物理科学科HP 物理科学科

高温超伝導体、新しい量子相の発見を目指して

物性理論研究室

担当教員/池田 浩章

皆さんの身の回りには様々な物質があります。透明なもの、電気を通すもの、磁石にくっつくもの等々。その性質を決めているものは何だと思いますか?これら物質の性質には、物質中のミクロな電子の状態が大きく関与しています。電子というと金属中を流れる電流を想像するかもしれませんが、金属だけでなく半導体や絶縁体、磁石や超伝導体など様々な物質の性質を決めているのです。本研究室のテーマである物性物理学は、これらマクロな物質の性質を量子力学的なミクロな立場から理解しようとする学問です。物質の多彩な性質を決めているものは何か?それを理解し、解明する過程を通して、日々、自然現象の不思議さ、奥深さと対面しています。また、現在の文明社会は物質社会でもありますが、新しい現象や新しい物質の発見は新しい技術の発展・創出にも繋がる可能性を秘めています。若い皆さんの挑戦をお待ちしております。

鉄系高温超伝導体の結晶構造。超伝導は鉄原子の作る2次元面で生じる。

電子状態の分光によるスピン物性の機構解明

スピン物性分光研究室

担当教員/今田 真・門野 利治

物質の性質は、その多くが物質中の電子の性質で決まっています。例えば、ガラスが透明なのは、ガラスの中の電子が光をほとんど吸収しないからです。
ところで、電子は自転しながら原子核の周りを回っていて、この自転のことを「スピン」と呼びます。鉄は、スピンの向きが同じ電子が多いために磁石になります。電子のスピンはそのほかにも、温度を変えると金属が絶縁体に変わったり、様々な興味深い現象を引き起こすので、私たちはそのメカニズムを解明することを目的に研究しています。
大学だけでなくSPring-8などの研究施設で、物質中の電子の状態を直接的に知るために、紫外線やX線を物質に当てて、飛び出してきた電子のエネルギーを測定する「光電子分光(こうでんしぶんこう)」などの実験を行っています。

高分解能光電子分光装置:物質から飛び出した電子を精密に測定します。

震源至近距離観測に基づく地震リスクの低減

小笠原研究室

担当教員/小笠原 宏

JJST-JICA地球規模課題対応国際科学技術協力「鉱山での地震被害低減のための観測研究;2015年8月まで5ケ年」などの世話役をしています。現在、研究専念教員で、南アフリカに長く滞在し、地下約1〜3.4kmで発生する地震(M2程度以上)の至近距離で岩盤の挙動を観測しています。このような試みができるのは世界で同国の金鉱山のみです。日本人研究者約20名(東北大・東大・京大・鹿児島大・東濃地震科学研、産総研)、南アフリカでは研究者・鉱山関係者百名以上と協力し、7つの金鉱山において、以前には不可能であった観測を始めることができました。これから活発化する地震が至近距離でどんどん収録され始めます。マグニチュード9(東北地方太平洋沖)が予見できませんでしたが、地震学が地震リスク低減にどう役立つかを実証することが目標です。

金生産量が南ア最大で採掘が地下3.4kmで進みつつある金鉱山の竪坑塔

地震発生機構および地震波動伝播

固体地球環境物理学研究室

担当教員/川方 裕則

地震は、破壊をともないながら断層が高速ですべる物理現象です。2011年の東北地方太平洋沖地震のような巨大な地震が発生すると、甚大な被害が生じます。現在のところ地震予知は実現されていませんが、何らかの方法で地震の被害を軽減させたいという思いで研究を進めています。
地震の被害軽減には、工学的・社会学的な方法が思い浮かぶと思いますが、まず地震現象のことを正しく理解することが必要不可欠です。いつどこで大地震が発生するのか、地震発生前にどのような現象が観測できるのか、発生する前に地震の規模は決まっているのか、地震波はどのように地球の中を伝わって地面を揺らすのか、といったことが明らかになれば、社会は地震に対して強くなれます。私たちは実験・観測をおこない、地震波データを解析しながら、地震の震源や地震波に関する課題に取り組んでいます。

断層形成途上の花崗岩試料。白い部分が将来、断層となって破壊する。

先端的レーザー分光法を用いた誘電体素励起の励振と精密測定

レーザー分光物理研究室

担当教員/是枝 聡肇・藤井 康裕

当研究室では超高分解能光散乱分光や超高速時間分解分光などの先端的なレーザー分光法を駆使した実験的研究を行っています。現在の主な研究対象は物質の「強誘電性」という性質に関連した素励起であり、音の量子「フォノン」や、フォノンと電子との相互作用、熱エネルギー(フォノン気体)のダイナミクスなどを扱います。例えば、物体に与えられた熱は拡散しかしないというのが熱伝導の常識ですが、これに反してある種の強誘電体においてはフォノン気体の疎密波として「熱の波動」が存在します。我々はレーザーを駆使することによって「コヒーレントな熱の波動」を物質内部に積極的に励起する実験を行っています。また、高分解能光散乱実験では、ある種の強誘電体において単結晶には本来存在しない「フラクタル」の存在を確認しており、その新たなダイナミクスの解明を進めています。

コヒーレント熱波動を創り出すレーザーと光学系、および0.3Kの極低温分光を実現する冷凍機システム。

原子分子の運動に潜む非統計性を探る

計算基礎物理学研究室

担当教員/清水 寧

我々の周りの世界はミクロからマクロにいたるまで絶えず動きながらその姿を変えています。一見不変に見えるものもよく目を凝らせば、そこには非常に多様な動きがあります。我々の研究室では、原子や分子の世界での動きを計算機によって模倣し、それを数理の言葉で理解することを目指しています。特に原子の集合体である分子やナノクラスターとよばれる少数多体系における非線形な運動とそれに起因する非統計性を研究対象にしています。コンピュータの世界からこれらのダイナミクスの背後にある数理を理解し、そこから観測結果に新たな解釈を与えたり、新たな実験を提案することが我々の目標です。

計算機による可視化を通じて方程式の物理的意味を直接的に理解する

超弦理論(超ひも理論)と素粒子の統一理論

素粒子論研究室

担当教員/菅原 祐二・酒井 一博

素粒子論とはすべての物質の根源である素粒子とその間に働く力を統一的に記述し、我々の宇宙の成り立ちを明らかにすることを目指す学問であると言えます。そうした素粒子の統一理論を構築することは理論物理学者の長年の夢であり、2012年のヒッグス粒子の発見等の大きな進展があったものの、まだまだ完成までの道のりは長いと言わざるを得ません。現在、超弦理論(超ひも理論)は未完成である量子重力理論をも含む統一理論の最も有望な候補とされており、理論物理学の最先端分野の一つとして世界中で盛んに研究されています。この研究室では主に超弦理論を中心とした素粒子物理学の研究を行っており、さらには深く関連する宇宙論・ブラックホールの物理といったテーマについても研究しています。

研究室のゼミの風景

メゾ領域の相転移、界面現象の研究

メゾスコピック物理研究室

担当教員/中田 俊隆・勝野 弘康

近年の科学は、素粒子のようなミクロな世界から宇宙空間のようなマクロな世界まで、多くの謎を解き明かしつつあります。しかし、ミクロとマクロをつなぐ中間、すなわちナノメートル(原子や分子を数個〜数百個程度並べた大きさ)の世界では、そのメカニズムが解明されていない数多くの興味深い現象がみられます。我々の研究室では、有機・無機を問わず、様々な材料に対して原子や分子がどのように集合・離散し、あるいは反応するか、すなわち相変態過程や界面現象に注目しています。例えば半導体上に作成される金属量子ドット、有機分子一層からなる超薄膜、タンパク質の結晶など、いずれもが我々のターゲットです。これらの材料を自らの手で作り、その原子・分子配列が変化する様子を、最新の顕微鏡や分析装置を用いて研究しています。

タンパク質結晶の顕微鏡写真。分子が規則正しく配列している。

シンクロトロン放射光が拓く新しい物質科学・生命科学・環境科学

放射光物理研究室

担当教員/難波 秀利・滝沢 優

加速器の中では電子が光速に近い速度で円運動しています。この時、電子はシンクロトロン放射と呼ばれる赤外線からX線までの超強力な連続光を発生しています。研究室では学内に建設した私学で唯一のシンクロトロン放射光源により初めて可能となる新しいサイエンスに挑戦しています。研究テーマは(i)真空中で結晶表面に原子が1列に並んだ1次元の原子鎖を創り、それが現す新奇な特性をシンクロトロン放射光を利用した光電子分光という方法で測定し、調べています。(ii)普通の光学顕微鏡では見ることができない微小な試料を観察するために、シンクロトロン放射を利用した新しいX線顕微鏡を開発しました。これにより50nm程度の非常に小さな琵琶湖プランクトンの観察を初めて行うなど、これまで不可能であった極微の生きた世界が観察できるようになりました。

シンクロトロン放射光源(中央)と実験ステーション

ソフトマターの構造形成とダイナミクス

ソフトマター物理学研究室

担当教員/深尾 浩次・貞包 浩一朗

ソフトマターとはマクロなスケールとミクロなスケールの中間的なスケールに独自の構造とダイナミクスを持つ系であり、ミクロからマクロに渡る広いスケールに豊富な時空の階層構造を持つものをいいます。たとえば、高分子、コロイド、液晶、エマルジョン、粉体などがソフトマターに属します。それぞれの物質についての研究は古くから行われてきたのですが、近年、これらの物質をまとめて、ソフトマターと呼び、これらの示す多彩な物理現象を統一的に理解しようとする試みがなされています。このなかでも、私たちは高分子を対象としたガラス転移、結晶化による構造形成、ガラスダイナミクス、dewetting現象、イオン液体のダイナミクスなどに興味を持って研究を進めています。

誘電緩和スペクトロスコピー法に用いるインピーダンスアナライザー。広い時間領域のダイナミクス測定が可能。

高エネルギーガンマ線天体物理学

天体物理学研究室

担当教員/森 正樹・奥田 剛司

最も波長の短い光、ガンマ線を通じた宇宙の研究により、可視光だけでは分からない高エネルギー宇宙の姿を明らかにしていきます。重い星が進化の最期に大爆発を起こした後に残される超新星残骸、周期的なパルスを放出する中性子星であるパルサーおよびそれを取り巻くパルサー星雲、コンパクト星とのX線連星、中心の巨大ブラックホールをエネルギー源とする活動銀河核など、活動的な高エネルギー天体では、電子や陽子が高エネルギーまで加速され、周辺の放射や物質との相互作用からガンマ線が発生します。ガンマ線は磁場に影響されずに直進し、その到来方向が発生源の方向を保つため、天体における粒子加速現象の研究にはうってつけの探針といえます。可視光など他の波長の観測結果も総合しながら、天体物理学の研究を進めていきます。

フェルミ宇宙ガンマ線宇宙望遠鏡で観測したペルセウス座銀河団方向のガンマ線強度分布

場の量子論による研究、ミクロからマクロまで

理論物理学研究室「量子場の理論」

担当教員/藪 博之

電場・磁場のように空間の各点に物理量が対応するのが場で、その運動を記述する理論が場の量子論です。この理論は自然を理解するための最も基本的な方法で、それは原子核・素粒子や原子分子といったミクロな世界から、宇宙の構造といったマクロな世界にまでおよびます。また場の理論は自然界のシンメトリー(対称性)を考える上で基本的な手段となり、自然界の奥にある美しさを見せてくれます。そしてそれは超流動や超伝導といった現象を通じて、マクロな世界にもひょっこりと現れてきます。この研究室では、場の理論を用いて、素粒子や原子核の世界のシンメトリーの問題や原子気体のボース凝縮状態など物質の新しい量子状態を理論的に解明するとともに、ガンマ線レーザーなど新技術への応用に対する基礎的研究を行っています。

Bose-Fermi混合凝縮体においてたくさんの量子渦がつくる渦格子(理論計算)左がBose粒子凝縮体の渦、右は渦芯にトラップされたFermi粒子、下の図では中心に巨大渦(Giant Vortex)が形成されている。

生命の動き、かたち、パターンを物理と数学で解き明かす

生物物理学研究室

担当教員/和田 浩史

もし手元にケーブルか紐があれば、それを手に取り、その両端をねじってみてください。紐はループをつくってよじれることがわかります。これは座屈と呼ばれる力学的な不安定性で、古くから連続体力学の問題として研究されてきました。しかし近年、細胞内のDNAの構造やある種の微生物の形態を理解するキーコンセプトとして、その現代的な重要性が深く再認識されています。我々の研究室では、生物に現れるさまざまなかたちや運動の様子に注目し、その背後にある「自然の仕組み」を物理の立場から明らかにすることを目指しています。また生物に限らず、身の回りのマクロな自然現象全体を研究対象としており、その内容は非平衡科学に関わる多彩な学際領域にまたがります。研究手法は理論的アプローチが主ですが、(可能な範囲で)自らの手を動かして対象を観察し測定する実験的なアプローチも取り入れていきたいと考えています。

紐をねじると、座屈と呼ばれる不安定性によって特徴的な構造が出現する。電話線からDNAのスーパーコイルにまで共通する普遍的なメカニズム。

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