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小迫裕之/制作技術センター 副部長 講師:小迫裕之/制作技術センター 副部長

小迫裕之/制作技術センター 副部長小迫裕之/制作技術センター 副部長小迫裕之/制作技術センター 副部長

記者紹介

記者 建井優佳 立命館大学産業社会学部
現代社会学科
現代社会専攻

D-PLUS
クリエイティブチーム
3回生 建井優佳
5月30日(金)

第7回 カメラマンの視点から

 第七回のNHK講座では制作技術センター副部長の小迫裕之さんをお迎えした。自然番組を中心としたドキュメンタリーを撮影する小迫さんには、カメラマンの視点からドキュメンタリーとは何なのか、カメラマンが持つ極意についてお話しいただいた。

講義概要

 大学では機械工学科に所属しており、現在はNHKカメラマン。NHKの中でも珍しい経歴を持つ小迫さんは、カメラマンが目指すべきところについて撮影の裏話などを織り交ぜつつほがらかに話し始めた。
 小迫さんは初めにNHKカメラマンの仕事の種類について紹介した。ニュースなどを含む「報道」、海外に出張する規模の大きなものから地方取材も含む「中継」、そして小迫さんが所属する「番組」と大きく3つに分類される。番組といってもさらに細かく「ドラマ」「音楽番組」「ドキュメンタリー」の3つに分けられる。小迫さんが所属する部署の半数のカメラマンがドキュメンタリーに関わっており、ドキュメンタリーの撮影規模の大きさが窺い知れる。ドキュメンタリーに関わっているスタッフが多いのは、音楽やドラマ以外の自然番組や福祉番組などあらゆるジャンルを取り扱っていることと、スタジオでの撮影より取材現場へ出かけていくことが多いことが関係しているそうだ。
 NHKでは「NHKアーカイブス」といって過去の映像コンテンツを放送する番組がある。その番組で放送されるもののほとんどがドキュメンタリーであり、過去に作られた『良い』作品というのは今放送されても見るべき意味のあるものだという。小迫さんがドキュメンタリーを撮影する中で目指しているものとは、そのように何十年先もずっと残っていくものだと話す。
 次に小迫さんは入局してすぐに自身が制作に関わった「映像詩 里山」について紹介した。カメラマンの仕事とはどういうものかについて学んだ番組であったと話す。およそ20年前、里山というものが環境問題を解決するひとつの糸口になると考え、視聴者に伝えたいという番組製作者の強い思いがこもった番組であった。しかし映像で表現していくことの難しさを小迫さんは感じていた。というのも映像を見ることで伝わる、人と自然が共存するすばらしい環境などを文章に書き起こし、企画から放送まで結びつけるのは困難を極めた。カメラマンとは対象を撮影するだけの仕事ではないことを学び、一つの企画を放送ができるまで形にしていくことの大切さ、楽しさを知ったという。
 表面的なストーリーだけでなくそのカットにどういった意味を持たせるのか、映像一つ一つにカメラマンのこだわりがある。人の心を動かすような映像というものは、カメラマンとしての経験以上に、そのような強い思いや自身の考え方、思想が土台にあることで深みがうまれるという。
 続いて、3.11後の震災番組「孤立集落 どっこい生きる」を取り上げた。被災地や被災者をどのようにカメラで撮影していいのか苦悩する中、小迫さんは自分が撮るべきだと思ったものを撮影していったという。というのも被災者の方から「孤立している状況をちゃんととってくれ」という激励をいただき、撮影に協力してくれた人達の役に立つような、撮影される人にもプラスになる映像を一番に心掛けたそうだ。
 カメラマンの仕事は世の中に貢献していて尊敬もしているが、カメラマンという仕事でなくても世の中に役立つ仕事はたくさんある。どのような仕事でも社会と関わっていくことを意識することが重要だ、と講義を締めた。

感想

 ドキュメンタリーに対して視聴者がもつ印象というものは各々違うと思うが、私は「重たい」という印象があった。ドキュメンタリーといえば一人の人物に焦点をあて、その人の内面的葛藤と社会との関わり方を描いていくイメージがあり、心にささるものという印象だった。取り扱う題材が福祉であれ自然であれ科学であれ、どの部分を切り取っても人の心に訴えかけてくるものだとぼんやりと認識していた。小迫さんのお話をお聞きして、シーンの一つ一つにカメラマンの強い思い入れがあることを知り、心を揺さぶられる理由について少なからず納得することができた。ドキュメンタリーは私たちの日常生活を改めて振り返らせ、新たな視点で社会問題に切り込んでいく。そのうえ、知らない世界を魅せてくれるドキュメンタリーは常に新鮮な楽しさを提供してくれる。今後も注目をして見続けたい。

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