立命館大学 教育開発DXピッチ 2022年度報告
DX pitch 2022 Report
デジタルを活用した新しい教育手法の開発と実践にチャレンジする教職員の支援を目的とした「教育開発DXピッチ」。
この取り組みで、最優秀賞と優秀賞を受賞した3チームによる報告会が行われました。
「立命館大学 教育開発DXピッチ」について
報告会の冒頭には松原副学長が「それぞれのチームがこの1年間でどんな発見をしてきたのか伺うのを楽しみにしています」と挨拶の言葉を述べ、その後「デジタルを活用した新しい教育の可能性を学生目線で体験する」という報告会の趣旨の下、「学生役」として参加した教職員に向けて各チームが報告を行いました。
R2030を見据えたPBL型次世代英語教育プラットフォームの構築/プロジェクト発信型英語プログラム
AI自動翻訳や発音矯正ツール、添削ツール、メタバース空間など、さまざまな最新技術の集まったプラットフォームを学生たちが活用することで、これまでにはなかった自由なつながりやアイデアが生まれるというものです。
ICTを活用したPEPの授業に注目が高まっている
報告会では、実際にPEPの授業で使用しているAI自動翻訳「Mirai Translator®」と、VR空間プラットフォーム「DOOR」を学生役の教職員が体験しました。
「この1年間、さまざまな挑戦を自由に行ってきました。その成果は「AI機械翻訳の英語正課授業への大規模導入とその課題‐英語発信力向上のための機械翻訳活用にむけて」という論文にもまとめています。また今年度の成果は国際学会やフランス・リヨンで開催されるAILA(国際応用言語学会)でも発表予定です」と、木村先生。
同チームには立命館大学新聞社をはじめ、多くの情報系メディアから取材依頼が寄せられており、この構想がいかに社会から注目され、必要とされているのかが窺えました。
機械翻訳を使った文章を「気に入るか」が重要
発表後、豊田教学部事務部長から「この1年間のトライアルを通じて出た効果をどういう視点から捉えていますか」という質問がありました。
「効果の測定方法には客観指標と主観指標の2種類があると思います。特に主観指標はこの構想の目標である「学生たちの自律的な学習の促進」の測定に非常に重要だと考えており、すでに大規模なアンケート調査を実施しています。具体的には機械翻訳の力を借りて作った自らのプレゼンテーションを気に入るかどうか、自己肯定感を得られるのかどうかといった検証で、これは次年度も継続していこうと考えています」(木村先生)。
ICTを排除するのではなく上手く授業に取り入れて活用することで、学生にとってより良い英語教育を実現させたい。そんなチームの熱い想いが伝わってくる報告でした。
学生の自分探しを応援する探究型AI コンシェルジュ/「学生の自分探しを応援する探究型AI コンシェルジュ」構想グループ
続いて続いて発表を行ったのは「「学⽣の⾃分探しを応援する探究型AIコンシェルジュ」構想グループ」です。
「AIコンシェルジュ」イメージ
同チームの構想する「AIコンシェルジュ」は、学生たちの興味や関心、趣味、適性などを顕在化し、ゼミや研究室、卒業後の選択肢とマッチングさせて自分探しを応援するアプリです。
アプリならではのプッシュ通知といった機能も搭載し、学生の成長に合わせた「おすすめ」を提案し続けることで、アカデミックな視点で自分を見つめる力も育てていきます。
相談相手がいなくても「一人ではたどりつくことのできない出会い」を発生させる
報告会では実際にいくつかのキーワードを入力し、そこからシラバスとマッチングさせておすすめの授業を提案する過程が紹介されました。
「このプロトタイプでは、入力した単語に関連する言葉が複数検索され、さらにそこから関連する言葉が広がり、最後はシラバスとマッチします。今後シラバス側からも関連キーワードを広げることで、立命館大学独自のマッチングモデルができると考えています」(仲田先生)。
大学に入学したばかりで相談できる相手がいない中、シラバスを読み込んで履修登録を行う作業は容易ではありません。AIコンシェルジュはそういった状況においても「自分一人ではたどりつくことのできない出会い」を発生させ、学生が意欲と向上心を持って授業に臨めるようサポートすることを目指しています。
履修できない科目もあえて推薦する
発表後、松原副学長から「大事なのは人によるアカデミックアドバイジングと学生の志向性を組み合わせるところだと感じました。そこがないと学生がただ楽な授業を集めるといったことになりかねないと思いますが、最終的な使われ方としてどのようなイメージを持っていますか」と質問がありました。
「本来であれば、学生が所属する学部の科目を推薦しないといけないのかもしれません。しかし今は他学部でトップバッターの卒業の単位にならないような科目でも推薦する設計にしようと考えています。それによって、学生が実際に授業を履修しなくても、自分がこういうものに興味があるんだな、という発見ができる。私たちはそこに重点を置いています」(仲田先生)。
これを受け、松原副学長は「今後は自由に取れるカリキュラム体制というのが必要になってくるかもしれませんね」とコメント。New Normalにおける教育制度について、新たな可能性の兆しを感じさせるやり取りとなりました。
レポートを中⼼としたAI フィードバックシステム「Ri:write」の開発と新たな成⻑環境の構築/Ritsumeikan Writing Support Group
最後に発表を行ったのは「Ritsumeikan Writing Support Group」です。
「Ri:Write」イメージ
同チームの構想するAIフィードバックシステム「Ri:Write」は、レポートをアップロードすると、自動で日本語の文法や構成などのチェックを行い、フィードバックしてくれるというもの。
これにより、教員の負担は軽減され、学生たちはフィードバックを受けたい時に受けられる環境を手に入れることができるようになります。
AIと人間が共存することを前提に開発していく
報告会では、株式会社アルベッジ様と共同で開発を進めているAIによるデモンストレーションが行われました。
「開発はルールベースと学習ベースというふたつのAIで進めています。今回お見せしたのは学習ベース。現在は1万センテンスの学習結果をもとに、論文にふさわしいか、ふさわしくないかを判定しています。次年度以降はレポートの構造部分についてフィードバックできるよう、開発を進めていきたいです」(大田さん)。
普段から学生たちの文章作成能力向上をサポートしている同チームが目指しているのは、完璧なAIの開発ではなく、AIと人間が共存することを前提とした成長環境の構築。次年度はチュータリング補助ツールとしてプロトタイプを運用し、チューターとAIの相乗効果を生み出していきたいと締めくくりました。
コメント機能や学問分野別の文章最適化にも期待
質疑応答では「論文の良し悪しを評価するだけでなく、コメントまで書いてくれたら教員と学生にとって最高のものになると思うが、あり得るか」(沖先生)、「学問分野別に適した文章を数値化するといったことはできるのか」(中本教学部部長)といった具体的な質問があり、大田さんはいずれも貴重な意見として今後の開発の検討材料としていきたいと回答。
多様な文章への的確なフィードバックシステムの実現は決して簡単ではないものの、だからこそRi:Writeの実用化に教職員からも大きな期待が寄せられていることがわかりました。
「主体的な学びの促進」という共通した目標を目指して
閉会の挨拶
報告会の最後には、中本教学部長から「ChatGPTなど、少し前までは我々が考えもしなかった技術がどんどん出てきている。それをどのように使っていくのかは重要な問題だが、3チームの構想はどれも学生の主体的な学びを促進する学習支援というところが明確に示されており、大変に感銘を受けた」とコメントがありました。
各チームの次年度の展開は、立命館大学における教育の大きな指針となっていきそうです。