伝わると思ったのに伝わらない!なぜ?

2025.03.27

なぜこの研究をしているの? どんなところが面白いの? 研究の源である「探究心」について先生に聞きました。

  • 堀江 未来 教授
    立命館大学 グローバル教養学部
伝わると思ってもなかなか伝わらないことってあるよね。自分や相手のコミュニケーションスタイルを知るためには、何から始めればいいんだろう?
いろんな方法があるけれど、これまで育ってきた環境から一歩外に出て、異文化に身を置くと、さまざまな学びや発見があります。
先生は、子どもの頃から異文化をたくさん体験していたんですか?
そうではありません。私がこの分野に興味を持つようになったのは、大学生の頃です。留学生とバレーボールをする交流会があったのですが、そのときに「留学生ははっきりものを言うなあ」と感じたことが、最初の異文化体験でした。日本では、「それ違うよ」とストレートに伝えると、ちょっと空気が悪くなる感じってありませんか?
あるある!
ストレートに言わずに、「それ違うかもしれないけれど、どうかな?」って言うかも。
そうですよね。日本では、暗黙のルールや空気を読む文化があり、言葉以外の情報を大切にしたコミュニケーション(ハイコンテクスト)が一般的です。でも、他の国では必ずしもそうではありません。言葉で明確に伝えるコミュニケーション(ローコンテクスト)を大切する文化もあります。こうしたコミュニケーションスタイルの違いは、実際に体験してみないとわからないものです。
コミュニケーションスタイルが異なる人と話すときは、自分のスタイルを変えるといいのかなあ?
それってすごく難しそう……
もちろん最初は戸惑うと思います。例えばバスに乗りたいと思ったとき、どうしますか?
バス停で待つ……よね?
そうですよね。日本だとバス停で待っているだけで大丈夫。でも、他の国では待っているだけではバスが止まってくれない場合もあります。
えっ!?
びっくりするよね(笑)でも、そんなときはどうしたらバスが止まってくれるのかを考えて、周りの人の行動を観察するんです。そうすると、「手を挙げて運転手さんに伝えればいいんだ」と気づくことができます。一度やり方を知れば、もう驚かなくなりますよね。
そっか、ちょっと工夫すればいいんだ。
そうなんです!こういった一つひとつの工夫の積み重ねが、人間の成長につながると私は考えています。私自身、中国に留学してどっぷり現地の文化に浸かった後、日本に帰国した際、日本の文化に馴染めない自分に気づきました。友人からは「人が変わったみたい」と言われたり、喧嘩が増えたりして、とても歯がゆい思いをしました。もう一度、日本の文化を吸収する必要があったんですね。大変でしたが、二つの国の文化の違いを体感したことで、バランスよく物事を見る力がついたと感じています。
人間の成長かあ。いろいろな国の文化を体験したら、ちょっと上手くいかないことがあっても平気になりそう。
そうですね。ちょっと上手くいかないことがあっても、ただ嫌な思いだけで終わるのではなくて、「どうしてそうなるんだろう?」っていう探究心や好奇心をもって向き合えるようになると、それが新しい学びや成長につながります。このメカニズムを教育実践に応用したい。そのような思いで研究を進めています。これは外国の人との交流だけでなく、日本人同士のコミュニケーションでも同じことが言えます。
確かに、さっき動画の感想をミライさんに伝えたけど、すぐには伝わらなかったな。
ハテナさんは、ミライさんが自分と同じ動画をきっと観ていると思って、具体的な説明をせずに話し始めましたが、ミライさんは何の話をしているのかさっぱりわからなかったですよね。でも、伝え方をちょっと変えたら伝わった。ハイコンテクスト・ローコンテクストのいい例でしたね。
先生は、こういったコミュニケーションスタイルの違いや異文化理解を大学で研究しているんですよね。難しいことが多そうだけど、壁にぶつかったりしないんですか?
うーん、それがあんまりないんですよね。異文化理解について研究していると、何か問題があったとしても、「どう乗り越えていこうかな」「これは成長のチャンスだぞ」と考えるようになるんです。コミュニケーションが上手くいかないことがあったとしても、楽しめるようになっちゃった(笑)
上手くいかないことも楽しめるようになるのか。すごいなあ。
私は、異文化理解とは『心の器を大きくすること』だとよく話しています。思いもかけない出来事が起こったとき、「許せない!」と思うかもしれません。でも、コミュニケーションスタイルや文化の違いを理解していれば、「ここには私の知らない文化があるのかもしれない」と考えられるようになります。つまり、見えない部分を考えるようになるということです。こうした姿勢は、人間の成長において欠かせないものだと思います。
見えない部分に、その人の育ってきた文化が含まれているんですね。
世界にはたくさんの国や文化があるから、先生の研究に終わりはなさそうだなあ。
その通り! 私も中国に1年、アメリカに3年留学しましたが、それで全てをわかったわけではありません。今も韓国で数ヶ月生活をしていますが、日本とは文化が違うので、日々驚きに満ちています。自分の全く知らない土地に身を置いて過ごすことの大切さを今まさに実感中です。新しい発見がどんどんあるから、異文化について学ぶのはやめられませんね。
先生、楽しそう。
研究は楽しいですよ。今はプロジェクトメンバーと一緒に、学校で使える教材の作成や、実際に教える先生たちのトレーニングプログラムの開発に取り組んでいます。小さい頃から異文化を理解する力を身につけ、多様な人との協働できる力を高めておくことが、よりよく生きていくため一つの道具になると信じて、この研究を続けています。

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