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生きる技法を学び、創る
立命館大学から文部科学省の「グローバルCOE」に2つの拠点が採択された。
このインタビューでは、その拠点の1つである「生存学」創成拠点・拠点リーダーである立岩真也教授に
「生存学」とはどのようなものか、拠点形成の目的や特徴、魅力についてお話をうかがいました。
拠点リーダー
立岩真也
先端総合学術研究科教授

「生存学」とは、どのような学問なのでしょうか?

人間だれもが「障老病異(しょうろうびょうい)」、つまり身体の老いや病など様々な身体の違いや変化を経験します。もちろん、それを克服するための技術や学問として、医療や医学がありますし、社会福祉の学問もあります。それらは病を治すためのサービスを提供する側に立つ人たちの技術・学問です。けれども、その前に本人たちがいるわけです。障害を負うこともありますし、なおらない病もある。また「老い」は誰にとっても必然的なものです。人は障老病異と共に生きています。その人たちがどうやって生きてきたか、また生きているかを知り、そしてこれからどうやって生きていくか、当事者側に立って考えていくのが「生存学」です。

 

この「生存学」創成拠点を形成するに至った経緯を教えてください。

病や障害を治療し助ける医療や福祉の分野の仕事には、たくさんの人が従事しています。そのため、医療や福祉を仕事とする人のために確立された学問や教育のシステムがあり、また同業者の業界もできているので、知識は代々受け継がれ、発展していきます。しかし他方の病や障害を抱えた当事者側に関することは、仕事や学問として成立しにくく、きちんと知識を蓄積し、伝え、将来を構想することが難しい状況でした。

この病や障害についての研究を、大学という場を使って機能させることができるなら、必要とされる継続力、組織力、そして体系性を獲得することができます。立命館の大学院である先端総合学術研究科がその器になることができるのではないかと考え、私たちが研究拠点を形成することにしたのです。

 

この研究拠点にはどのような方が関わっておられるのですか?

教員は16名。そしてこの研究拠点に関わる院生たちは70人を越えます。大まかに分わけると3通りの人たちがいます。

まず1つ目は、自らが病や障害を持っており、自らの立場を活かして情報を発信したいという希望を持ちながら、それを行える大学院がなかったという人です。実際に血友病者の研究をしている血友病の学生や、視覚障害を持った学生、車椅子のユーザーも在籍しています。

2つ目は、医療や福祉の専門職に従事している人で、自分がやっているその仕事の意味に疑問を感じたり、その業界用の学問ではうまく扱えないように感じてここにやってきた人たちです。実際、看護の仕事をしているあるいはしていた人が8人、医師が2人、ソーシャルワークやリハビリテーションの仕事をしている人が5人、といった具合です。

そして3つ目は、この大学に来て、その両方の人たちの間にいて、様々を知ったり感じたりしたことにより、新たに問題意識を持ち、あるいは自分の問題意識とつなげて、研究を進めている人たちです。

この研究拠点で学生たちは論文発表、学会報告を精力的に行っています。今後は院生の協働体制の構築、教員のチームによる指導により、研究活動をさらに活発にさせていきたいと考えています。そして、ここで学んだ人には今までの職場や今までの教育システムのもとで得られなかったものを得て、様々な活動の場で成果を社会に還元して活躍していってくれることを期待しています。

 

この拠点の特徴はどのような点でしょうか?

私たちの研究拠点の特徴は以下の3つだと思います。

第1に、私たちの研究拠点では集積する情報、研究の成果は、そのつど、すべて公開していくということです。私たちのホームページ[→リンク]はすでに約1万2000のファイル、文字情報だけで約200メガバイトを有し、年間アクセスは900万ほどになります。全ての情報を公開しているのは、学問は独占物ではなく、共有物であると、私たちが考えているからです。情報を公開することによりあらゆる人に生存学について考えてもらうことができます。それが生存学にフィードバックされることで、より良いものになっていくと思います。また、そうした作業に学生や研究者が参加することは、彼らにとって研究の基礎を固めることにつながります。自らの研究実践でその意義と手ごたえを感じながら、責任を持って研究を進めていくことができます。

第2に、様々な身体の状態にある人たちが学問・研究に参加し作っていく仕組みを構築しています。私たちの研究には、実際に障害を持つ学生に関わってもらう必要がありますので、そのための仕組み、つまり本人参加、当事者主権の具体的な場を作っていかねばなりません。実は第1の特徴として挙げた「すべての情報や成果のホームページに公開」という点も、音声変換ソフトを使って文字情報に接する視覚障害をもつ学生、遠隔地の学生、社会人学生への対応につながるのです。また、私たちが間にはいって、障害者支援のため、技術の開発者と利用者をつなげることなどもしています。

そして第3に、これらの研究活動をもとに、どんな社会の仕組みを作っていくべきなのかを考え、提案します。そのために今後、国内・国外の様々な人や機関と協力しながら、私たちがどんなことを提案できるのかを考えていきたいと思います。

 

今後の目標を教えてください。

既に私たちの研究組織は活動を開始し展開しています。例えば、ALSという病気で自分の体がまったく動かず、呼吸も人工呼吸器を使い、1日24時間の介護を得て暮らしている人がいるのですが、ALSという自分の障害を強みに変え、自らを介護する人を養成する組織を立ち上げ、ビジネスとして全国に広げようと研究をしている学生がこの研究拠点にいます。このようなケースをはじめ、多くの研究事例が存在します。このように大規模で多様な作業をしていくために、共同作業として研究を遂行していく自然科学研究のスタイルから取り入れるべきところを取り入れていきたいと考えています。

前にも述べたとおり、人間だれもが身体の老いや病などを普遍的に経験します。この拠点、つまり日本で集積した情報、研究成果なども同様に、これまで十分行えていなかった海外への発信を目指したいと考えています。

実際に暮らしている人々、活動している組織、そして社会と、ダイレクトで密接な関係を維持し、成果を還元し、その反応を得ながら研究を展開していく予定です。そして多くの方が、今後の私たちの活動に関心を持ってもらえれば良いと思っています。

 

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