Research Story 〜つながる研究、つなげる研究〜

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Story #9 島田幸司

工学的知識を背景に、経済・社会科学的角度から環境問題に迫る。

大学・大学院では環境工学を専攻し、その後は17年間、環境省(旧環境庁)で行政官として政策の策定に携わってきました。工学、行政、経済学と立ち位置、アプローチの角度を変えながらも、一貫してフォーカスを当ててきたのは、環境問題です。現在は、工学的な知識をバックグラウンドとして生かしながら、経済学、社会科学的なアプローチから環境問題に迫ろうとしています。とりわけ強く意識しているのは、学術研究に終始するのではなく、国や地方自治体といった行政機関に活用される知見を提供することです。

最近の成果として、滋賀県から要請を受け、京都大学の研究グループらと共同で、滋賀県の温室効果ガスを削減するための必要施策とその効果を試算し、2030年に向けて望ましい滋賀県の姿を示しました。具体的には、住民のくらし、産業、交通・物流、まち・建物、エネルギー、ものづくりの6つのカテゴリーにわけ、100を超える政策についてその効果を検討し、2030年の滋賀県の温室効果ガス排出量を1990年比で50%削減するという試算を導き出しました。その結果は、2009年10月に発表された「2030年 持続可能な滋賀へのロードマップ」に反映されています。

2030年の滋賀県の温室効果ガス排出量半減を試算。

温室効果ガスの削減には、エネルギー政策など地球規模・国家レベルの施策が必要であり、地方自治体にできることは限られているというのがもっぱらの見方です。しかし、例えば交通や土地利用、まちづくりなど、地域が大きな役割を果たせることも少なくありません。なかでも私が関心を抱いているのは、コンパクトシティ政策の環境への影響です。郊外の住宅を都心部に集約するコンパクトシティ化によって環境負荷を低減できることは、先行事例で報告されています。こうした先行研究をもとに、大津市域での効果を検討しました。今後大津市域に新しく着工される住宅を集約対象学区にシフトした場合を想定し、旅客交通、および住宅(建設・使用)から排出されるCO2量を推計したところ、旅客交通、住宅いずれにおいてもCO2排出量を削減できるという結果が算出されました。

こうしてコンパクトシティの有効性を明らかにしても、それを実現するのは容易ではありません。福祉制度や医療施設・サービスといった公共政策と連携させていく必要があります。そこでさらに、国土交通省の「住宅需要実態調査」などをもとに、住み方や住む場所の志向性などを分析し、どのような志向の人を対象に、どんな政策を策定すれば、集約地域へのシフトが促進されるかを探っています。

「政策立案の現場で説得力のある」分析手法と数値を提示する。

学術研究においては、精緻な理論や最適解を導く方法論が重視されます。しかし複雑な事情や利害関係が絡み合う現実社会では、必ずしも最適な方策が採用されるとは限りません。また難解な理論や技術では、現場で働く方々が使えるものとはなりません。そのため私は、信頼性に足る論理整合性を保ちつつも、なるべく政策策定者や決定者に理解される分析手法・数値を用いることを心がけています。現実のさまざまなアクターを想定し、「現場で説得力のある」結果を導き出す。それが私の研究の特徴です。最近は大阪府や神戸市といった滋賀県以外の地方自治体との協力関係も構築されつつあります。

環境問題は、あらゆる分野に関係するディシプリン融合的なテーマです。法律や経済・経営、工学など幅広い学問の素養はもちろん、他の学問領域の人や非専門家とも意見を交換できるコミュニケーション力が不可欠です。若い方々には、自分が拠って立つ専門領域を築きつつも、そこだけに閉じこもらずに幅広い学術領域に目を向けることを勧めます。多様な関連領域と協力することで、世界が必要としている「解」を導き出せる研究者に育ってくれることを期待しています。

  • 官公庁・地方自治体のみなさまへ

    政策をつくる方々に役立つ分析手法・数値を用いて、「現場で説得力のある」データを提供します。

  • 若手研究者のみなさまへ

    自分が拠って立つ専門領域を築きつつも、そこだけに閉じこもらずに幅広い学術領域に目を向けることを勧めます。多様な関連領域と協力することで、世界が必要としている「解」を導き出せる研究者に育ってくれることを期待しています。


島田幸司

Koji Shimada

経済学部 教授

2003年 京都大学大学院環境工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。1986年 環境庁大気保全局、1988年 愛知県環境部、1990年 環境庁環境影響審査課、1993年 環境庁交通公害対策室、1995年 スイス国際環境アカデミー、1996年 環境庁地球環境部、1999年 環境庁海洋汚染・廃棄物対策室、2000年 環境省地球環境局、2002年 環境省水環境部、2003年 立命館大学経済学部教授、現在に至る。環境経済・政策学会、土木学会に所属。

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