佐藤満HomePage] [「政策科学と政治過程論」目次

政策類型により異なる政治行動

=複数の政策過程


 サバティールによれば、ロウィの、政策の類型により政治行動は区別されるという議論が、おそらく過去20年の公共政策研究の中で政治学にはもっとも大きな影響を与えたものであった。筆者の判断でも、サバティールの上げている5点のうち、政治過程論が政策過程の視点を獲得して行くに当たって、最も重要な役割を果たしたのはロウィの研究である。
 ロウィの議論(Lowi1964(6)の持っていた意味をラニーは、端的に独立変数と従属変数の逆転と語っている。ラニーによれば、従来の政治過程論では「政策内容、もしくは『政府の出力』は従属変数であり、研究者は政府の出力の多様性を、圧力集団と政府機関のあいだの権力の配分のあり方とか、政治的アクターの戦術、技量などの独立変数により説明しようとして来た。だから、まず主要な利益集団やアクターを決め、その目的、技術、支持、反対、相互作用を分析し、彼らの権威筋に対する影響力を見定めて来たのである。こうして、政治システムにおける権力の配分を決める諸要素についての一般化を可能にするような材料を蓄積して来たのである・・・。」ロウィの主張は、ラニーによれば「従来の説明の関係を逆転させれば、我々の政策過程に対する理解をはるかに豊かなものにすることができる」というものであった。すなわち、「内容を独立変数とすることで、異なった政策内容が政策形成過程に異なった影響を与えていることを観察する(Ranney, p.14)」ということを提案するものだったのである。
 このロウィの主張は、ラニーの言うように政策内容の研究そのものが目的ではなく、従来の政治過程論の主たる関心であるところの政治過程の理解のために政策を見る、ということであるから、根本的に対象を切り替えたわけではなく、あくまで政治過程研究の枠内に留まるものである。しかし、そうであるがゆえによけいに、政治過程論へのインパクトが大きかったのである。政治過程そのものの理解を深化させるために政策への言及が不可欠である、という主張が政治過程の研究者自身の手によってなされた、という意味を持っていたからである。
 ロウィ以降、政治過程論においては、政策を従属変数として軽視することができなくなったといえるであろう。平板で抽象的な「政治過程」が具体性を持つ政策領域ごとの複数の「政策過程」の集合するものとして認識されて来ることで、これまでに述べて来たような政策内容に関する知識を要求する新たな研究のあり方が提案されるようになったのだといえる。

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