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インタビュー

フェローシップ生インタビュー

日本で広げた未来の選択肢~人工知能で医療診断を支援する~

大連理工大学・立命館大学国際情報ソフトウェア学部出身 情報理工学研究科

SHI Xiaoyuさん

  • 2024年度 取材当時

RARA学生フェローは、日々どのように研究に取り組んでいるのか。研究活動を通じて、どんな学びを得ているのか。博士課程後期でぶつかる壁をどのように乗り越えているのか。RARA学生フェローの学びや、思い描いているキャリアパスを紹介するインタビューシリーズ第2回、大連理工大学・立命館大学国際情報ソフトウェア学部出身、情報理工学研究科1年のSHI Xiaoyu(トキ)さんだ。

子どもの頃からの夢に挑戦

―― はじめに、中国から立命館に来た理由を教えてください。

トキ:中国では子どもたちの多くが研究者になりたいという夢を抱いています。ところが中国では同世代の人口が多いために、実際に研究者になれるのは本当にごく僅かなんです。それでも何とかして研究者になれないものかと考えていた時、大連理工大学・立命館大学国際情報ソフトウェア学部の存在を知りました。同学部に入学すれば、立命館大学の3年次に転入でき、大学院へと進む道が開けます。日本に行き、研鑽を積めば、研究者になる夢が叶う可能性を高められるのではないか……。そう考えて努力した結果、中国でもトップクラスかつ日本留学が可能な大学に入学できました。

―― 日本の大学への転入について迷いなどはなかったのですか。

トキ:立命館大学への転入については、抵抗などありませんでした。子どもの頃からアニメなど日本の文化が大好きだったし、中学時代には少しですが日本語を独学していました。そもそも大連から日本に転入できるのは1学年で40人に限られていて、それも日本語能力試験レベル2の合格者だけが選ばれるのです。ほかにも英語、プログラミング、情報理工に関する知識も身につけておかなければなりませんでした。厳しい条件をクリアして日本に来られたのだから、将来についてはワクワクしていました。

立命館転入後に決意「博士をめざす」

―― 学部3年次からの転入後、日本での学びはどのようなものだったのでしょうか。

トキ:研究室に所属して初めて本格的な研究に取り組み、その難しさを実感しました。私が取り組んだのは、人工知能モデルを設計して、時系列で得られた医学画像を統合的に分析する研究です。これは非常に難しく、一時は研究者になる夢を諦めたほどです。けれども、気持ちを切り替えて解決策を探り、努力した末に研究成果を世に出すことができました。このとき初めて研究の楽しさ、つまり問題を分析し解決する過程で得られる、例えようのない満足感に充たされたのを覚えています。

―― その後修士課程に進んだとはいえ、改めて博士をめざすのは大きな決断だと思います。

トキ:博士を目指そうと決めたのは、学部生のときに研究の面白さに気付いたからです。まだ誰も答えを出していない問いを自分で見つけて、問題解決をするのが研究です。研究はこれほど面白いのだから、生涯をかけて取り組む価値があると思いました。だから修士課程の1年次に、博士後期課程に進むことを決めました。最終的に決断した理由の70%は、研究者になるという夢をかなえ、研究生活に挑戦して楽しみたいという気持ちからです。さらに残りの30%として、先生や先輩、両親からのサポートを得られたことも強い後押しとなりました。

―― 日本と中国において、大学での学びにはどのような違いがありますか。

トキ:大連理工大学では、さまざまな講義を学びました。授業は中国語がメインですが、日本語や英語での講義もあります。日本に来てからは日本語の授業がメインで、国際授業は英語で行われます。国際色豊かな陳先生の研究室にはインドやベトナム、タイなどからの留学生がいるので、彼らと交流するときには、基本的に英語を使います。もともとコミュニケーションが大好きなので、日本文化を始めとしてさまざまな文化に触れられる今の環境はとても楽しいです。ちなみに、日本のラーメンが大好きで、よく食べにいきます(笑)。

フェローシップ生インタビュー

ゲーム関連の研究志望から医療研究への転換

―― 所属している研究室での研究テーマは何でしょう。

トキ:医療診断を支援する人工知能の開発に取り組んでいます。とはいえ正直にいえば最初は、子どもの頃から大好きだったゲーム関連の研究室を志望していました。けれども志望者が多くて入れなかったため、考え方を大きく変えて人類社会に貢献できる医療を研究テーマにしようと決めたのです。

―― 具体的にはどのような研究内容なのでしょうか。

トキ:脳腫瘍の中でも神経膠腫、いわゆるグリオーマを対象とする自動診断システムの開発に取り組んでいます。放射線やMRIによる画像データに加えて、医師のレポートや診断書なども併せてグリオーマを総合的に判断します。ポイントは、単に画像データだけで判断するのではなく、テキストデータも併用して診断精度を高める点にあります。人工知能を活用して医学論文を読ませて、学術的な知見に基づいた診断を下せるようにも工夫しています。

―― 診断精度を高めるためにはデータが重要になりますね。

トキ:そのとおりで、学習させる画像データ数を増やせば、診断の精度が高まります。たとえば2万枚のデータで学習させた場合と、10万枚で増やした場合を比べれば、診断精度は格段に違ってきます。ところが現実問題として、医療用の画像データ収集はとても難しいのです。現状は連携している医療機関から提供されるデータに加えて、インターネット上に公開されているパブリックデータも併せて活用しています。ただ日本の医療機関からデータ収集するためには、必ず自分で出向き、厳しいルールをクリアする必要があります。

―― 難しい状況のなかでも研究を進めていく上で、どのようなことを心がけているのでしょうか。

トキ:大切にしているのは、常に自分を高めようとする向上心です。実験でも論文執筆でも、必ずうまくいかないときがあります。けれども、そんなときこそが学びにつながる、あるいは自分を高めるためのチャンスだと自分に言い聞かせています。要は目の前の問題をいかに乗り越えられるか。一つ解決方法を見つけられれば、次に同じような問題と出会ったときには、よりうまく対処できます。この少しずつでもレベルを高めていく過程こそが、研究の本質だと感じています。自分を高める方法は他にもあり、たとえば論文を読む、インターネットで確かな情報を調べるなどです。もちろん研究室の先生や仲間、先輩に相談するのも何よりの助けになります。

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医師を支援する研究者に

―― 研究を進めていくためにRARA学生フェローに応募したのですね。

トキ:研究室の先輩に、RARA学生フェローの方がたくさんいます。私が博士後期課程に進もうと考えたときに、先輩がRARA学生フェローを紹介してくれました。学生フェローになることができれば、他の学生フェローと交流して人間関係が広がるからと、陳先生も応募を勧めてくれました。先輩や先生からは関連情報を教えてもらったり、応募時の注意点などのアドバイスも受けています。なので、応募可能になった段階で、すぐに申し込みをしましたね。

―― RARA学生フェローの応募申請書作成では、どのような点を注意しましたか。

トキ:なにより重視したのが、研究計画の実現可能性と社会発展の意義をいかに魅力的に伝えるかですね。異分野の方にもわかりやすい説明となるよう工夫すると同時に、研究の専門性はきっちりと保つよう心がけました。申請書の作成には研究室の先生の指導も受けながら、何度も修正して時間をかけましたね。

―― RARAフェローになって得られたメリットは何でしょうか。

トキ:やはり最大のメリットは、研究費と生活費の支援です。人工知能の開発には、高性能なコンピュータと専用のGPUが必要です。このGPUが高額なことが、大きな悩みです。また研究室では修士以上は1年に1回は海外の学会に参加しますが、その際の出張経費もかなりかかります。とはいえ国際学会に参加して得られる学びは極めて大きい。いろいろ経費が必要になるので、RARAフェローとして得られるサポートはとても貴重です。

―― 今後のキャリアパスは、どのように描いているのでしょう。

トキ:直近の目標は、博士号の取得です。論文は専門誌にすでに2回投稿していて、今は博士論文のまとめに取り掛かっています。その後、日本の大学で研究員としてスタートしたい。その先に見すえているのは、日本での大学教員です。もちろん、その間には医療に関する人工知能の開発を進めて、医師を支えていくつもりです。

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