯がありました。

野口拓教授

好きなテーマに没頭できる研究環境

大学院に進学すると、自分が興味を持っているテーマを自由に選び、研究の成否や期限などの制約をあまり受けることなく、2年間継続して研究に没頭することができます。また、大学院での学びは学部時代の授業とは異なり、課題解決のため調査、必要な知識の習得、解決方法の提案、実装、評価という一連のプロセスを自発的・主体的に行うことで成り立っており、それが将来的には、技術者としての底力になっていきます。それに加えて、論文作成で文章力、学会発表を通じてプレゼンテーション能力やコミュニケーションスキルを身につけることができ、海外発表のチャンスがあれば英語力も向上します。

他の大学院と比べると、立命館大学大学院の情報理工学研究科には自由な風土があるように感じます。私は国立大学の大学院博士後期課程卒ですが、国立大の場合は、教員1人に対する学生数が少なく手厚い指導を受けられるというメリットがある反面、先生から色々言われることも多く、例えば、教員主導で決められた研究テーマをしなければならない等、研究内容にも制約が生まれがちです。立命館大学大学院情報理工学研究科の場合、例えば私の研究室では、私と特任助教の2名で20名以上の学部生・院生を指導しています。この人数規模は、国立と比べると多いのですが、良い意味で学部生・院生主体のスタンスで研究ができています。自分がやりたいことに自発的に取り組めるため、学生・院生のモチベーションは非常に高いです。また、最新の機材設備が充実しており、客観的に見ても研究環境が非常に良いのが強みです。

研究深度はもちろん、その後のキャリアを考えても、大学院進学にはメリットしかありません。これは半分冗談ですが、大学院卒と学部卒のその後のキャリアに関するビッグデータがもしあれば、それを用いて人工知能に計算させたら、キャリアパスの最適解として進学を100%勧めるのではないでしょうか。唯一のデメリットは進学にかかる費用でしょう。しかし10年~20年という長期的視野で考えれば、そのコスト以上に大きなリターンが必ずあります。奨学金を活用することもできますので、ぜひ3回生のうちに大学院進学を真剣に考えてほしいと思います。

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