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[「政策過程モデルの検討」目次]
3.政策過程類型
本稿で検討しようとしている日本の政策過程に関するモデルは、村松岐夫の「内環・外環」モデルと、それに対する修正もしくは異議申し立てとして出された二つのモデル、すなわち真渕勝の「第三の政治過程」モデル、山口二郎の「戦略過程」モデルである(村松1981、真渕1981、山口二郎1987、各モデルの名称は本章の筆者が便宜的につけたものである)。前二者は政策規定説にこだわらない過程のパターン抽出型のモデルであり、山口二郎のモデルは政策規定説に則って作り出されたものである。
本節では、まず、各モデルが提示している部分的過程について検討を加えたい。検討を加える際の用具として、フローマンが様々の、政治過程析出のための政策カテゴリー分類を評価する際に用いた基準を流用する(Froman, Jr.1968, pp.46-8)(8)。基準には、包括性(Inclusive )、相互排他性(Mutually exclucive)、妥当性(Validity)、信頼性(Reliability )、測定のレヴェル(Level of Measurement)、測定の容易さ(Ease of Measurement )、関連性(Differentiation )の七つの項目があって、それぞれは以下のようなものである。
包括性:すべての政策が分類法のいずれかのカテゴリーに分類しきれるか。
相互排他性:政策は一つのカテゴリーにのみ分類されるか、それともカテゴリーは重なりあうか。
妥当性:政策カテゴリーの各概念は、定義せんとするものを有効に定義し得ているか。
信頼性:ある特定の政策があるカテゴリーに属するということについて、研究者間に高度の合意が存し得るか。
測定のレヴェル:分類が名義的(名称を付けただけのものにすぎない:nominal )か、序数的(一定の基準に添って並べた順序は判るが隔たりまでは測定できない:ordinal )か、測距的(隔たりまで測定できる:interval)か。
測定の容易さ:カテゴリーは容易に操作化されるか。
関連性:カテゴリーは他の事象と関連しているか。どの程度関連しているか。
ちなみに、ローウィの「分配−規制−再分配」モデルに対するこの基準に照らしてのフローマンの評価を記せば、包括的でなく、必ずしも相互排他的でなく、妥当性は高いが信頼性はおそらく低く、測定レヴェルは名義的なものにとどまり、測定は容易でない、ということになっている。関連性については「大変高いかもしれない」となっているために、理論的可能性については認めつつも測定の問題については厳しい評価を下しているといえる(Froman, Jr.1968, p.51 )。理論的可能性の高そうなものほど測定の問題は困難である、というのがいろいろな政策タイポロジーを比較検討してのフローマンの結論であった。
むろん、ローウィの政策類型に対するこの評価は、一九六四年の書評論文の段階の枠組みに対してのものである。「強制」概念の操作化を経た後のものについては信頼性や、測定のレヴェル、測定の容易さなどの評価は変わるであろう。もっとも、政策規定説の色合いが比較的薄い一九六四年段階のものについても、グリーンストーンやチェルベリのように「政策出力の集合性=分割不能性」、「財の集合性」を基準にした分類であると解すれば、測定レヴェルはすくなくとも序数的なものになるはずである(Greenstone1975, p.280、Kjellberg1977, pp.562-3)。
測定のレヴェルがどの程度のものであるかは、そのタイポロジーの理論的意義を考えるときに重要である。部分的政治過程を定義する政策内容の定義の測定のレヴェルが、単に名義的なレヴェルに留まるものであれば、それぞれの部分的政治過程の相対的位置関係が明瞭にならず、部分的政治過程を配列した構造が十分には見えてこないからである。測定のレヴェルが序数的であるということは、部分的政治過程を特定のスケールの上に配列することで、構造に対する視座を獲得することができることを意味するのである。また、重要なことは部分的政治過程をなんらかのスケールの上に位置付けることであるとするならば、政策規定説に立たずとも、政治過程のパターンを抽出しその測定のレヴェルを問題にすることにも十分意義があることがわかる。
フローマンは政策規定説の立場に立って、政治過程の種差性を導きだす独立変数としての政策カテゴリーを探求するために、こうした基準を立てている。こうした基準を一定クリアする政策類型が考察し得たら、それを枠組みに公共政策の比較研究を行うことによって政治過程の理解の深化はなされるだろう、というわけである。したがって、この基準は政策内容の分類基準であるが、政治過程のパターン抽出型のモデルを見る際には、フローマンの「政策」の語を「政治過程の事例」に読み替えれば、政策規定説に立たないモデルも含めて政策過程モデル一般を検討する際に流用可能であろう。
さて、この基準に照らしながら上述の各モデルの政策類型を検討してみよう。ただし、過程のパターン抽出型のモデルについては、類型は過程の種差性を説明するための独立変数というわけではない。したがってフローマンの言う意味での「関連性」はもとより期待されていない。
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