My Favorite Corners
白川静先生の息遣いを感じる
久保 裕之さん
衣笠リサーチオフィス
平井嘉一郎記念図書館で、お気に入りの場所とその理由を教えてください。
「白川静文庫」です。
2005年の白川静記念東洋文字文化研究所(白川研)設立時、白川静先生はご存命で、時にご自宅にお伺いして打合せをしておりました。ある時先生が「私の『戦場』をお見せしましょう」と案内くださったのが、約1万冊が収められた書斎でした。当時95歳の先生が、ご自分の余命と闘いながら研究や著述活動を続けている場所を拝見したときの戦慄をしっかりと覚えています。 白川先生は、小学校卒業後に書生として仕えていた弁護士から、その書斎にある和漢の書を自由に読むことを許され、そのなかにあった『万葉集』を日本人の心の原点と感じ、中国の古典「詩経」と比較をしたいという志を得ました。和歌はご生涯の趣味であり、時に先生の心の吐露にもなりました。「白川静文庫」には、和歌や詩歌に関する本も少なからず収められています。 また、先達のいない世界に足を踏み込まれた先生が、様々な研究方法を試みられていたことを「白川静文庫」から窺い知ることができます。作業しやすいよう、先生お手製のカバーが掛けられた本も少なくありませんし、基礎研究として行った約2万片の甲骨文トレースの一部も展示されています。すべてがアナログの時代、知識の大海原に独りで立ち向かわれた白川先生の気概が感じられます。私にとっては、先生との思い出に耽ることができる場所です。 白川先生はご生前、「著作原稿類や書籍は立命館に、愛用品は故郷の福井県に寄贈したい」というお気持ちを示されていました。そのお気持ちが形になりましたのが、「白川静文庫」であり、いまなお白川先生の息遣いを感じることができます。
平井嘉一郎記念図書館の魅力を教えてください。
衣笠キャンパスのなかでも群を抜く、空間構成が魅力的な建物です。エントランスから開放感に溢れ、多数の図書が収蔵されていながら圧迫感を感じません。階段スペースからは衣笠山の四季の移ろいを眺めることができます。学習に疲れたら、外の景色に目をやって体と心を休ませることができる、そんな空間です。
(2025年5月26日掲載)
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