立命館大学国際平和ミュージアム館長
西村 智朗
(にしむら ともあき 立命館大学国際関係学部教授)
このたび、立命館大学国際平和ミュージアムの館長に就任いたしました。開館以来、歴代館長をはじめ、多くの関係者が積み重ねてこられた歩みを引き継ぐこととなり、その責任の重さを改めて感じています。
当ミュージアムは、大学が設立した平和のための博物館として、1992年に開館いたしました。アジア太平洋戦争をはじめとする戦争の歴史に、その加害と被害の両面から誠実に向き合い、過去を見つめることを通じて未来の「平和の創造」につなげる―これが、開館以来変わることのない当ミュージアムの理念です。2023年には第2期リニューアルを終え、拡充・深化した展示のもとで新たな歩みを始めています。
大学が設立した平和博物館は世界的にも先駆的な存在であり、これは当ミュージアムの大きな特色です。そしてもう一つの特色は、学生たちがその活動に深く関わっていることです。来館者との対話や資料の整理・管理を通じて、若い世代自身が平和の担い手となり、単に過去を記録するにとどまらず、これからの平和を積極的に「創造」していく―当ミュージアムがそうした場であることを、これからも大切にしていきたいと考えています。
この挨拶文を記している現在も、ウクライナ、ガザ、そしてイランをめぐる情勢など、人々の生命と尊厳を脅かす武力紛争が各地で続いています。館長としての任期のうちに、これらの紛争が何らかの形で終結へと向かうことを、平和を願う一人として心から望んでいます。しかし、こうした願いとは裏腹に、これらの紛争は、いずれも国際社会が長い年月をかけて築いてきた「法の支配」への深刻な挑戦にほかなりません。もっとも、その「法の支配」という言葉は、しばしば明確な定義を欠いたまま用いられ、国内社会と国際社会におけるその意味の違いを十分に意識せずに語られることも少なくありません。統一的な立法機関も強制的な執行機関ももたない国際社会において、真の「法の支配」とは何かを問い続けること、そして、力ではなく法と秩序によって紛争を律するという理念を大切にすること-それこそが、いま改めて求められていると私は考えます。
さて、私の専門は国際法、とりわけ国際環境法ですが、その立場から申し上げれば、今日の「平和」は戦争の有無だけで測れるものではありません。気候変動を背景として頻発・激甚化する自然災害は、国境を越えて市民の生活と安全を脅かしており、その被害は、しばしば社会のなかで最も弱い立場に置かれた人々ほど深刻なものとなります。こうした危機に立ち向かうには、国家の枠を越えた対応と連携が不可欠です。国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)は、貧困や不平等の解消から気候変動対策、海洋や生態系の保全に至るまで、平和で持続可能な世界の設計図というべきものであり、その重要性はますます高まっています。しかし実現に向けた課題は依然として大きく、私たち一人ひとりの関与が問われています。環境・人権・発展と平和は、決して切り離すことのできない一体のものとして考えられなければなりません。当ミュージアムでは、こうした現代社会が直面するさまざまな課題についても、平和との関わりのなかで学び、考えることができます。
歴史に学び、いまを見つめ、これからの平和を構想する。当ミュージアムは、そのための出会いと対話の場です。子どもから大人まで、また国内外の多くの方々に、ぜひ足をお運びいただき、それぞれの立場から「平和の創造」について考えを深めていただければ幸いです。皆さまのご来館を、心よりお待ち申し上げております。
(にしむら ともあき 立命館大学国際関係学部教授)
1968年生まれ。名古屋大学法学部・法学研究科で学ぶ。三重大学人文学部助教授を経て、2007年から現職。2022-2025年に国際関係学部長を務めた。
専門は国際法、国際環境法。気候変動や生物多様性に関する国際法の現状と課題を研究するほか、持続可能な開発に関する現代国際法の役割などを研究テーマとし、国際法協会(ILA)の「持続可能な開発目標(SDGs)に関する国際法」委員も務める。
著書として『気候変動問題と国際法』(東信堂、2024年)、共編著として『ベーシック条約集』(東信堂、毎年刊行)、『テキストブック法と国際社会』(法律文化社、2024年)等。