吉田友彦研究室

国内研究の紹介
国内を対象に行った研究の紹介をしています。

京都の都心変容

 京都における2016年以降の簡易宿所の増加は、旅館業法の設置基準の緩和と明らかな関係があります。編著書『City, Public Value, and Capitalism』では、京都市の2007年の景観条例による高さ規制強化に続く、この旅館業法の規制緩和が京都にジェントリフィケーションの2つの波をもたらしたことを論じました。この本はノースウエスタン大学図書館刊行の英語図書として出版しました。特に下図により、京都では2015年までに前段的な高齢者の減少があり、簡易宿所の急増が2016年以降に発生したと論じています。

図 京都の簡易宿所の増加と高齢者の減少
(左:2005-2015年の高齢者の減少、右:2016年以降の簡易宿所の増加(緑) )

<公刊論文>
・Tomohiko YOSHIDA. 2022. Policis That Trigger the Gentrification in Kyoto City. City, Public Value, and Capitalism -New Urban Visions and Public Strategies-.  Northwestern University Library Press, 2022/07

空き地はどこにあるか
Map of Vacant Subdivisions in Japan

 この地図は、日本のシュリンキングシティ研究を促進し貢献するために、吉田が2015年に作成したものです。 各地点には、都市計画区域の区分、敷地面積、倉庫やあずまや等を除いた建物数、ヘクタールあたりの建物密度などの情報があります。吉田は、こうした住宅地群を「未成住宅地」と呼んでいます。赤い大きなドットほど建物密度が低く、小さなドットほど建物密度が高いことを示します。 つまり、大きなドットを見れば放棄された住宅地を見出すことができます。

This map was made in 2015 by Yoshida in order to promote and contribute for studies on "Shrinking Cities"in Japan. Each point has information about types of city planning area, number of built-up lots, and lots per hectare etc. Points of large dot size show lower density of houses and that of small size means higher density. The large red points mean that thre are more vacant and abandoned lots in the subdivisions.

空き家はどこにあるか

 住宅総数に対する空き家の割合の地理的な状況が、案外、語られることがないようなので、地道な作業でしたがGISで分布状況の分析を行いました。住宅・土地統計調査では戸建ての未利用空き家の多くが「その他」と分類され、共同住宅の多くが「賃貸用」に分類されています。下の図はその総数、未利用、賃貸用の別に分布状況を近畿圏で見たものです。この結果は、はっきりとした傾向が見られました。戸建て空き家は大都市圏の縁辺部に、賃貸用空き家は大都市部に多いということです。
 査読付きには発表できませんでしたが、この論文で都市住宅学会の「論説賞」をいただきました。


図 近畿圏における空き家の分布状況
(左:総数、中央:その他(未利用)、右:賃貸用 )
(住宅・土地統計調査2018)

<公刊論文>
・Tomohiko YOSHIDA"The Shrinkage of Local Areas in Japan through an Analysis of Vacant Dwellings International Conference of Leading Universities in Asian Studies "The Challenges and Prospects for Urban and Regional Studies on Asia", 2017/02/24
・吉田友彦「近畿圏における賃貸用空き家の立地と政策の方向性」2016年度日本建築学会大会建築社会システム部門研究協議会資料集「民間空き家等の住宅市場を活用した居住政策を考える」、2016/08
・吉田友彦「近畿圏における空き家問題の現状と課題」『市政研究』大阪市政調査会183号、pp.18-27、2014/04
・吉田友彦「空き家問題から考える都市縮小」『建築とまちづくり』422号、pp.6-9、2013/09
吉田友彦「空き家問題・空き家対策の現状と課題」都市住宅学80号、pp.4-7、2013/01

理想の郊外探し

 理想の郊外とは何か?持続可能な郊外とは何か?こうしたクエスチョンの下で滋賀県湖東地域の住宅地をいろいろと調査しています。近江八幡市を事例としてみると、人口ピラミッドでどの年齢層も一様に存在する地区や特定の年齢層に集中する地区など色々な地区があることがわかりました。理想的なのは下図の真ん中の人口構成ではないかと考えています。

下図は年齢を5歳刻みにした時の各コーホートの人口数を、いわゆる「所得」と読み替えて「ジニ係数」を計算した図です。青いところは年齢構成のバランスが取れた地区です。赤の部分は人口構成に偏りがある地区です。こうした年齢構成が一様な住宅地は旧農村に近いものの、交通上有利な場所にあり、都市部に通勤する若年層をうまく吸収している地区だと言えます。研究の結果、大きく見て、同姓集団が多い旧農村的な地区と、畑地をうまく開発して新規住民を誘致している小規模開発地区の2つのパターンがあることがわかりました。まだら状に分布するこれらの人口分布は全体として地域一帯の世代間の持続性を高めているのだとも考えられます。

<公刊論文>
・吉田友彦・齋藤雪彦「国勢調査小地域人口の年齢バランス別分析からみる集落の特徴 琵琶湖東部湖岸域を事例として」『政策科学』立命館大学政策科学会、22巻1号、pp.11-22、2014/10
・吉田友彦「人口構造からみる小地域の持続可能性評価法の試論 琵琶湖東部湖岸域を事例として」土地総合研究、21巻4号、pp.21-27、2013/11
・吉田友彦「ジニ係数による国勢調査小地域の人口構造の類型化とその特徴 琵琶湖東部湖岸域を事例として」 『政策科学』立命館大学政策科学会、21巻1号、pp.49-55、2013/10

親子近居の政策化

 小さな子どもを持つ核家族(子世帯)とその親の世代(親世帯または祖父母世帯)がそれぞれ近居を志向する傾向を考慮して、特に郊外地域の衰退傾向に歯止めをかけるための政策にできないか、という研究です。
 京都市の郊外で新規建設された住宅の居住者を対象としてアンケート調査を行い、「30分」の近居状況を尋ねたところ、なんと53.1%の世帯において近居がなされていました。世帯構成を見ると、子世帯「夫側」の祖父母の家のそばに転入することにより親子近居が実現されていました。
 また、「共稼ぎ」かどうかが子夫婦の近居志向の強い背景となっていることを指摘しました。親子近居現象はその後広く認知され、住宅金融支援機構やUR都市再生機構の政策メニューとして採用されました。適切な方向性だと思いますが、もっと特定の地域への転入を推進するように限定しないと、単なるバラマキに終わってしまうのではないか、と危惧しています。

図 子世帯の共稼ぎと近居の有無

<公刊論文>
・Yoshida, T.(2020) Factors Affecting Close Proximity of Older Parents and their Adult Children in Japan, Academic Bulletin of the Asia-Japan Research Institute of Ritsumeikan University(査読付), Vol.1, pp.1-13
・吉田友彦「大都市縁辺部の戸建て住宅需要層にみる親子近居の特性 京都市を事例として」日本建築学会住宅系研究報告会論文集(査読付)、Vol.7、pp.201-206、2012/12
・吉田友彦「郊外における居住地選択の新しい様相 親子近居に着目して」、日本建築学会大会パネルディスカッション資料『スマートシュリンクと空間管理』、pp.33-36、2011/08
・吉田友彦「親子近居の特性からみる郊外住宅地の持続可能性」、日本建築学会大会特別研究部門研究協議会資料『計画的住宅地は持続可能か』、pp.47-50、2011/08

京都の中古住宅市場

 立命館大学政策科学研究科は京都市景観まちづくりセンターに大学院生を派遣し、研究活動を行うと共に地域貢献の方策を模索しています。中古住宅、京町家、再建築不可住宅など多面的に研究を行っています。京都市周辺における世帯の分布量です。世帯の分布ですから、住宅の分布量とも関連しています。濃い部分、つまり密集が見られるエリアは、近世までに市街化した部分とほぼ一致します。ひときわ濃く見えるのは、上・中・下京区の都心三区と伏見城下町のエリアです。桂川沿いは低湿かつ、工業系の用途地域に指定されていることもあり、住居系の利用が少ないことがわかります。
 秀吉は伏見城や伏見街道をつくり、中世京都と伏見を一体化させました。これは宇治川から大坂と京都をつなぐという壮大な構想を実現させるためだったわけですが、単なる武将の気まぐれに終わることなく、現代にまで受け継がれている現状を見ると、その普遍的な都市計画的視点に感嘆させられます。

 下の右図は古代京都の都市域と明治末の京都の状況を重ね合わせたものです。もちろん、時代はかなり飛んでいるわけですが、いわゆる右京が「低湿」ということがよくわかる図です。さらに、左図は昭和10年に起きた大洪水の範囲を示しています。桂川沿いに広大な浸水域があることがわかります。これらの2つの図により平安京の右京が低湿だったということが、具体的に想像できます(もちろん、地図の時代はかなり離れているのですが)。

 下図は1997年時点の袋路住宅地の分布図です。聚楽第のあった上京区の二条城北西部や下京に多いことがわかります。こういうところではいわゆる非接道住宅が多いので、再建築不可の住宅が賃貸住宅化して残っています。あるいは空き地になっているところもあります。昔調べたものが今どうなっているのか?関心のあるところです(図は谷山拓也氏作成)。

 こうした歴史的経緯を含めて、現代的な住宅市場のあり方を検討したのが、上記のディスカッションペーパーシリーズです。下の左図は中古分譲マンションの平米あたり単価で、右図が中古戸建て住宅の平米あたり単価です。いずれも中古住宅を分析したもので、高く取引されているものほど大きな円で示されています。これを見ると、中古マンションは都心で、中古戸建ては三山のふもとで高価に取り引されていることがわかります。総じて、以下の図のように要約できるだろうと結論付けています。単価の高いエリアが太い線で、供給されているエリアが細い線で描かれています。

<公刊論文>
・吉田友彦・上北恭史「歴史都市における建築基準法上の再建築不可住宅の特徴 京都市における短期的追跡調査から」日本建築学会近畿支部研究報告集58、pp.421-424、2018年6月
・吉田友彦「京都市における新規住宅供給の立地特性 国勢調査および住宅着工統計の分析から」2009年6月、立命館大学政策科学部ディスカッションペーパーシリーズ
・吉田友彦「京都市における中古持ち家住宅の新規供給の立地特性  ファミリー層向け住宅を対象として 」、2009年8月、立命館大学政策科学部ディスカッションペーパーシリーズ

郊外住宅地への転入層

 国土交通省国土政策技術研究所からの受託研究です。2005年度は空き地や空き家の実態を外観目視調査で調べました。2006年度はアンケート調査により、入居後の年数や世帯の家族構成を調べました。下図は横軸が入居年次(右ほど新しい)、縦軸が年齢別世帯数割合です。黒色が50歳代の世帯主でそれより上が60歳代、70歳代の世帯主を示します。右下の三角形部分が若年転入層ということになります。高齢化が進む中にも若年層がわずかに転入しているということを示しています。若年転入層は比較的近所に職業を持ち、部屋数の多い家を選んで入居してきています。車の台数が多いのも特徴でした。これにより、高齢化した郊外住宅地により多くの若年層を誘致するためのリフォームの方法などを地元自治会に提言しました。

 この受託研究に先行して埼玉県で独自に調べた調査では、借家率(青い線)が減少傾向を見せると同時に、空家率(赤い点)が上昇していくことが確認されました。郊外住宅地には空き家と借家のトレードオフ関係があるのです。(図は西廣大輔氏作成)千葉県を事例としてひたすら空き家を見に行きました。調査の結果を地元自治会の会合で発表しました。2007年6月木更津の郊外団地にて。

 

<公刊論文>
・吉田友彦・大見一裕・小山雄資・長谷川洋「郊外戸建て住宅地における不動産の相続意向に関する研究」2008年9月、日本建築学会大会学術講演会梗概集オーガナイズドセッション
・吉田友彦・長谷川洋・小山雄資「郊外戸建て住宅地における新規転入層の特徴 -千葉県木更津市を事例として-」、2007年11月、都市計画学会論文集第42-3集
・西廣大輔・小山雄資・吉田友彦「郊外戸建住宅団地における空家の借家歴に関する研究」、2005年11月、都市住宅学
<受託研究>
・木更津市における郊外戸建て住宅地の再生・再編のための実態把握等調査業務、2005-2006年度(財)国土技術研究センター

放棄された住宅地

 これも国土交通省土地関係研究者育成支援事業という助成金を得て行った研究ですが、未成住宅地の研究とはやや別のものです。全く住宅のない住宅地で樹木がはえているものを探し出して、「放棄住宅地」と命名しました。これもどのような用語で捉えるべきかという概念規定がないため、筆者が自分で命名したものです。全く住宅の建っていない住宅地が千葉県には少なくとも11箇所あることがわかりました。主に成田空港への高速道路沿いにあることがわかりました。こうした放棄住宅地は都市計画的にはよくコントロールされていますが、都市計画区域外の自治体においてよく把握されていないという実態があります。自治体もこのような住宅地があるということを知らない可能性があります。

 まったく家のない住宅地。電柱だけが不気味に林立しているが、そのほかは雑草だけです。竹林となった住宅地。分筆もされていないところがあり、区画だけが整備されています。こういう住宅地は将来、山にかえっていくのでしょう。私はこのことを「林地回帰」と命名しました。

 

<公刊論文>
・吉田友彦、齋藤雪彦「放棄住宅地の立地と土地所有構造分析」、 2005年11月、都市計画学会論文集第40集
・吉田友彦、齋藤雪彦「都市近郊集落域における地域住民の就業構造に関する基礎的研究 千葉県大栄町X集落を事例として」2006年11月、日本建築学会計画系論文集第609集
<助成事業>
・吉田友彦・齋藤雪彦「首都圏郊外部における放棄住宅地の環境管理に関する基礎的研究」2005年度、国土交通省土地関係研究者育成支援事業
・吉田友彦「首都圏郊外部における放棄住宅地の環境管理に関する基礎的研究」2004年度、日本学術振興会科学研究費補助金

「未だ成らず」:郊外の未成住宅地

 2001年度の国土交通省土地関係研究者育成支援事業に助成してもらいながら行った研究です。いつまで経っても空き地の目立つ住宅地を「未成住宅地」とし、それらが都市周辺にどのように立地しているかを調べた研究です。主に筑波研究学園都市周辺の旧住宅地造成事業地区に多いことがわかりました。旧住宅地造成事業とは開発許可制度ができる前の制度で開発指針のスペックがやや劣ったものになっていて、比較的安価な住宅地が形成されているといえます。いつまで経っても埋まらない住宅地はそれを専門的に表現する用語がありませんでした。「未成住宅地」というのは筆者の造語です。不在地主ごとに雑草管理が任されているので、飛び飛びに荒地が発生します。この研究で日本建築学会奨励賞と日本不動産学会著作賞をいただきました。

 

<公刊論文等>
・『都市の空閑地・空き家を考える』(浅見泰司編)プログレス、pp.90-102、2014年9月
・旧住宅地造成事業による首都圏北東地域の開発過程、2005年1月、日本建築学会計画系論文集第587集
・旧住宅地造成事業による未成住宅地の土地所有構造つくば市SR地区を事例として、2003年11月、日本建築学会計画系論文集第573集
<助成事業>
・旧住宅地造成事業地区およびその周辺農地における空間の粗放化に関する研究茨城県つくば市域を事例として、2001年度、国土交通省土地関係研究者育成支援事業
<共著者>
吉田友彦、齋藤雪彦、高梨正彦

積水ハウス(株)との共同研究会

積水ハウスの総合住宅研究所内にあるNPO西山文庫では、積水ハウス総合住宅研究所スタッフとともに定期的に公開研究会を開催しています。研究会の名称は「人とすまいと社会を考える研究部会」といいます。この研究会に定期的に参加しています。

NPO西山文庫のHP

宅地と農地の混在をどう考えるか

 まちは大きく農業向け基盤整備と宅地向け基盤整備に分かれます。耕地整理、土地改良は農地向け、区画整理は宅地向けです。これらの都市基盤整備事業は住宅地の形成に大きな影響を与えています。日本のまちなか(市街化区域)の4分の1が区画整理でできています。この研究により、市街化区域内の土地改良事業が、区画整理事業地区よりも比較的安価で狭あいな土地を供給していることがわかりました。図は、愛知県内における土地改良事業地区(灰色)と区画整理事業地区(黒色)を示します。

<公刊論文>
・「市街化区域内土地改良事業地区における住宅建設の特徴と制御の方向性愛知県豊川市を事例として」2001年1月 、日本建築学会計画系論文集第539集
・「愛知県における市街化区域内土地改良事業地区の発生状況」2000年1月、日本建築学会計画系論文集第527集
<共著者>
吉田友彦、熊谷雄、奥部雪絵、三宅醇

コリアタウンの変容

 大阪鶴橋、京都東九条、新宿新大久保は都市計画的にどのような位置付けにあるのか。コリアタウンの変容を16年以上継続的に定点観測として調査研究しています。追跡調査を含めた結果が、共著『躍動するコミュニティ マイノリティの可能性を探る』として、2008年10月に晃洋書房から出版されています。同じ立命館大学のリムボン先生編集による著作です。

リムボン・東自由里・大津留(北川)智恵子・出口剛司・吉田友彦 著 、晃洋書房 、2008年10月

 この本でも取り上げているのが、大阪市生野区と新宿区新大久保地区です。とりわけ、大阪市生野区にある御幸通商店街は、筆者が研究者として最初に一人で飛び込んだフィールドでした。研究方法を一人で考え、実践したいわば青春の地です。「血と骨」「パッチギ」の世界が展開されている現状を目の当たりにしました。

<公刊論文>
・「在日韓国・朝鮮人集住地区における近隣商店街の変容に関する研究 -大阪市M商店街1995年調査との比較分析から-」2007年12月、都市計画報告集
・「建物登記からみる新宿区職安通り地区の韓国系商店の特徴」2005年11月、都市住宅学
・『地域共生のまちづくり 生活空間計画学の現代的展開』「3・2節 外国人集住地区のまちづくりの計画学的考察」1998年、学芸出版社
・「在日韓国・朝鮮人集住地区における居住アイデンティティの表現に関する研究」1996年11月、都市計画論文集第31集
・「社会資本整備過程から見る在日韓国・朝鮮人集住環境の特性」1995年10月、都市計画論文集第30集
・「鴨川スクォッター地区の住環境整備とNGOの役割」1993年10月、都市計画論文集第28集
<論文の共著者>
吉田友彦、東樋口護、リムボン、安藤元夫、三村浩史

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