宇宙は誰のもの?
2025.12.08
なぜこの研究をしているの? どんなところが面白いの? 研究の源である「探究心」について先生に聞きました。
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川村 仁子 教授
立命館大学 国際関係学部
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- 宇宙のルールって、どうやって研究するんですか?
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- たとえば「宇宙ではどんなルールが必要なのか」を考えるときは、まず南極や深い海の底のように、どの国のものでもないみんなが使える場所のルールを調べます。その中から宇宙にも応用できそうな考え方を探して、「宇宙ではどんなルールにするのがベストなのか」を導き出していくんです。
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- 研究って、理科の実験みたいなことをするわけじゃないんだ!
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- そうなんです。私が大学院で国際関係学を学んでいたころは、ひたすら白黒の本を読み、昔の政治思想を調べていました。その時代の政治のしくみを調べて、比較して、分析し、まとめる。これを繰り返して、その思想は古代ではどうだったのか、それが形を変えて現実の政治とどのように関係していき、現代ではどのような形で使われているのかを考えていきました。
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- どんなきっかけで「宇宙法」の研究をするようになったんですか?
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- 子どものころから宇宙が大好きで、宇宙飛行士にあこがれていました。でも、高校生のときに病気で入院をして、宇宙飛行士になるのはあきらめたんです。ただ、そのときに担任の先生が歴史や文学、哲学の本を紹介してくれたことがきっかけで、法や政治に興味を持ち法学部に進学しました。法学部での学びがとても面白かったので、「もっと研究したい!」と思うようになって、国を超えた法や政治の関係について学ぶため、国際関係学の大学院に進学することにしたんです。
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- そこから研究の道に進んだんですね。
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- 大学院に進学したときは、研究者になるなんて想像してなかったんですけどね。大学院では共和主義という政治思想の研究を始め、それが国際組織や国際的な市民社会の形成にどうつながっていくのかを研究していました。その中で「人びとが国に頼らず、自分たちのためのルールを作って守る」という考え方に出会い、この考え方がAIやバイオテクノロジーなど、先端科学技術分野のルールづくりにもつながっていることがわかりました。このような国際的なルールづくりの先行事例を探していくうちに、「宇宙法」にたどり着いたんです。当時の指導教官・龍澤邦彦先生も宇宙法の世界的権威だったので、宇宙法と関わることが自然と増えていき、その面白さに夢中になっていきました。
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- 気づいたら研究者になってた、って感じなんですね。
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- 先生が宇宙法の研究をしてて、「面白い!」と思うところはどこですか?
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- 国際関係の資料を読んでいると、人類の争いの記録ばかりで希望が持てなくなることもあるんです。一方で、宇宙をはじめ先端科学の分野は、各国が協力し合わないと次のステップに進めない世界。たとえば、ロシアとアメリカは長らく仲が悪い国ですが、宇宙分野では競争もしていますが協力もしています。そこに、人類の希望が持てるところが面白いです。
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- 確かに、ケンカするより協力できる方がいいです!
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- 研究をしてて大変だなと思うこともありますか?
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- コロナ禍のときに「不要不急」という言葉をよく耳にしましたが、宇宙も不要不急な分野だと思われがちだということですね。何百億という莫大な予算が必要な宇宙開発よりも、社会保障や貧困問題、教育などの方が大切だと考える人が多いですから。
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- え〜、でも宇宙って夢があってワクワクするのに!
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- そうですよね。宇宙開発は遠い世界のように思えますが、意外と日常生活を心地よくすることにもつながっているんです。マジックテープやGPSも、宇宙開発がきっかけで生まれたもの。だからこそ、企業も宇宙開発には大いに関心を持っているんですよね。
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- でも、国によって考え方が違うから、共通のルールをつくるのは難しそう。
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- そのとおりです。以前、欧州宇宙機関の元事務次長をやっていた先生に「日本には月を眺めて思いをはせる文化があるけど、月面開発が進むことをどう思う?」と聞かれたことがありました。確かに、国ごとの価値観、倫理観を理解したうえでルールを作らないと、ルールを受け入れられない国が出てきます。だからこのようなルールを決めるには、理系の先生たちだけではなく、心理学者や宗教者など、さまざまな分野の人との連携も大切なんです。そこがこの研究の大変なところなのですが、研究者としては面白いとも思っています。
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- 宇宙法の研究の先には、どんな未来があるんだろう?
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- 先端技術の分野では、仲のよくない国同士であっても協力し合い、問題を解決しなくてはいけません。先端技術のルールづくりで国同士が合意すれば、それが国家間の関係をよくするきっかけにもなります。
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- 日本は、宇宙開発の中でどんなポジションなんですか?
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- 日本は主にアメリカと協力して進めています。アメリカが中心となって宇宙の探査や宇宙利用に関する基本原則を定めた「アルテミス合意」という政治的ルールがありますが、そこにロシアや中国は入っていません。そうなると、せっかく研究成果を上げても、アルテミス合意に署名していない国からは、成果の法的な保護を受けられないこともあり得るんです。日本がアメリカと中国などの間に立ってうまく合意できるように立ち回れば、宇宙開発の分野での存在感がもっと高まるでしょう。またスペースデブリ(宇宙ゴミ)の問題に関しては、日本の企業が頑張っています。「国がやらないなら私たちがやる」という企業がたくさん出てくれば、国も動き出すかもしれませんね。
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- 先生が探究を続ける原動力って何ですか?
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- 子どものころから研究者になりたいと思っていたわけではなかったんですが、小さいころから興味があると調べてノートにまとめるのが好きだったんですよね。それが仕事になるとは思っていなかったけれど、興味関心の赴くままにずっとやってきたら、いつの間にか研究者になっていたんです。
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- 好きなことを調べるのって楽しいもんなあ〜
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- 宇宙に興味を持ったら、次にどんなことをしたらいいですか?
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- 宇宙に興味を持つ人は多いですが、理系の分野に目が向きがちですよね。でも、人類が宇宙に進出することは、国際問題や政治、社会とも深く関わっています。先端科学技術に基づく社会では、「理系が好きだから文系には興味がない」と思わずに、さまざまな分野に目を向けてみてくださいね。
