能楽部に入る以前から、日本史や京都のまちが好きでした。先輩の「能は和製ミュージカルなんだよ」という言葉と、能や能の衣装・面に興味を持ったことがきっかけで、能楽部に入部することを決めました。今の目標は、学生に能の魅力を伝えること、能を身近に感じてもらえるようにすることです。能に触れるのは、初めてだったので、最初はセリフを言うことも、その意味を理解することも苦労しましたが、今では台本にある古典の意味やその奥深さも分かるようになりました。日本人の“ことば”の選び方や言い回しに、魅かれています。台本からは、昔の人々の考え方も伺うことができます。例えば、子どものためなら死も厭わない母親の話など、台詞の意味を考えると、自然と胸が熱くなってきますね。何百年前の人々も、現代に生きる自分と同じような感情をもっていたのだと、能を通じて共感することができます。台詞を音にのせて発することで、自分の先祖を探す旅へとタイムスリップするような感覚ですね。また、自分が存在しなかった過去の時代の人物になりきることもできます。

夏に開催された日中韓学生交流大会では、仕舞(略式の能・ストーリの見せ場のみを演じること)を披露しました。言葉は通じなくても、海外の学生に能を通して日本文化に触れてもらうことができました。海外の学生だけに限らず、日本人にとっても親しみにくい芸事だと思います。しかし、私は雰囲気だけを楽しんでもいいのではないかと考えています。全てを理解するのではなく、出てくる人物や、動き・言葉のリズムだけで、ストーリを想像することも楽しみ方の一つではないかと思います。能の音楽やリズムにのった台詞を聞いてウトウト眠ってしてしまうことも、能楽が行われている空間の中で十分にリラックスできているということなんですよ。日本人の性質や文化から生まれた心地よさが能には含まれています。観客が眠ってしまったということは、純粋に能が伝わったということとして、能楽師の間でも認識されているんです。（「眠ってもいいんですよ！」）能を“難しい”と思いこんでいる人は、一度能に触れてみてほしいです。

 

立命館大学の能楽部には83年の伝統があります。OB・OGのみなさんが集まると、その年齢の幅は一目見ただけで分かります。普段練習を行っている部室には、伝統に則った規格の鏡板(老松が大きく描かれている舞台の一部)があります。この鏡板は、広小路キャンパスに部室があった時から使用しているものです。さらに、来年は薪能が30周年を迎えます。83年という立命館大学能楽部の歴史の中に自分が居て、さらに日本の歴史の中にも自分が居るということを感じます。私たちはOB・OGのみなさんが守ってきたものをしっかり受け継いでいかなければなりません。伝統の規律と新しいことへの挑戦との間で葛藤があります。継承する学生が減っていくなかで、能楽の素晴らしさを現代の様式に合わせてアピールしていきながら、「伝統を守る」という責任を背負っていきたいと思います。

 

☆立命館大学 能楽部「立命能」
日時：11月19日（月）14：00～19：00　（入退出自由）
場所：以学館2号ホール

☆RS Collection
能の魅力をムービーでお楽しみいただけます。演者に小型カメラを装着し、演者目線の映像も盛り込んでいます！※RS Collectionはこちら