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中谷日出/解説委員室解説主幹 講師:中谷日出/解説委員室解説主幹

中谷日出/解説委員室解説主幹中谷日出/解説委員室解説主幹中谷日出/解説委員室解説主幹

記者紹介

記者 山田佳樹
立命館大学映像学部

受講生記者
2回生 山田佳樹
6月6日(金)

第9回 企画力とプレゼンテーション術

 第九回 NHK講座は、NHK解説委員室解説主幹である中谷日出さんをお迎えした。NHKロゴマーク「3つのたまご」のデザインをはじめ、グッドデザイン賞の選定委員もつとめており、そのご活躍は多岐に渡っている。今回は、ご自身の体験を交えながら、日ごろの学生生活や就職活動にも応用可能なエッセンスを織り込みつつ、「企画力とプレゼンテーション術」と題するお話を伺った。デザインに必要な想像力はいったいどこから湧き上がってくるのか。また自分の作品にこめた思いをどのように人に伝えればいいのだろうか。

講義概要

 中谷さんは高校卒業後、美容師の道に進んだ。その傍ら大学で芸術を学び、美容院では店長を任されるほど腕を磨いたものの、大学卒業後に転身、デザイン会社を設立することとなる。経営も軌道に乗り、非常に順調であった。しかしある日、中谷さんは人生を変える出会いを得た。それがNHKの『驚異の小宇宙 人体』という、コンピュータ・グラフィックスを使った番組である。「自分のやりたいことはこれしかない」と決心し、その翌日に従業員全員の前で辞職宣言をしたというから驚きである。

 そうしてNHKに照準を合わせた中谷さんであるが、残念ながらNHKは中途採用を行っていなかった。万事休すかと思いきや、幸運なことにその年からキャリア採用が制度化された。中谷さんはその激しい競争を勝ち抜き、晴れてキャリア採用で入局することとなった。他にはない決断の速さと確固たる意志が、己の本当に望む道を切り拓いていったのだろう。

  NHK入局当初は、大道具の手伝いなど、希望とは全く違う仕事を任されていたことに不満を抱いていた中谷さん。そんな時マサチューセッツ工科大学(MIT)への派遣が決まる。アメリカで当時最先端のCG技術を学んで帰国したところで、とうとう念願のCG番組「NHKスペシャル~驚異の小宇宙 人体II 脳と心」の制作に関わった。
  この目標にひた走っていた彼は、次の目標を見失ってしまった。そうして次の"やりたいこと"を探していた中谷さんの目の前に現れたのが、「NHK70周年記念プロジェクト」であった。仕事を「受注する」(言われたままに言われたものを制作する)のではなく、「造注する」(自ら仕事を考え、作り出す)ことを第一としている中谷さんは、まだ何をするか決まっていなかったこのプロジェクトに対し、一週間でA3用紙18ページの企画書を持参し、「ネクストテン」と題するプレゼンを行った。これが、あの有名な「3つのたまご」のロゴマーク誕生につながるのである。中谷さんの提案は、「これからのNHKを変えていきたい」というコンセプトのもと、NHKのイメージ戦略が中心になっていた。しかし、当時は反対意見も非常に多く、理不尽な評価を下されることも多かったという。「歴史ある中で、新たなことを始めるときは必ずネガティブな反応があるもので、プレゼンをするときはそれを覚悟しないといけない。しかし、20回、30回とプレゼンを行えば、必ず物事は少しずつ変わってくる。これが若いクリエイターたちに道を作り、今のNHKがある。だからこそ、何事もチャレンジし、やり続けることが大切だ」と、中谷さんは語った。

 続いて発想法とプレゼンテーション術をご教授いただいた。中谷さんの場合はまず、徹底的にリサーチする。そして企画書は全部手書きである。手書きにすることによって、脳に送り込む情報量が飛躍的に増加し、確実に頭に入るようになる。その次はストーリーだ。「NHK70周年記念プロジェクト」においては、NHKがこれから先どうなっていくかというストーリーを5パターン提示した。大成功/成功/普通/失敗/大失敗、といった具合である。そのストーリー性によって着地点が明確となり、今後のプレゼンがうまくいくようになった。実際、経営者は確実性を重視した結果、「大成功」ではなく、二番目の「成功」ストーリー選んだ。プレゼンテーターは選択肢を示すことが非常に大事である。

  最後に、パーソナルアイデンティティ(PI)について伺った。現在・過去・未来、皆それぞれ、強みと弱みがある。PIは過去を整理して、未来を変えていく。自身より優秀な解説委員もクリエイターもいるだろうが、それはそれである。オンリーワンが何よりも大切である。確実に世の中に出るとしたら、オンリーワンを一個つくるのだ。たとえば、中谷さんは伝書鳩に詳しかったことで、ある会社の会長さんと大変話が弾み、非常に良い結果となったそうだ。どういった所で、何がひっかかるかは誰にもわからない。自分が世界一になるとしたら何だろうか。そう私たちに問うて、中谷さんは講義を締めた。

感想

 私は日頃、映像を制作する活動をしているが、今回はプレゼンテーションということで、我々クリエイターに非常に資する内容を多く学び取れた。クリエイターの活動は即ちモノづくりである。日々、新しいものを作り出していく必要がある。それが誰も見たこともないものほど、その表現は輝きを増す。しかし、これにビジネスが関わってくると話は変わってくる。クライアントは確実性を求めるものである。そのため、過去に成功実績のある表現、形態に甘んじてしまうことが多々あるだろう。
「安定」と「確実な成功」を求めるクライアントに対して、新しいことを提案していくことがクリエイターには求められる。事実、中谷さんはNHKで新しいことをしようとした際、これでもかというほど周到に準備し、プレゼンテーションを重ね、納得させてきた。クリエイターが過去の焼き直しではないクリエイティブなものづくりをしていくにあたっては、今回の講義で学んだことは大いに資するだろう。ご教示いただいた様々なヒントを胸に、これからの活動に邁進していきたい。

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