立命館宇治中学校・高等学校

Ritsumeikan Uji Junior and Senior High School

立命館宇治中学校・高等学校

独自のカリキュラムと
ネットワークにより
問題意識を持ち、
行動を起こせる生徒を育成

01 SDGsに直結する
探究型の学び

 スーパーグローバルハイスクール(SGH)指定校に選ばれるなど、常に新しい挑戦を続ける立命館宇治高等学校。2019度にはSGHの後継事業である文部科学省「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業」の拠点校に採択され、次なる一歩を踏み出した。本校のWWL事業構想には、SDGsに通じる理念や活動が数多く含まれる。

 本校におけるWWL事業の柱として、まず独自のカリキュラムが挙げられる。代表的なものが、IG(インテグレイテッド・グローバル)コースで始まった「コア探究」だ。この活動のポイントについて、本校の研究主任を担当する酒井淳平教諭はこう話す。「コア探究は、3年間の本質的な学びを通じて、骨太の生徒を育てることを狙いとしています。自ら問いを立てて学ぶ意味を考えたり、自らが解決したいと思う社会課題を探究したり。社会課題に取り組むという点が、SDGsに結び付きます」

左:水口 貴之 教諭 右:川本 健太郎 教諭

 IM(イマージョン)コース、IB(国際バカロレア)コースでもそれぞれ「GLS(グローバルリーダーシップスタディーズ)」「CAS(Creativity, Activity, Service:創造性・活動・奉仕)」という課題解決型の学習を以前から導入しているが、コア探究の開始とともにさらなる強化を目指す。GLSでは「グローバル課題研究」を実施しており、生徒一人ひとりが解決したいと考える国内外の問題を設定し、調査から解決策の実践までを行う。「生徒たちが取り組む課題のテーマは、教育や貧困、多様性の受容など多岐にわたります。子ども食堂といった日本社会に関わる問題を研究する生徒もいますね」と語るのは、IM教育部 部長を務める川本健太郎教諭だ。GLSにSDGsの考え方を取り入れた教諭は、その意義について次のように感じたという。「日本の高校生の間では『課題は途上国にあるもの』という認識が強いと思います。しかし、SDGsでは働きがいや異文化理解、健康など先進国に関連するゴールも掲げられています。先進国は優れていると考えるのではなく、すべての国がそれぞれ課題を抱えている、と認識する手掛かりとしてSDGsが役立っています」

 GLSでは課題研究の一環としてラオスでの研修も実施。「途上国の問題を解決したい」と考える生徒にアクションを起こす機会を提供している。「普通のプログラムだと孤児院やスラム街を見て終わりかもしれませんが、この研修は違います」と川本教諭。「どのような課題があり、どのようにすれば解決できるのかを徹底的に追究します。例えば、現地の産業を支援するために地場の商品を買い付けて日本で販売し、その売り上げを支援金として寄付するといった活動まで行っています。この研修をステップアップのきっかけにして、生徒がSDGsを自分事として捉え、行動を起こせるようになってほしいですね」

02 世界の現実と向き合い、
成⻑のきっかけを得る

 渡航先のラオスで、⽣徒たちはさまざまな課題と正⾯から向き合うことになる。「現地で取り組むテーマに、教育問題があります。例えば、ラオスの学校では芸術や図画⼯作といった情操教育が⾏われていません。そこで、本校の⽣徒が農村の⼩学校を訪問して実際に授業を⾏う、といった活動を実施しています」と川本教諭は話す。「授業内容は⽣徒たち⾃⾝が事前に⽇本で考え、⼀⽣懸命に準備します。現地に着いてからも、何回も練習を⾏います。そして、本番は通訳の⽅の助けを借りて、英語をラオス語に翻訳してもらいながら授業を進めます」。現場を訪れたからこそ得られる気づきも多い。「ラオスの学校は教育設備がかなり不⾜しています。教科書もありませんし、教員の研修制度も整っていません。国内には40以上の少数⺠族がおり、ラオス語を話せない⼦もいます。⽣徒たちはそうした現実を知り、『⾃分たちの活動は本当に世界のためになるのだろうか』といった無⼒感を覚えることになります。私としては、その気持ちを⼤切に胸に抱き、将来もっと⼤きなインパクトを⽣み出すための原動⼒にしてほしいという思いがあります」

 ⼩学校訪問のほか、⾼校⽣と関わる機会も。「ラオスでは⾼校や⼤学の就学率の低さも問題となっています。⾼校が⼤都市圏にしかなく、農村の⼦どもは通学が難しいためです。プログラムの中で訪れる『坂雲寮』は、その問題の解決に取り組んでいる団体の1つ。成績が優秀なのに経済的・距離的理由で⾼校に進学できない地⽅の⼦どもたちを集め、学びを⽀えています。そこで現地の⾼校⽣と交流し、異⽂化を理解・尊重し、異なる価値観に柔軟に適応する姿勢を養っています」

 ラオスに⾏く前と後では、⽣徒に⼤きな変化・成⻑が⾒られると川本教諭は⾔う。「渡航前はどこか『やらされている感』があった⽣徒も、帰ってきてからは課題と真剣に向き合い、⾮常に頑張って取り組んでくれる。実際に出会うことの⼤切さを感じますね。この経験をきっかけに『アジアの学⽣とつながりを持ちたい』と⽴命館アジア太平洋⼤学に進む⽣徒も多く、進路形成にも⼤きな影響を与えているようです」

03 「交わり」が生む
課題解決の力

 WWL事業において、カリキュラムと並ぶもう1つの柱がAL(Advanced Learning)ネットワークだ。本校が拠点校を務めており、2019年度時点で国内連携校14校、連携大学2校、海外連携校6校、企業・団体8者が参加している。SDGsのSDG17「パートナーシップで目標を達成しよう」とも相通ずるこのネットワークの意義について、水口貴之教諭はこう語る。「WWL事業では、日本国内にある約5000の高校が全体でレベルアップしていくことを目指しています。その実現のために、地域や校種を問わず、同じ志を持ち一緒に盛り上げていける学校と連携しています。海外連携校は台湾やタイ、マレーシアなどアジア地域の学校が多いですね。そして、私たち学校がやりたいことをサポートしてくれる存在として企業や団体とも連携しています。教育機関同士がつながって大きな力を生み出し、それが国内外に波及し、社会が応援する。そうした大きなうねりを生み出せる点が、ALネットワーク構築における醍醐味です」

 ALネットワークでは、すでに多数の活動を共同で行っている。その1つが先に紹介したラオス研修で、聖光学院高等学校と福岡雙葉高等学校の生徒が本校生徒と一緒にラオスを訪れている。全国高校生SRサミットFOCUSもまた、共に取り組むイベントの1つだ。本校の呼び掛けで2018年度からスタートしたこのサミットには、Social Responsibility(社会的責任)を意識し、社会課題の解決を目指す全国の高校生が集う。それぞれの学校が環境保護や教育支援、地域活性化など多彩なテーマに関するプロジェクトを持ち寄り、普段は出会わない人と混ざり合いながらブラッシュアップを重ねていくこのイベントは、各校の生徒にとって、新たな視点や発想を得られる貴重な場となっている。

04 SDGsに対する取り組みは
教育の結果として付いてくる

 立命館宇治は今後、どのようにSDGsと向き合っていくのか、水口教諭はこう話す。「WWL事業では、生徒研究テーマとして『SDGs実現に向かってアクションを起こそう』Diversity and Inclusion-多様性を受容し協働できるグローバル社会の実現に向けて、というスローガンを掲げています。ざっくりとしたテーマですが、そのぶん個々人が抱える問題意識に対応できる。彼らがやりたいと思ったことが、自ずとSDGsのいずれかのゴールに結び付いてくるのです。また、本校には『Your Link to the World~学んだぶんだけ、世界が近くなる』というスクールコンセプトがありますが、この言葉も幅広い意味を含み、生徒の可能性を限定しないものとなっています。そうした点で、私たちの教育とSDGsには重なり合う部分が多くあります」

 川本教諭は立命館宇治の強みを踏まえ、次のように語る。「生徒研究テーマにあるDiversity and Inclusion-多様性を受容し協働できるグローバル社会の実現に向けて、という点ですが、本校はまさに多様性ある組織を有しています。多様な主体が力を合わせて問題解決に臨む、というSDGsの考え方とも親和性があるので、この特長を生かした取り組みを展開していきたいと思います」

東洋経済ACADEMIC 「SDGsに取り組む小・中・高校特集」掲載