山田組から学んだこと
中村紀彦さん(映像学部3回生)写真:左
亀谷遼輔さん(映像学部3回生)写真:右
山田洋次監督最新作「東京家族」の撮影にインターンシップ生として参加
1月19日(土)に公開される山田洋次監督最新作「東京家族」。
その撮影にクランクインからクランクアップまでインターンシップ生として参加した3か月間。長期にわたる山田組の撮影を通じて、未来に生きる大きな経験をしたお2人にお話を伺いました。
中村さん(撮影部撮影助手):
山田監督が覗き込むモニターをセットするのがいつの間にか、僕の仕事になりました。今考えると無意識にそうしていたのかもしれません。「男はつらいよ」「母べぇ」・・・たくさんの作品を見ました。幅広い年代から支持がある山田監督と一緒の現場で働きたい。入学前からあこがれていました。撮影中はモニターを持ちながら、目線はいつも山田監督を注視していました。監督がどう現場を動かすのか、1シーン1シーンへのこだわり、フィルム撮影の手法をこの目で見ることも貴重な経験でした。モニター番は山田監督を観察する特等席だったと思います。
山田監督の徹底したシーンづくりには驚きました。ある日監督が、僕が着ていた服に書いてあった「ALOHA」の意味を聞いてきたんです。「“こんにちは”の他に“ありがとう”の意味もある」と言ったら「なぜ君はそれを知っているの」「友人に教えてもらったんです」「どうして友人はそれを君に教えたんだろう」・・・とどんどん話が深くなる。ひとつのことが成立するプロセス、理由を徹底的に考える姿は映画作りそのものでした。監督は1シーンごとにその人物の心情の揺れ動きを、役者やスタッフと議論します。それを丁寧に伝える。脚本には書かれていない人物の心の奥に潜む感情が、ラッシュ(*1)の時にすごく光って見えました。
撮影現場でたくさんのことを山田監督から盗んだ気でいます(笑)。撮り方、物の配置、会話の捕らえ方、観客へのメッセージを表現するか・・・ためしてみたくてたまらないんです。スタッフにはフリーで頑張っている人もたくさんいました。現場で出会った全ての人からもらった刺激をこれからに活かしていきたいです。
(*1)ラッシュ…山田組では、撮影したフィルムが現像所から上がってくる度に、スタッフを試写室に集め、スクリーンでチャックする。その際、監督は、スタッフに質問をし、演出・撮影・音楽などを討論し、次の撮影に活かしていく。
亀谷さん(演出部助監督):
2012年4月25日でした。初めてカチンコをうたせてもらったんです。うれしくて日報にもしっかり書いています。でもそこからはミスの連続で、手が震えて二度打ちすることが何度も。カチンコは撮影のスタートからカットまでを撮影陣、キャスト、全てのスタッフに伝える重要な役割です。その重圧に耐える毎日でした。3か月の撮影期間で1400回カチンコがなった内、500回は僕が担当しました。クランクアップが来て集合写真を撮るときに、主演の橋爪さんが「おい、亀谷、前に来いよ」と言ってくれて、最前列で写ったんです。なんか、山田組の一員になれていたんだなと嬉しかったです。
現場で感じたのは、アマチュアの延長線上にプロがあるのではなく、プロはプロであるということ。今回の撮影には僕らも含めて80人のスタッフが関わっています。毎日9時から6時までびっしり撮影。撮影の時間は時間との戦いで、ロケも多く、天候や想定外の事態もしばしば起こりました。それでもみんな絶対に手を抜かない。過酷と思える撮影現場には常に映画人としての誇りが満ち溢れていました。同時にそれは妥協を許さない厳しさでもあり、社会の厳しさでもありました。大学でも映画を作っていますが、この延長にプロがあるのではない。現場に飛び込んだからこそ見えたことだと思います。
現場を離れた今、自分の中に「とにかく撮影したい」という気持ちが押し寄せています。一流のスタッフの皆さんが集る現場で経験したことが、どのように自分のスタイルとして表現できるか、楽しみです。

1月19日(土)公開
『東京家族』
<コピーライト>
(C)「東京家族」製作委員会
2013年1月 全国ロードショー
<キャスト>
橋爪功・吉行和子・西村雅彦・夏川結衣・中嶋朋子・林家正蔵・妻夫木聡・蒼井優
その撮影にクランクインからクランクアップまでインターンシップ生として参加した3か月間。長期にわたる山田組の撮影を通じて、未来に生きる大きな経験をしたお2人にお話を伺いました。
中村さん(撮影部撮影助手):
山田監督が覗き込むモニターをセットするのがいつの間にか、僕の仕事になりました。今考えると無意識にそうしていたのかもしれません。「男はつらいよ」「母べぇ」・・・たくさんの作品を見ました。幅広い年代から支持がある山田監督と一緒の現場で働きたい。入学前からあこがれていました。撮影中はモニターを持ちながら、目線はいつも山田監督を注視していました。監督がどう現場を動かすのか、1シーン1シーンへのこだわり、フィルム撮影の手法をこの目で見ることも貴重な経験でした。モニター番は山田監督を観察する特等席だったと思います。
山田監督の徹底したシーンづくりには驚きました。ある日監督が、僕が着ていた服に書いてあった「ALOHA」の意味を聞いてきたんです。「“こんにちは”の他に“ありがとう”の意味もある」と言ったら「なぜ君はそれを知っているの」「友人に教えてもらったんです」「どうして友人はそれを君に教えたんだろう」・・・とどんどん話が深くなる。ひとつのことが成立するプロセス、理由を徹底的に考える姿は映画作りそのものでした。監督は1シーンごとにその人物の心情の揺れ動きを、役者やスタッフと議論します。それを丁寧に伝える。脚本には書かれていない人物の心の奥に潜む感情が、ラッシュ(*1)の時にすごく光って見えました。
撮影現場でたくさんのことを山田監督から盗んだ気でいます(笑)。撮り方、物の配置、会話の捕らえ方、観客へのメッセージを表現するか・・・ためしてみたくてたまらないんです。スタッフにはフリーで頑張っている人もたくさんいました。現場で出会った全ての人からもらった刺激をこれからに活かしていきたいです。
(*1)ラッシュ…山田組では、撮影したフィルムが現像所から上がってくる度に、スタッフを試写室に集め、スクリーンでチャックする。その際、監督は、スタッフに質問をし、演出・撮影・音楽などを討論し、次の撮影に活かしていく。
亀谷さん(演出部助監督):
2012年4月25日でした。初めてカチンコをうたせてもらったんです。うれしくて日報にもしっかり書いています。でもそこからはミスの連続で、手が震えて二度打ちすることが何度も。カチンコは撮影のスタートからカットまでを撮影陣、キャスト、全てのスタッフに伝える重要な役割です。その重圧に耐える毎日でした。3か月の撮影期間で1400回カチンコがなった内、500回は僕が担当しました。クランクアップが来て集合写真を撮るときに、主演の橋爪さんが「おい、亀谷、前に来いよ」と言ってくれて、最前列で写ったんです。なんか、山田組の一員になれていたんだなと嬉しかったです。
現場で感じたのは、アマチュアの延長線上にプロがあるのではなく、プロはプロであるということ。今回の撮影には僕らも含めて80人のスタッフが関わっています。毎日9時から6時までびっしり撮影。撮影の時間は時間との戦いで、ロケも多く、天候や想定外の事態もしばしば起こりました。それでもみんな絶対に手を抜かない。過酷と思える撮影現場には常に映画人としての誇りが満ち溢れていました。同時にそれは妥協を許さない厳しさでもあり、社会の厳しさでもありました。大学でも映画を作っていますが、この延長にプロがあるのではない。現場に飛び込んだからこそ見えたことだと思います。
現場を離れた今、自分の中に「とにかく撮影したい」という気持ちが押し寄せています。一流のスタッフの皆さんが集る現場で経験したことが、どのように自分のスタイルとして表現できるか、楽しみです。
1月19日(土)公開
『東京家族』
<コピーライト>
(C)「東京家族」製作委員会
2013年1月 全国ロードショー
<キャスト>
橋爪功・吉行和子・西村雅彦・夏川結衣・中嶋朋子・林家正蔵・妻夫木聡・蒼井優